第25話 中級冒険者達はモンスターの大群と戦う~援軍~
よろしくお願いします。
神話級のモンスター《ヒュドラ》。魔界の悪魔達が生み出したモンスターであり、天災そのものと恐れられた。遙か昔に人界に現れ、一夜にして大国を滅ぼしたという。
しかしその強さ故に悪魔達もヒュドラをコントロールできず魔界側にも被害が出た。
ヒュドラの強さをコピーしつつ、管理しやすいよう思考方法が調整されたモンスターとして《アルタ・ヒュドラ》が製造された。量産されたアルタ・ヒュドラは人界に侵攻し猛威を振るった。
俺たちが相手しているのは、その《アルタ・ヒュドラ》である。
強い。が付けいる隙もある。
俺が浮遊弾を当てて隙を作り、その隙をロクゴウがつく。回転式機関砲攻撃から放たれる高密度の魔弾はヒュドラに大ダメージを与えた。
大ダメージを負ったアルタ・ヒュドラは進行を停止させ、傷の回復と防御に専念するようになる。
アルタ・ヒュドラの行動は機械的で読みやすい。致命的なダメージを負えば、攻撃モードから回復モードへと移行する。回復モード中は激しい行動をせず、その場に停止する。
最もアルタ・ヒュドラの装甲は固く、よっぽどの攻撃でなければダメージを与えられない――が、今は
「たたみかける。ギーク。アグリ。援護を頼む」
今は勇者パーティーの一人であるロクゴウがいる。彼女の攻撃はアルタ・ヒュドラにその致命的なダメージを与えることができた。
アルタ・ヒュドラの口から複数の火の玉が放たれる。
俺とアグリは敵の魔法を防御しつつ、ロクゴウの進路を作る。
再びロクゴウは攻撃をくらわす。
「キシャアアアアアア!!」
アルタ・ヒュドラの叫び声が上がる。驚異的な再生能力を持つが、それでも確実にダメージが蓄積されていく。
・・・・・・優勢に見えるが一瞬の油断も出来ない。
アルタ・ヒュドラが一瞬でも攻撃モードへと移行し、広範囲の魔法攻撃を一度でも放てば、それだけで全てが終わる。ロクゴウ以外は全員殺されるだろう。
そのためにもロクゴウはヒュドラへの攻撃に専念してもらわないといけない。
邪魔が入らないように、他のモンスターを近づけさせてはならない。
「ご主人ッ。下級冒険者陣営の右翼、3班で班員が負傷ッ。援護が必要です!」
「りょーかいっ!」
アグリの言う場所へと俺は浮遊弾を飛ばす。十分な魔力を込めた攻撃用と回復魔法を込めた回復用の石だ。回復用の石に触れることで、傷を癒やすことができる。
ロクゴウの援護を行いつつ、浮遊魔法を駆使して周囲への援護を常に行う。
頭が焼けそうになる。アグリの回復によって魔力切れがなくても、疲労で失神しそうになる。
戦況は拮抗しているものの油断もできない。
戦闘経験が少ない下級冒険者班は常に援護が必要になる。下級モンスターを攻撃しつつ、戦闘員の回復も行う。
中級冒険者班は戦闘員の数が少ない。手強い中級モンスターを相手取らないといけないので、一人でも倒れれば一気に陣営が崩れ落ちてしまうだろう。
それでも、やる。誰一人死なせてはいけない。
リルがこの先も生きていけるためにも――。
『――無意味だねぇ』
アルタ・ヒュドラから声がした。ヒュドラの口は動いていないのに、しゃがれた声が聞こえてくる。
『実に無意味だ。一人の少女のためにここまで頑張る意味が分からないよ』
「・・・・・・《パーミティ》か」
すぐに分かった。このモンスター達の主であり、全ての元凶である上級悪魔パーミティ。ヒュドラを通して俺たちに話しかけている。
『私はかつてリューベンの貴族と契約した。生け贄を食べ損なった時にリューベンの住民を食べて良いと。だから君たちもどいてもらえないか?』
「嫌だね。はい、そうですか。とどく訳ないだろ」
