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俺の異世界生活はこれで良い  作者: 脱出
第2章 中級冒険者は少女を救う
21/27

第21話 中級冒険者達が出会う前の少女について

よろしくお願いします。

※三人称、暗めの話になります。すみません。


 

 少女にとって『自分の家』は安心できない場所だった。常に両親はイライラしており、些細なことで彼女の両親は怒鳴った。少女がちゃんと返事をしなかった、声が小さい、足音がうるさい、元気がない、いつもオドオドとしている。

「なんで、あんたは私を不安にさせるような態度を取るの!!」

 と母親は少女を責めた。

「・・・・・・何か文句があるのなら言ってみたらどうだ!」

 と父親は怒鳴った。

 彼らが不機嫌な理由は自分にあるのだと、少女は思うようになった。

 少女はそんな両親の機嫌を損なわないよう、親の言うことを聞く『良い子』になろうと誓った。元気よく子供らしく振る舞い、手伝いもして、勉強だって頑張る。

 良い子としての価値を示せば、親の機嫌も良くなると分かったからだ。

 価値を示し続ける限り、家での居場所はある。両親の都合で住む家を転々としながら、少女は環境に適応する術を身につけていった。

 頑張っていれば、きっと報われるのだと心のどこかで信じていた。


 ある日。母親の怒りが爆発した。

 「早く寝ろ」という母親の言葉に「お母さんが休めるまで寝たくない」と答えからだろうか。以前にもそう言ったところ「お前は気遣いができる良い子だね」と褒められたから、同じことをしたのだ。

 結果は失敗だった。


「なにそれ、嫌み?」


 と母親は自分の髪を掻きむしりながら、少女に詰め寄った。

 失敗したのだと気づいたときには遅かった。

 母親は涙を流しながら怒りを爆発させた。


「あんたまで! 私にそんなことを言うの! 馬鹿にしているの!――」


 その後の言葉は覚えていない。ただ親が子供に放つ言葉だと信じたくない、そんな類いの言葉をかけられた。

 気がつけば家から放り出されていた。夜遅い時間で、なおかつ雪も降っていた。

 寒い。

 帰りたい。

 けれど、帰れない。

 少女は泣きながら、行く当てもなく街を歩いた。人とすれ違うたびに体が恐怖でこわばる。けれど、安心できる場所がない。

 自分はどこにもいてはいけない気がする。

 ここにいて良いのだと誰かに言ってほしいけれど。

その言葉をかけてもらう価値は、自分にはない。


「ちゃんと謝ろう」

 と少女は家に戻ろうと決心した。結局、自分の存在許さる場所はあの家にしかないのだ。

 ごめんなさい、って謝ろう。

 また良い子として頑張れば良いと決心した。



 しかし家に帰ると母親は父親に殺されていた。

 父親は頭を抱えていた。


「お前が出て行くから口論になった・・・・・・。お前が外に出て行かなければ・・・・・・」


 母親を殺すことになったのは少女のせいだと父親は責めた。

 父親はなんとかして死体を隠そうとした。罪から逃れようとした。

 母の死から数日。父は黒いローブをまとった男達と共に帰ってきた。


「この人達が死体をなんとかしてくれる。代わりにお前はこの人達について行くんだ」


 父親は自らの身の安全のために、娘を売ることにした。

 少女は泣きながら謝って父に縋ったが、父は少女を突き飛ばした。


 少女は『悪魔崇拝者』達に買われ、彼らが根城にしているダンジョンまで連れてこられた。

 悪魔の生け贄とするつもりらしい。

 少女は狭い部屋に『そのとき』まで閉じ込められた。世話役の《小鬼》以外とは接触もなく、ただ一人。

 最初は一日中泣いて、両親に謝った。答える声もないので自分を責めた。小鬼が止めに入るまで頭を掻きむしり、自分の腕を血がにじむまで引っ掻く。

 しかし幾ら泣いても自傷行為に走っても何も変わらなかった。

 冷たい床。味のしない料理。固い鉄格子。

 少女はこう考えるようになった。 


 自分は世界に必要とされていない。むしろ迷惑をかけるゴミ。

 最初から無駄だったのだ。

 全部。頑張ってきたことも。自分の存在全てが無駄だった。


『そのとき』まで少女は無気力に過ごした。

 


