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俺の異世界生活はこれで良い  作者: 脱出
第2章 中級冒険者は少女を救う
22/27

第22話 中級冒険者達は少女を救う言葉を持たない

やりたかった話まで書くことができました。

よろしくお願いします。

※今回も三人称です。


「ロクゴウは勇者によって造られた人形だ。勇者がダンジョンで見つけた『英雄の武器』を改造して生まれた。自立的に動く武器を造る試みとして、人族と同程度の機能――感情も搭載されている」


 宿屋にて。

 ロクゴウはリルを抱きかかえてベッドに座っている。リルが逃げ出さないよう少女の体をがっちりと掴んでいる。


「しかしロクゴウに本当に感情があるかどうか、ロクゴウには判断できない。ロクゴウがリルに向けているモノが本当に『愛情』なのかどうかは判別できない」

 

 ロクゴウは淡々と話を続ける。


「リルと接触してから今日で一ヶ月と14日。この期間で特定の個人に『愛情』を抱くのが適切なのかも分からない。ロクゴウにとってリルが重要な存在だとしても、それを証明する根拠もなく、言葉では証明できない」

 

 ただ、とロクゴウは言葉を続けた。


「少なくともリルが、小さな子供が傷ついている状況は間違いだと判断できる。間違いは正さなければならない」

「ロクゴウさん・・・・・・」

「しかしロクゴウには方法が分からない。どうすればリルは泣き止む? どうすればリルはまた『楽しい』状態に戻れる?」


 リルはロクゴウの問いに答えられない。

 丁度そのとき。部屋の扉が開かれてギーク、アグリ、メイナがやってきた。

 

「どうもです。邪魔しますよ」


 とアグリはリル達のところまでやってきた。

 記憶を取り戻したリルが落ち着いたのはアグリのお陰だった。パニック状態になったリルの自傷行為を止め、かつ責めずに側にいた。

 

 一緒に入ってきたギークもリルの側に寄る。

 少女は彼らが全てを知ったのだと悟った。悪魔の話し、自分が生け贄となることを拒否したこと。悪魔の怒りに触れ、悪魔が街へと攻め入ってくること。

 少女は怖くなった。おこがましくも、自分が怒られてしまうのではと身を強ばらせた。

 

「悪い。遅くなった」


 とギークは何故か謝った。


「ギークさん?」

「辛い思いをさせて、気づくのも遅くなった・・・・・・。申し訳ない」

「・・・・・・」

「その上で俺たちに挽回のチェンスをくれ。お前が何をしてほしいのか、聞かせてほしい」

「リルが・・・・・・してほしいこと」

「俺たちはお前が望むものを叶えたいんだよ」


 ギークの言葉に隣のメイナも頷く。


「望みなんて・・・・・・。リルはそんな資格なんて・・・・・・」

 

 両親に迷惑をかける悪い子で、本当は死ぬべき人間だったのに。

 自分が何かを望む資格なんてない。

 塞ぎ込む少女を見て、悪魔のアグリは口を開く。


「望みを持つことに資格なんていりませんよ、リルさん」

「え?」

「何かを願うことに善人も悪人も関係ありません。善人の望みが優先されるわけでも、悪人の望みが否定されるわけでもない」

「・・・・・・・・・・・・」

「私たちは貴方の望みを聞きたい。そして、どんな類いの願いでも否定はしませんよ」

 

 彼らはリルの側に寄り添い少女の言葉を待った。

 自分の望み。怒られないだろうか、と少女は不安になる。


「リル・・・・・・リルは・・・・・・」 


 きっと言えば軽蔑される。なんて最低な子供だと、怒られる。

 『良い子』なら、自分の身勝手な願いなんて口にするべきじゃない。

 怖くて顔を膝に埋める。



 ロクゴウはリルの手を握った。

 温かい手に触れる。

 リルの心の奥で、何かがパチンと弾けた。

 

「リルは・・・・・・リルのせいで・・・・・・誰かに迷惑をかけるのは嫌だ。誰かが死ぬのも嫌だ。でも、それ以上に――リルのせいになるのが、一番・・・・・・いやだ!! 責められたくない。もう、リルのせいにされるのは・・・・・・嫌だ」


 自分本位の願いを口にしてしまった。それでも止められない。


「もうビクビクして暮らすのは嫌。安心して暮らしたい・・・・・・。リルでも、リルなんかでも」


 少女は自分の望みを口にした。


「生きていても良いって思えるような場所がほしい・・・・・・」


 リルの望みを聞いた彼らの答えは決まっていた。

 ギークは口を開く。


「よく言ってくれた。ありがとう。あとは俺たちに任せてくれ」

「・・・・・・怒らないの?」

「怒るわけないだろ。お前はもっと、自分の望みを持って良いんだし、言って良いんだ。もう遠慮しなくて良い――だから、安心してくれ」


 ギーク達は力強く頷いた。


 彼らは分かっていた。

 リルが悪魔の生け贄にあることを拒否したことにより、悪魔が街に攻めてくる。

 もし仮に、悪魔の襲撃で誰か一人でも死ねば、リルはまた自分を責めてしまうだろう。

 どれだけ言葉をかけても無意味になってしまう。

 

 誰も死なせてはならない。

 そのために言葉ではなく、行動で示すしかない。


「俺たちがリルの望みを叶えてやる。誰も死なせないし、全部守ってみせる」



 その日、リューベンの北西の森から多数のモンスターが出現した。

 対するは冒険者クラン『紅の砦』を中心とした冒険者部隊。

 戦いが始まろうとしていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

本日はあと一話投稿します。

よろしくお願いします。

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