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俺の異世界生活はこれで良い  作者: 脱出
第1章 中級冒険者は悪魔崇拝者と戦う
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第7話 中級冒険者は上級冒険者から悪魔召喚の依頼を受ける

よろしくお願いします。



「小生意気ツインテ後輩属性のサキュバスに『ざぁ~こ♡』と馬鹿にされて、冒険者としてのプライドを完全に破壊されつつも、同時に垣間見える母性に包まれたいのだよ」

「なんて?」


 とある高級レストランの一室。偉い人が会合とする部屋で俺はある男と向かい合っていた。

 上級冒険者『不敗』のオーラム。冒険者なら誰もが知っている英雄の一人。幾多の凶暴モンスターを討伐してきた男。既に結構な年齢のはずだが、衰えるどころか更に躍進を続ける大剣使い。

 『悪魔に詳しい冒険者に依頼を頼みたい』とのことで俺が抜擢された。

 かの英雄からの依頼ということで柄にもなくワクワクしていたのだが……


「えっと俺にサキュバスを召喚して欲しいと」

「左様。容姿はツインテールであれば好ましい。後輩属性があるとなお良い」

「それで? なに? 馬鹿にして欲しいと……」

「その通り。どこか愛らしさがありつつも腹ただしいと良い。こっちが手出しできないことを良いことに容赦なく言葉責めにしつつも、決定的な一線を超える罵倒をしない。私は怒りを感じながらも、同時に彼女への愛おしさをも感じずにはいられず、そのことに更に屈辱を味わいたい」

「さいですか」


 …………なんだこの会話。父上が蘇ったのかと思ったわ。


「あー。失礼かと思いますけど、何でそんなことを望むんですか?」


 依頼主にこんなことを聞くのはマナー違反だが流石に疑問が出る。(まだ依頼を受けるとは決まっていないが)


 オーラムは重々しく口を開く。威厳は全く感じない。


「吾輩は長く冒険者家業をしておる。これまで多くのモンスターや強敵と戦ってきたが、一度も負けたことがない」

「存じ上げております。故に『不敗』と呼ばれているのでしょう」

「……たまたま負けなかっただけだ。運が良かったのだと吾輩は思う。この世界には吾輩より強い者も、手強いモンスターがいる。それらとたまたま対峙してこなかっただけだ」

「その運も合わせて実力の内でしょう」

「気遣い感謝する。しかし今まで負け続けずで生きてきてしまった。故に恐ろしく思えてきたのだ。もし吾輩より強い敵と向き合った時、吾輩は戦えるのかと」

「……戦わなければ良いと思います」

「貴殿は良き冒険者だな。勝てない敵と分かって戦うのは勇敢とは言わん。しかし予感がするのだ。吾輩もいずれ格上の敵に挑まなければならないという予感が」

「その予感の根拠は?」

「勇者殿が次々とダンジョンを解放しているであろう? このままいけば長年放置されていたダンジョンにも挑むことになるだろう……。その時、我々が予想できなかった災厄と対峙することになる……。そんな予感がするのだ」

「なるほど」

「情けない話だよ。敗北したことがないからと、格上と対峙した時に体が動かないのではないのか、一度負けてしまえば永遠に心が折られてしまうのではないか、と不安になるのだ。ふっ、お化けを怖がる小童と変わらない」


 彼は自嘲気味に笑う。

 オーラムは上級冒険者。その中でも英雄と称されるほどの実力者だ。ゆえに周りからの期待も大きいのだろう。

 ……悪い意味で神格視していたのかもしれない。英雄だって不安になることだってあるのだ。その不安を拭う手助けができるのなら……


「……いや、でも何でサキュバス?」

「今のうちに敗北経験を積んでおきたい。しかし吾輩に勝てる相手もそうそういない。そこで負けるなら肉体の技ではなく、心で負けるべきだと思うのだ」

「はぁ。自分で言いますか」

「冒険者としての長年のプライドをへし折ってもらい、その上で再起することで吾輩は敗北を恐れなくなると考えた」

「そっすか」

「……そこで小生意気ツインテ後輩属性のサキュバスに『ざぁ~こ♡』と馬鹿にされて、冒険者としてのプライドを完全に破壊されたい。同時に垣間見える母性に包まれたいのだよ」

「何でだよ!! つーか最後の母性云々は関係ないじゃないですか!」

「ついでだし癒されたい」

「そっちが本音じゃねぇか!!」

 

 俺は敬語も忘れて突っ込んだ。

 

 ハァと息を突いて一度水を飲む。


「……依頼は受けても良いですよ」


 ……俺が断ったら他のとこ行きそうだもんな。周りの迷惑になる前に俺が片付けようと思った。あー、俺ってば健気。


「本当か? 感謝する!」

「ただ条件もあります。まず悪魔召喚にかかる費用は、呼ぶ悪魔の個体によって上下します。その費用も後ほど請求させてもらいます」

「大丈夫だ」

「費用については後ほど見積もりして渡しますよ。あとサキュバスを呼べることはまだ確約できません。『召喚管理機関』についてはご存知ですよね?」

「ああ。召喚術についての審査を行う機関であろう。この機関から許し無しの召喚は禁止されておる」

「基本的に『中級以上のモンスターの召喚』については全て届け出が必要です。悪魔は全て中級分類。サキュバス召喚も同様です。機関に申請して許可証をもらう必要がある」

「存じておる。それについてもお主の知恵を借りたいのだ」

「……申請書には用途についても細かく書かなければなりません。アナタの名前もですよ……抵抗ありません?」

「ふっ。吾輩は一向にかまわん!!」


 ドンッという効果音と共に言い切る。

 全然カッコよくない。


「前もって吾輩の方でも申請書を書いてきたのだ! 貴殿に渡そう! これを元に報告書を作成して欲しい!」


 と一枚の紙を渡される。そこには丁寧な言葉で「サキュバスに馬鹿にされたい」旨がつらつらと書かれていた。

 地獄みてぇな申請書だな……。

 

「相手のサキュバスの意向も聞く必要があります。相手側の悪魔がアナタを拒否する場合もありますからね」

「問題ない。無理強いは良くないからな」


 紳士ぶっても意味ないと思う。


「時間もかかりますよ。最低でも一ヶ月はかかります」

「元々この街に暫くは滞在するつもりだった。問題ない。よろしく頼むぞ、ギーク殿!!」


 細々とした確認作業が終わり、依頼は仮契約となった。

 ……俺は異世界まで来て何やってんだろうな……。



 ちなみにだが。帰宅後、俺の契約悪魔のアグリに「オッサンを罵倒してくれないか?」と頼んでみた。アグリは暫く考えた後、言った。


「ご主人以外の人を馬鹿にするのは気が引けますね」


 どういう意味だよ。


読んでいただきありがとうございます。

次回は悪魔召喚についての話になります。

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