第5話 中級冒険者は日々を過ごす
よろしくお願いします。
新しい章になります。
10話前後で完結する話になります。
「勇者一行がダンジョン『ナムアの神殿』を解放……ですって、ご主人」
「はぁ。すげぇな」
俺とアグリはギルドの掲示板を眺めていた。昨今の情勢や冒険者の活躍が書かれているが、今は勇者の話題で持ち切りだった。
「先月も別ダンジョンを解放したばかりでしたよねぇ。それに比べてウチのご主人は……冴えねーって感じです」
「溜息をつくな、傷つくから。俺だって最近表彰されたばかりだぞ。『任務安全貢献賞』。この前書き上げた『スライム討伐心得』が評価されたんだぞ」
「ご立派ですけど。勇者と比べると微妙です」
「それは仕方がないだろ。影響力が俺とは比べものにならん」
勇者とは特別な力を持った冒険者に与えられる称号である。この称号が授与されたのは百年ぶりらしい。そして今代の勇者もその名に恥じぬ働きをして、多くの偉業を成し遂げている。
ダンジョン解放もその一つだ。ダンジョンは『ダンジョンボス』と呼ばれる強力なモンスターが支配する地域のことを指す。ダンジョンボスが与える影響力で周囲のモンスターが集まり、独特な生態環境を作り出す。人を寄せ付けない魔境と化し、攻略は困難とされている。
しかし勇者は今年で既に二つのダンジョンを解放した。ダンジョンボスを倒し、モンスターの支配から土地を解放する。
「勇者のお陰で他の冒険者の仕事も増える。そんな影響力、俺にはない」
勇者がダンジョンを解放したお陰で常に依頼が舞い込んでいる状況だ。
新しく解放された土地を開拓するのに人手が必要だからだ。残ったモンスターを討伐し、土地にある危険性を排除する開拓作業に冒険者は駆り出さされる。商人もひっきりなしに集まるので護衛の任務も需要がある。
「ご主人は実はスゴイ人なんですから、前線に行ってバンバン活躍してほしいです。と煽てても良いのですが……やめておきましょう」
「素直に煽ててくれ。俺は褒められると伸びるタイプだから」
「ハイハイ。じゃあまずは今日のお仕事を頑張りましょうね」
「せやな」
と会話をしつつ受付へと向かう。
勇者の影響で冒険者家業も変化が起きている。しかし環境がどれだけ変わろうとも日々の仕事をしなければならない。
俺が拠点としている都市『リューベン』のギルドは大きい。またこの好景気もあって依頼の数も多い。
今日の依頼はモンスター退治だった。下級モンスター『イビルラビット』が群がり、商人たちが別の街へと進めずにいるらしい。
「へいへーい。ここまで来てみろ、兎ども!」
そういう訳で俺は草原を走っている。後ろからは大量のイビルラビットたち。
イビルラビットは名前の通り兎の容姿をしているが、下級モンスターにしては高い魔法能力を有している。また常に群れで行動するので、囲まれた場合は中級冒険者でも苦戦を強いられる。
道を塞ぐラビット達を見つけた俺はまず『火球』をぶち込んだ。
怒らせてしまえばこっちのもの。追いかけて来る兎たちに俺は背を向け走る。
「ご主人―。 こっちです」
森の中に入った所でアグリが手を振るのが見えた。アグリが指し示す洞窟へと入る。
洞窟の行き止まりまで進む。ラビット達は獲物を追い詰めた高揚感で叫び、まさに魔法を唱えようとした。
しかし魔法は不発だった。ラビット達は不思議そうに周りを見回す。
魔法を放つには元となるエネルギー、魔力が必要となる。全ての生命体や自然物が持つエネルギーだが個人差もあり、イビルラビットにはほとんど魔力がない。魔力を蓄えられない性質で、周囲の自然から魔力を吸い魔法を放つ。
そこで俺は周囲の魔力量が少ない場所へラビット達を誘い込んだわけだ。魔力量に敏感なアグリが見つけた、この洞窟で一網打尽にする計画だった。
ラビット達も危機を悟り逃げようとするが、退路は既にアグリが塞いでいる。
ラビット達は再び俺を見つめる。その瞳は潤んでいた。
「じゃ、ま。そういうわけでね」
モンスターに同情心を抱くことはない。そんな隙を見せたら一瞬でやられるからね。
俺は剣で一匹ずつ処理していく。
俺の異世界生活は今日もこんな調子だった。
読んでいただきありがとうございます。