ヒュドラの魔法攻撃を避けながら俺は言う。
当然、大量虐殺は防がなければならない。
それに誰か一人でも死ねばリルは自分を責めるだろう。
パーミティは笑った。
『全く。あの少女が大人しく私の生け贄になれば犠牲は出ずにすんだのに。今回の襲撃は私を不愉快にさせた少女への報復でもある』
「あん?」
悪魔は不愉快な笑い声をあげた。
『少女は生意気にも生きる意思を示し、生け贄となることを拒否した。しかも私の目の前で! 腹が立ったよ。だから腹いせに沢山殺すことにしたんだ・・・・・・。見たくないか? 大量の死体と街の残骸を少女が目にした時にどんな顔をするのか・・・・・・。そして耳元で言ってやるのさ』
お前のせいだ、と。
悪魔は愉快そうに囁いた。
思わず武器を握る手が強ばった。
『楽しいだろうなぁ。今度こそ絶望した少女の魂は実に美味だろうなぁ!』
「――理解できないな」
ロクゴウが口を開いた。
「お前の行動理由をロクゴウは理解できない。何故こんなことをする。お前は子供を、特に自己肯定感が欠けた子供を好み食べる。何故だ?」
『美味しいだけじゃなく、見ていて面白いからさ。感情を持て余し、ひたすらに絶望して、泣き叫んでいる子供を見ると楽しくなる。そんな子供の肉体を砕いて、魂を食い尽くす。その子供が本来持っていた可能性ごと食い潰す瞬間――快感だよ』
「そうか。理解した――。お前は殺す」
ロクゴウが放った弾丸がヒュドラの体を突き破る。
ヒュドラの悲鳴が上がるが、悪魔は構わず笑う。
『私をどうやって殺す? 私はこの場にはいないし、お前らごときに私を探すことはできない!』
パーミティの言う通り、奴はこの場にいない。遠い場所で隠れているのだろう。
もともと慎重な性格で姿を隠すのも上手い。俺たちでは見つけられなかった。
『仮にヒュドラ達を退けたところで私を倒すことはできない。どうやっても私の負けはないのだよ!』
「いや。お前は負ける」
俺は笑って言ってやった。
『なんだと・・・・・・・・・・・・ん?』
音声の向こう。パーミティが何かに気づく気配があった。
勇者パーティーのロクゴウは勇者との連絡手段を持っていた。この異世界に電話を始めとする通信技術はない。ただ勇者パーティーのメンバー達は、使用回数に限度もあるが遠隔での情報共有を可能にする魔法を有しているらしい。
防衛の準備の際、ロクゴウは勇者に連絡を取った。すると意外な事実が分かった。
パーミティが根城にしていたダンジョンを勇者が攻略したとき、勇者は悪魔の気配を感じ取った。その悪魔に気取られないよう、単独で悪魔の気配を二ヶ月間探り続けていたらしい。自分が単独行動していることがばれないよう、他の仲間に情報操作を頼んでいた。
そしてパーミティが大量のモンスターを召喚する際、その魔力反応からパーミティの居場所を掴むことに成功していた。
『――なんで! お前がここにいる――!!』
パーミティの叫び声。次第に戦闘音が聞こえ始めた。
音声からは別の、女性の声が聞こえた。
『あー。ロクゴウ、聞こえる?』
「勇者。聞こえています」
『パーミティを補足。これから戦闘を開始します。それで、えっと・・・・・・ギークさん?』
「は、はいっ!」
俺は思わず直立不動の体勢を取る。
冒険者の頂点に立つ者、勇者。俺とは全てにおいて比べものにならない。
勇者は言った。
『私が来た以上、この悪魔は確実に殺す。そっちは頼みます』
「・・・・・・了解です」
最後にパーミティの叫び声を残して音声は途切れた。
「・・・・・・さてと」
心残りだったパーミティも片付いた。
あとは勝つだけだ。
「行くぞ!」
本日はあと一話投稿する予定です。




