最終話 中級冒険者と顛末2~家族について~
放置していてすみませんでした……。
とりあえず完結です。
《パーミティ》は勇者によって討たれた。
その報告を俺はベッドの上でロクゴウから聞いていた。
「勇者はギークにも感謝していた。今度、直接お礼を言いたいそうだ」
「マジか。緊張するな」
冒険者のトップと話すのは気が重い。
「勇者はロクゴウにも会いに来ると言っていた。歓迎の準備もしなければ」
「そうだな……ん?」
ロクゴウにも会いに来る?
ロクゴウもこの街に居続けるということだろうか?
彼女は俺の疑問に対して答えを口にする。
「ロクゴウはリルと共にこの街に住むことにした。勇者にも話しは通している。冒険者としては『紅の砦』の厄介になるつもりだ」
「そうなのか。リルは?」
「リルも承知している。あの子の回復のためにも、安心できる街に住んだ方が良いと判断した」
「それが良いな。勿論俺も協力するぞ」
リルにまつわる問題は全て解決したわけじゃない。むしろ課題の方が多いくらいだ。
家族もいない。心に傷を負っている。
どんな形であれ俺は関わってしまった。放っておけないと俺は思う。
……しかし俺にできることはまだあるだろうか。
と不安になった俺にロクゴウは提案してきた。
「提案なのだが、ギーク」
「なんだ?」
「ロクゴウ達と一緒に暮らさないか?」
「へぇー……はい?」
「もちろんアグリも一緒に。できればメイナも」
「お、おお?」
「この場合だとギークが父親役で、アグリが母親役か……」
「いやいや? え? 何?」
「いやロクゴウが母親役でアグリが父親役でも良いのか? ではメイナは……」
「じゃあ俺は何だよ、お母さん役か?……じゃなくて!!」
俺は大声で突っ込む。
「どうしてそうなる!?」
「……すまない。話が性急だったな」
最近のロクゴウは人との会話に慣れてきているが、やはり相変わらずの部分もある。
「リルの家族はいない。既に死亡している。そんな彼女には頼れる大人が必要だ。彼女の後見人となれる人が」
「だな」
「リルが今、心を許している人物は四人。ロクゴウにアグリ、メイナに――そしてギーク、お前だ。この中でロクゴウとアグリは人ではなく、後見人にはなれない」
「メイナさんも……少し難しいか」
メイナさんたち獣人族の家族観は人族と大きく異なる。子供は一族全体の子供という価値観だ。メイナさんの子供となれば、メイナさんが所属するヴェルディ族の一員となり、(人族の子供には)厳しい環境に置かれてしまうだろう。
「メイナにも提案したが、後見人になることは断れられた。異種族間で家族が形成される事例も多くあるが、リルには少し難しいだろう」
俺も頷く。
別種族に預けられて上手くいかないとは限らないが、リルの状況を思えば同じ種族の人族に預けられるのが一番に思えた。
……それで残ったのが、俺かぁ。
「リルはなんて言っている?」
「リルは『ギークさんと一緒に暮らせれば嬉しい』と言っていた」
「ううむ」
……正直に言うと。
個人的には引き受けても良いと思っている。
だってリルの望みを叶えてやると言ったからなぁ。
彼女のために何かをしたいという気持ちもあるし……。
だからこそ。簡単に、軽い気持ちで引き受けて良い話だとも思えなかった。
後見人。つまりはリルの親となるのだ。
責任は重い。
「ギーク」
「ん?」
「あくまでも提案だ。断ってくれても構わない」
「ありがとな。ちょっと考えさせてくれ」
「承知した。ただ一つだけ良いか?」
首をかしげる俺に対してロクゴウは言った。
「『リルため』という義務感だけで、この提案をした訳じゃない。これはリル望みであり、ロクゴウの望みでもある」
「お前の望み?」
「そうだ。何も難しいことを考えてはいない。ただ、思ったことがある。リルとアグリと、メイナ。そしてギーク。みんなで暮らせれば――きっと『楽しい』と思ったんだ」
すぐに言葉は出なかった。
楽しいから一緒に暮らす。
楽しいから家族になる、と俺は考えたことがなかったからだ。
なんとか言葉をひねり出そうとして、俺の口から出たのはこんな言葉だった。
「なぁ。ロクゴウ。お前今笑ったか?」
「かもしれないな――まだ疲れが取れないだろう。今日はこれで失礼する――ゆっくり休んでくれ」
とロクゴウは言い残し部屋を後にした。
取り残された俺はしばらく考えた後、寝ることにした。
実際疲れがまだ残っていたので直ぐに眠りについた。
夢を見た。
前世の俺が出てくる夢だったと思う。
前世の時の俺がどんな人間で――どんな人格であったかでさえ覚えていない。
ただ感情だけを覚えている。
俺は不幸を感じ、色んなものを諦めていたような気がする。
幸福な人生というものを想像できていなかった。
俺でも幸せに生きることができたのだろうか。
……幸せに生きようと思えたのだろうか。
夢なので見た瞬間に忘れていく。
起きたら、まだ昼だった。
「おはようございます。ご主人」
ベッドの端にアグリが座っている。
午後の穏やかな日差しが当たって銀色の髪が輝いていた。
幸せに生きようと別の道を選べた。
俺はソレが嬉しかった。
「なぁ、アグリ。話があるんだけど――」
生きる上で、明確な目標はない。
きっとこれからもそうだろうと思う。
ただ日々は続いていく。
書きたい話を書けて満足です。
また何か書きたいですね。
とりあえず投稿しているスローライフを完結させたいです。
ありがとうございました。




