第2話 中級冒険者に至るまで~幼少期と父親~
※2~4話は主人公の幼少期~現在です。
また主人公の口調が1話と違います。
俺は転生し赤ん坊として生まれた。もちろん親がいる。
(この世界での人間は魔術が使える者や、強靭な者もいるが、基本的には前世の人間と構造上はあまり変わらない)
俺の異世界生活では父親が非常に大きな影響を持つ人物だった。
どんな人物だったか?
「銀髪メスガキ系サキュバスにご奉仕されたいと思わないか、息子よ」
こんなことを言う人だった。
狂っていると思うだろうか?
俺もそう思う。
俺が3歳の頃に俺の母親――つまりは、この人の奥さんが男を作って出てしまったせいで、実際に狂ってしまったのだ。
彼の名前はレギオス・エリード。俺の父親であり高名な魔術師だった。
レギオスは王国に仕える宮廷魔術師だった。血は薄くとも貴族の出でもあり、周囲からの評判も良かった。幼馴染と結婚し子供(俺)をもうける。裕福で地位もある家庭に俺は生まれたので、俺は3歳まで不自由なく過ごした。
しかし前述の通り母親が出て行ってしまう。後輩の男に寝取られたそうだ。そのショックで仕事ができなくなり、宮廷魔術師の職も失う。
そこからは下り坂だった。すっかりおかしくなってしまった彼は幼い俺を親戚の家に預けたあと、『悪魔崇拝者』とかいう反社会的集団とつるむようになる。
怪しげな集会に参加し反社会的行為と逃走を繰り返す日々。逮捕まではいかなくとも、王国には危険人物としてマークされた。
俺が5歳になる時。ようやく俺を迎えに来たレギオスはやつれて別人のようになっていた。
しかし目は非常に澄んでいて――まるで悟りを開いた賢人の様に清らかで――、
「『え~大人なのにこんなこともできないの~。ザコザコおじさ~ん♡』と銀髪碧眼メスガキ悪魔に馬鹿にさながらも一生を共にし、その小悪魔な笑顔に看取られながら死にたい」
と呟いた。
レギオスは親類全てから縁を切られた。
王国にも居場所はなく、俺達は田舎の町『ロベール』へと引っ越すことになった。幸いにも金はあるので生活には困らない。
「ギークよ、なぜ私に付いてきたのだ? あの俗物共(レギオスの親類のこと)に身を寄せる道もあったはずだ」
とレギオスは俺に尋ねた。
俺は
「……俺もあの家には居場所がありませんでしたから」
と答えた。
レギオスほどではないが俺も「変わり者」として親類から疎まれていた。見た目は幼児だが中身は成人男性なのだ。上手く立ち回れず気味悪がられた。
預けられた家は名家だったが、常に人間関係のどろどろとした光景を見せられたのもある。親族の中でも明確なヒエラルキーがあり、俺はよく苛められた。
散々だったし、あの家に居場所はないと思った。
「ならば……お前はこれからどう生きる? 何か望みはあるか?」
と父親は俺に再び問うてきた。
……生きる意味。生きる目標。それについて俺は真剣に考えた。
俺は彼の眼を見て答える。
「俺は……生きていて後悔はしたくない。無理せず働いて、人生も楽しんで・・・・・・満足できる人生を歩みたい」
今度こそは、と心の中で言葉を付け加える。
前世の死因は交通事故だった。トラックにはねられて死んだ。
前世の知識は持っているが、自分がどんな人間でどんな人生を歩んでいたかについてはほぼ覚えていない。ただ漠然と「生きることが辛い人生」であったこと、そして死ぬ前に「幸せになりたかった……」と強く後悔したことを覚えている。
ろくでもない人間で、いつも後悔ばかりの人生だったのだろう。
二度目の人生も同じことを繰り返すのはごめんだ。
別に成り上がりやハーレムを望んでいる訳じゃない。
無理せず働いて、しっかり休んで、満足できる人生を、自分を誇れる人生を歩みたい。
俺の異世界生活の目標が決まった瞬間だった。
レギオスはふっと笑い、俺の頭に手を置く。
「お前は変わった息子だよ。だがお前の望みは分かった。私は見ての通りの社会不適合者だが知識だけはある。私は残りの人生全てをお前のために使い、可能な限りの知識と技術をお前に授けよう」
レギオスは最後に「ありがとう」と呟いた。
そこからレギオスの『英才教育』が始まったのだった。