第22話 中級冒険者達は少女を救う言葉を持たない
やりたかった話まで書くことができました。
よろしくお願いします。
※今回も三人称です。
「ロクゴウは勇者によって造られた人形だ。勇者がダンジョンで見つけた『英雄の武器』を改造して生まれた。自立的に動く武器を造る試みとして、人族と同程度の機能――感情も搭載されている」
宿屋にて。
ロクゴウはリルを抱きかかえてベッドに座っている。リルが逃げ出さないよう少女の体をがっちりと掴んでいる。
「しかしロクゴウに本当に感情があるかどうか、ロクゴウには判断できない。ロクゴウがリルに向けているモノが本当に『愛情』なのかどうかは判別できない」
ロクゴウは淡々と話を続ける。
「リルと接触してから今日で一ヶ月と14日。この期間で特定の個人に『愛情』を抱くのが適切なのかも分からない。ロクゴウにとってリルが重要な存在だとしても、それを証明する根拠もなく、言葉では証明できない」
ただ、とロクゴウは言葉を続けた。
「少なくともリルが、小さな子供が傷ついている状況は間違いだと判断できる。間違いは正さなければならない」
「ロクゴウさん・・・・・・」
「しかしロクゴウには方法が分からない。どうすればリルは泣き止む? どうすればリルはまた『楽しい』状態に戻れる?」
リルはロクゴウの問いに答えられない。
丁度そのとき。部屋の扉が開かれてギーク、アグリ、メイナがやってきた。
「どうもです。邪魔しますよ」
とアグリはリル達のところまでやってきた。
記憶を取り戻したリルが落ち着いたのはアグリのお陰だった。パニック状態になったリルの自傷行為を止め、かつ責めずに側にいた。
一緒に入ってきたギークもリルの側に寄る。
少女は彼らが全てを知ったのだと悟った。悪魔の話し、自分が生け贄となることを拒否したこと。悪魔の怒りに触れ、悪魔が街へと攻め入ってくること。
少女は怖くなった。おこがましくも、自分が怒られてしまうのではと身を強ばらせた。
「悪い。遅くなった」
とギークは何故か謝った。
「ギークさん?」
「辛い思いをさせて、気づくのも遅くなった・・・・・・。申し訳ない」
「・・・・・・」
「その上で俺たちに挽回のチェンスをくれ。お前が何をしてほしいのか、聞かせてほしい」
「リルが・・・・・・してほしいこと」
「俺たちはお前が望むものを叶えたいんだよ」
ギークの言葉に隣のメイナも頷く。
「望みなんて・・・・・・。リルはそんな資格なんて・・・・・・」
両親に迷惑をかける悪い子で、本当は死ぬべき人間だったのに。
自分が何かを望む資格なんてない。
塞ぎ込む少女を見て、悪魔のアグリは口を開く。
「望みを持つことに資格なんていりませんよ、リルさん」
「え?」
「何かを願うことに善人も悪人も関係ありません。善人の望みが優先されるわけでも、悪人の望みが否定されるわけでもない」
「・・・・・・・・・・・・」
「私たちは貴方の望みを聞きたい。そして、どんな類いの願いでも否定はしませんよ」
彼らはリルの側に寄り添い少女の言葉を待った。
自分の望み。怒られないだろうか、と少女は不安になる。
「リル・・・・・・リルは・・・・・・」
きっと言えば軽蔑される。なんて最低な子供だと、怒られる。
『良い子』なら、自分の身勝手な願いなんて口にするべきじゃない。
怖くて顔を膝に埋める。
ロクゴウはリルの手を握った。
温かい手に触れる。
リルの心の奥で、何かがパチンと弾けた。
「リルは・・・・・・リルのせいで・・・・・・誰かに迷惑をかけるのは嫌だ。誰かが死ぬのも嫌だ。でも、それ以上に――リルのせいになるのが、一番・・・・・・いやだ!! 責められたくない。もう、リルのせいにされるのは・・・・・・嫌だ」
自分本位の願いを口にしてしまった。それでも止められない。
「もうビクビクして暮らすのは嫌。安心して暮らしたい・・・・・・。リルでも、リルなんかでも」
少女は自分の望みを口にした。
「生きていても良いって思えるような場所がほしい・・・・・・」
リルの望みを聞いた彼らの答えは決まっていた。
ギークは口を開く。
「よく言ってくれた。ありがとう。あとは俺たちに任せてくれ」
「・・・・・・怒らないの?」
「怒るわけないだろ。お前はもっと、自分の望みを持って良いんだし、言って良いんだ。もう遠慮しなくて良い――だから、安心してくれ」
ギーク達は力強く頷いた。
彼らは分かっていた。
リルが悪魔の生け贄にあることを拒否したことにより、悪魔が街に攻めてくる。
もし仮に、悪魔の襲撃で誰か一人でも死ねば、リルはまた自分を責めてしまうだろう。
どれだけ言葉をかけても無意味になってしまう。
誰も死なせてはならない。
そのために言葉ではなく、行動で示すしかない。
「俺たちがリルの望みを叶えてやる。誰も死なせないし、全部守ってみせる」
その日、リューベンの北西の森から多数のモンスターが出現した。
対するは冒険者クラン『紅の砦』を中心とした冒険者部隊。
戦いが始まろうとしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
本日はあと一話投稿します。
よろしくお願いします。