 少女の目の前には悪魔がいる。

 巨大な蛇の姿をしていた。

 今まさに自分を食おうとしている。

 悪魔の生け贄になるのだと少女は知っていた。なぜ生け贄が必要なのかは分からない。

 それでも、とにかく。

 ようやく終わる。


 蛇の魔法により少女の体が浮く。

 蛇の口まで自動的に運ばれる。

 蛇は大きく口を開けた。

 蛇の吐息以外は静かで、他に物音は聞こえない。


 少女は目をつぶった。

 やっと死ねる。終わる。解放される。やっと。やっとだ。長かった。もっと早くに気がつけば良かった。最初から間違いだったのに。もういい。苦しい。ここは嫌だ。

 

 ――何か――蛇の吐息ではない――別の音が聞こえた。


 ・・・・・・いや、良い。勘違いだ。もういいだろう。死ねるんだ。死ぬべきだったんだ。お願いだから。


 ―――勘違いじゃない。何かが鳴っている。小さいが、自分の体の奥から。


 ・・・・・・違う違う違う。期待するな。お前にそんな価値はない。価値がない!!  お父さんもお母さんもずっと邪魔に扱ってきたじゃないか! 

 リルは死ぬべきなんだ!!


 どくん。と自分の心臓の音が聞こえた。


「――嫌だ!」


 リルは叫んだ。

 蛇が驚き同時仁摩法が解け、体が宙に投げ出される。

 少女は床に体を打ち、転げ回る。

 痛みが体中に走る。

 上手く立てない。痛みだけじゃなく、全身が震えていた。

 呼吸が荒い。涙が止まらない。

 ――生きたくない筈なのに。

 リルは胸を掻きむしった。手のひらに自身の心音を感じる。

 ――この音がもう永遠に聞こえなくなってしまう。そのことがとても怖く感じた。


 少女が生け贄になることを拒否したことに、蛇は怒り狂っていた。『代償を支払え』とわめき立てていた。側にいた黒いローブを纏った魔術師達は一斉に逃げ出す。

 蛇はリルを見て言った。


『少女よ! 君は私の生け贄となることを拒否した。契約不履行とし人類は代償を支払わなければならない!! 古の契約に則り、リューベンの住民全てをもらい受ける!』

 

 蛇が何を言っているか理解できなかった。

 いや違う。理解したくない。

 

『我が配下のモンスター達にリューベンを襲わせ、住民たち全ての魂を私に献上させよう・・・・・・君のせいだぞ! 少女よ。君が大人しく生け贄となっていれば全て丸く収まったのに』


 蛇は少女の反応を楽しむように言った。

 少女の顔が再び絶望に染まるのを楽しむように。


『生きる希望を持ったのか? 生きていても良いと勇気を振り絞ったか? 無駄だよ。全て無駄だ。決心したところで現実は何一つ変わらない。生きようと思えたところで事態は改善しない!! むしろ周囲に迷惑をかける! 君のせいで、君が犠牲にならないせいで大勢死ぬのだ!!』


 再び少女の心を折ろうと蛇は言葉で少女をいたぶる。

 そのとき。部屋中が揺れた。


『この揺れ。まさか魔女が討たれたか。勇者が来てしまう』


 蛇は途端に姿を消した。

 魔術師達も部屋から姿を消し、部屋には少女だけが取り残された。


 少女の目から一筋の涙が伝う。

 蛇の言葉が徐々に心をむしばんでいった。

 そうだ。自分は勇気を出した。

 生きたいという意思を示した、のに。


「やっぱり無駄だったのかなぁ」


 泣く少女に近づく影があった。

 世話係の小鬼で片手に紙束を持っている。



 そこで、少女の記憶は途切れる。

 小鬼の魔法によりリルは記憶を失った。

 

 勇者パーティーのロクゴウに引き取られ、冒険者のギーク達と出会った。

 短いが幸せな日々だった。

 それも終わる。

 

 少女は記憶を思い出してしまった。

 

 無価値な人間であること。

 自分のせいで大勢の人が死んでしまうこと。


「行かなきゃ」


 宿屋でリルはそうつぶやいた。

 行く当てもないけれど、ここにはいられない。

 扉に手をかけようとしたとき、腕を捕まれた。


「こんな時間にどこに行く」


 ロクゴウはそうリルに言った。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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