第3話 中級冒険者に至るまで~進路を考える~
王都から離れた田舎町へと引っ越し、レギオスは小さな一軒家を買った。
そして俺とレギオスは向かい合って座り、俺の人生についての話し合いを始めた。
「我が息子ギークよ。『労働』についてどう思う?」
「恐ろしいですね。正直言うと働きたくないです」
と率直な意見を言う。前世の俺にとってのイメージはまさに『社会が怖い!』だった。一度レールを踏み外せば二度と這いあがれない。恐怖を押し殺して必死に働いていた前世だった……気がする。
「……分かるぞ」
俺の答えにレギオスは頷く。
分かるんかい。
「私は労働――ひいては社会が苦手だ。人に過大な責任を負わせ、寛容性のかけらもない。社会の歯車に加われない人間は容赦なく……そう、私を責め立てた王国の大臣たちのように……グッ」
「父上! 大丈夫ですか!?」
「お、おのれぇ! あの愚物どもめ……。私を追放しよって……」
職を失ったトラウマで父レギオスはたまにこうなる。
「父上。落ち着いて下さい! これを!」
対処法として俺は一枚の絵を持ってきた。俺の前世の知識を総動員して描いたアニメのキャラクターの絵だ。銀髪ロング、ワンピース、碧眼の美少女で、吹き出しには「も~、こんな子供に泣きついて恥ずかしくないの~。しょうがないザコお兄ちゃん♡」と書かれてある。
お世辞にも上手い絵ではないが、レギオスはこの絵で落ち着くのだ。彼は用紙に顔を埋め大きく息を吸う。
「すぅ~はぁー。助かる。『自分を馬鹿にしつつも、その母性を隠しきれていないメスガキ』は、この世界を救う光だ」
「分かります」
なんだ、この会話。
レギオスは溜息を付いて、会話を続ける。
「ギークよ。しかし我々は社会と無関係に生きてはいけない。生きていく上で金は必要で、社会と関わりを持つ必要がある。そこでお前には『冒険者』を目指すことを薦めたい」
「冒険者、ですか」
この世界に冒険者というものがあることは知っていた。モンスター討伐といったお馴染みのものから、街の警備や、人探しなど様々な依頼を受けて報酬を得る職業。
「依頼の数は多義に渡る。その中には個人のみで達成できる依頼もあるからな。実力を上げ、信頼を得て、定期的に依頼を受注できる『中級冒険者』になれば生活は安定していくだろう
中級冒険者になれれば依頼を自分のペースで受けていくこともできる。王宮務めと違って気楽で、面倒なしがらみもない。無理をせず働く環境を手に入れ、なおかつ貯金もできる。お前の望みが叶うと思うぞ」
「分かりました。冒険者になるにはどうすれば良いでしょう?」
「焦るな。冒険者資格はギルドに申請すれば誰でも『低級冒険者』になれる。しかし若手の冒険者の死亡率はとても高い。ろくな経験を積めずモンスターの餌になるのがオチだ」
「……では別の場所で経験を積み、冒険者に適した技術を学ぶべきでしょうか?」
「正解だ。魔法を学び魔術師になるといい。魔術師は冒険者の中でも重宝される職業だ。幸いお前には魔法の才能があるようだしな」
「恐縮です」
この世界には魔法というモノが存在する。火の魔法『火球』とかそういう奴ね。
「聞けば三歳の時には既に下級魔法を唱えられたとか?」
「はっはっは。まだまだですよ」
幼い時から魔法書を読み、魔力の使い方や魔法の唱え方は覚えておいた。やっぱり興味はあったし、今のうちに覚えておけば損はないだろうと思ったからだ。
幼児が魔法を唱える姿を見られて気味悪がられたけどな!
「魔法は主に二種類に分けられる。地水火風、雷、氷といった自然の力を魔力で操る『属性』魔法。そして超常の奇跡を起こす『神秘』魔法。特に神秘魔法は冒険者家業でも役に立つ。味方の傷を癒したり、身体能力強化などができるからな。
ただ殆どの神秘魔法の使用には『中級魔術師』の資格が必要だ。『中級魔術師』の資格を持ち、神秘魔法を覚えれば冒険者の中で特に重宝されるだろう。中級冒険者になるのにも有利に働く」
「中級魔術師の資格を取るには?」
「多々あるが、『魔法学院』に通い取るルートが一般的だ。その中でも世界最高峰の魔術師が集うアルタナ魔法学院をお勧めする。入学試験は年齢関係なく受けられる。また学生――特に若い人材は大切に扱うから、冒険者と違って死ぬようなことはない。自分の技術を磨くことだけに専念できる。試験合格の基準までは私が教えてやれる」
レギオスの話をまとめて、これからの人生設計を思い浮かべる。
1.魔法をレギオスの元で学ぶ
↓
2.魔法学院に合格
↓
3.中級魔術師資格を取る(神秘魔法を使えるようになる)
↓
4.冒険者ギルドで冒険者登録する。
↓
5.中級冒険者になる
↓
6.依頼をこなして安定収入!!
簡単にまとめると上記の感じだろうか。
「もちろん一例に過ぎない。来年から村の学び舎にも通わせるが、そこで別の道が見つかることもあるだろう」
「承知しました。ですが今は父上の案に乗らせてもらいます」
上記のルートが最適解かどうか判断できないが、魔法を覚えておくのに越したことはないだろうと思った。何より明確な目標があるのでモチベも湧く。
「よしっ! やってやりますよ、父上!! できるだけ楽して生きていくために努力します!!」
「良い返事だ。……お前は変わった息子だよ」
こうしてレギオスからは魔法の基礎を教わることになる。彼の教え方は分かりやすく、魔法という学問もやりがいがあった。
俺は14歳で魔法学院に入り家を出ることとなるのだが、それまでの9年間レギオスと暮らすこととなった。彼は俺の子供らしくない様子を見ても眉を顰めることはなかった。
――今に思えば、この時点でレギオスは俺が『転生して』生まれて来た子供なのだと気付いていたのかもしれない。
もう聞く機会がないので分からないが。
次話で現在(主人公21歳)までいきます。
よろしくお願いします。