第19話 中級冒険者は襲撃者を返り討ちにする
よろしくお願いします。
――俺は転生者として21年間生活している。今ではすっかりと異世界生活、そして冒険者生活に馴染んでいる。冒険者として荒事にも何度も遭遇してきた。
戦いの経験を積んだ結果、いわゆる『敵の気配』を感じ取れるようになってしまった。肉体からして前世とは別物になっているので、モンスターと戦うこともできるし、敵の気配にも敏感になったのだ。
とにかくだ。町中、リルとロクゴウの買い物に付き合った帰り道で『敵の気配』を感じた。
リルに向けられた敵意を感じ取った敵の気配から潜んでいる場所にも目星をつける・・・・・・あそこの路地の陰に一人潜んでいるようだ。
ロクゴウも当然感じ取ったのか、リルを庇うように前に立った。
「面倒だな」
俺たちがいる場所は商業区で人の往来も多い。敵が潜んでいる場所が分かっても、いきなり先制攻撃として魔法を飛ばす訳にはいかない。俺の方が罪に捕らえられてしまう。
だが俺の心配は杞憂に終わった。
路地の陰から男が飛び出してきた。手にはナイフを持っていて、俺たち目がけて突っ込んでくる。ナイフを持った男を見た住民から悲鳴があがった。
・・・・・・これで正当防衛は成立しただろ。
ロクゴウはリルを庇うように、ナイフを持った男を見せないように覆い被さる。
俺は彼女たちの前に立った。
「そのガキを寄越せッ!」
と男は叫び、ナイフを振りかざした。
俺はナイフを躱して、男の足を払う。バランスを崩した男の手からナイフを取り上げ床に捨てた。そのまま男をうつ伏せに組み伏せる。往来から「おぉ」という声が聞こえた。
「すみませんが、誰か衛兵呼んできてくれませんかー」
と俺は周りに声をかけると「呼んでくる!」と返答があった。冒険者が多い街なので、住民も荒事には慣れているのだ。
「・・・・・・さてと。で、お前は何だ? 何が目的だ? 周りに聞こえないよう小声で話せよ」
俺は組み伏せた男に、顔を近づけて尋ねる。敵はこれ以上いなさそうだが念のため警戒はしておく。的の狙いも早めに分かっていた方が良い。
俺が組み伏せたのは、人族の中年の男性だった。首元には青色の入れ墨が彫られていた。翼を持った犬の文様。悪魔崇拝者が好む悪魔の入れ墨だった。
男は呻きながら言った。
「そこにいるガキ・・・・・・リルを寄越せッ! そのガキを・・・・・・」
俺は男の手を強く捻った。男の悲鳴が上がる。
俺の過剰防衛だと後で思われても嫌なので、やすぎないように手加減しなければならないな。
俺は周囲に気を配りながら小声で話す。
リルに関する内容を周りに広めない方が良いと思ったからだ。
「静かに、俺にだけ聞こえるように話せ。次は骨折るぞ・・・・・・お前はグィンガル達の仲間だな。で、何が目的でリルを狙う?」
男は苦しみながら、小声で話し始めた。
「そのガキを悪魔に差し出す・・・・・・! このままでは街が滅び、大勢が死ぬ!!」
「あ?」
男の悲鳴が大きくなった。思わず力強く男の手を握ってしまったらしい。
だが、男のことなどどうでも良い。
「・・・・・・どういう意味だ」
「かつて・・・・・・この街の有力貴族が上級悪魔と契約した。対価として生け贄を定期的に差し出すようにと。我々はダンジョンにアジトを造り、生け贄を定期的に差し出していた・・・・・・」
男は何故か笑い始めている。
嫌な予感がした。
この先の言葉を聞きたくない。
「一ヶ月前に生け贄が脱走し悪魔の怒りを買うこととなった。契約不履行となったとき、悪魔にリューベンの住民全てを差し出す約束だった・・・・・・! もうすぐ悪魔が大群を連れてやってくるぞ!」
「・・・・・・・・・・・・」
「生け贄を食べられなかった怒りは我々だけでなく、この街の住民全ての及ぶ! 大勢死ぬ! それもこれも・・・・・・」
周囲の喧噪が遠くに聞こえる。
男は笑いながら、囁いた。
「あのガキ。リルが生け贄になることを拒否したからだ」
次の瞬間、男の悲鳴が上がった。
俺が更に強く男の腕をつかんだからだ。
「折ってねぇよ。騒ぐな」
俺は男に向かって言った。男はヒンヒンと泣きながらうずくまっている。
タイミング悪く衛兵達が駆けつけて周囲が騒がしくなる。衛兵の一人は俺に詰所まで来るよう言われた。
俺は襲われた側だという周囲の証言はあるが、男の方が怪我をしてまっているので、少し説明に時間が取られそうだった。
俺は男と共に衛兵に連行される・・・・・・。コイツにもまだ聞きたいことがあるので丁度良い。
連行される前にロクゴウ達に事情を説明した。
ロクゴウは頷く。
「分かった。ロクゴウはリルを連れて帰る」
「よろしく」
俺は一度リルの方を見る。
リルはロクゴウに庇われていたお陰で一部始終を見ていない筈だ。男の話した内容についても聞こえていないはず。
「怖い思いをさせて悪かったな。気をつけて帰ってくれ」
と俺はリルに言う。
少女は何も言わなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。