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俺の異世界生活はこれで良い  作者: 脱出
第2章 中級冒険者は少女を救う
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第18話 中級冒険者たちは少女のためにできることを考える

よろしくお願いします。

いいね、評価、ブックマークもありがとうございます!


「――1000年前に魔王は勇者に討たれた。それ以降、多少の争いはあれど世界は平和を保っている・・・・・・。キリもいいし、今日の授業はここまでにしよう」

 

 と俺は偉そうに咳払いをしてみる。目の前にいるリルは元気よく頷いた。


「はい。ありがとうございます! ギーク先生!」

「うむ。よろしい。お疲れさん」


 休日、俺は再びリルがいる宿屋に来ていた。ロクゴウの依頼は完了したが、休日に暇を見つけては会いに行っている。メイナさん達も頻繁に顔を見せているようだ。

 今日、リルに歴史の勉強を教える約束をしていた。冗談で「俺のことは先生と呼ぶように」と言えば、リルも「はい! ギーク先生!」と元気よく答えた。未だに記憶は戻らないが、少しずつだが笑う機会も増え活動的になった。そんな少女の反応を見ると、自分のことのようにうれしく思える。

 そしてリルの隣に座って、俺の授業を受ける者はもう一人いた。


「既知の情報ばかりだったが、これが授業か。ロクゴウにとって貴重な経験となった。ただ情報収集するだけでは得られない、他者とともに勉学に励むことによる一体感を体験できた」


 ともう一人の生徒、ロクゴウはうんうんと頷く。

 そしてロクゴウはリルの方を見て尋ねる。


「リルは『楽しい』を体験できたか?」

「うん! ロクゴウさんと一緒に勉強できて楽しかったよ!」


 とリルは笑った。

 微笑ましい光景だ、と俺も温かい気持ちになる。

 ・・・・・・休日の昼間から酒を飲むのも悪くないが、こんな休日の過ごし方も悪くない。


「そうだ! この前、アグリさんから美味しいお菓子もらったの。あと、リルに紅茶の入れ方も教えてくれたんだ。持ってくる!」

「一人でできるか?」

「だいじょうぶ!」


 とリルは奥の部屋へと行った。その姿を見送ったロクゴウは話しを続けた。


「リルは随分と精神状態が回復したようだ。あのように笑い、自発的に行動する姿をみせるようになった」

「だな。嬉しいぜ」

「ギークたちのおかげだ。ロクゴウは何もできなかった」

「んん? それは違うだろ」


 と俺が否定するとロクゴウは首をかしげた。


「リルが笑えているのは、そりゃ俺たちの影響もあるだろうけどさ。一番の功労者はリルとお前だろ?」

「リルとロクゴウ、が?」

「そ。リルは記憶も失って色んな不安もあるだろうに笑えている。自分で立ち直ろうとしている。凄いことだ。そしてリルが立ち直れる環境を作ってきたのはお前だろ」

「・・・・・・そう、なのだろうか」

「お前が見守ってきたからリルは元気になれた。と俺は思うぞ」


 ・・・・・・大分キザな台詞を言ってしまった。後で絶対に恥ずかしくなるやつだろ。

 ロクゴウはずっと首を捻っているし。響いてねぇー。


「とにかく。あれだ。お前は凄い奴だよ。ほんと。自信もって良いぜ」

「なるほど。ギークはロクゴウのことを『凄い奴』だと認識しているのだと理解した」

「もうそれでいいや」

「しかし。ロクゴウは『凄い奴』ではないと推測される。欠点が多い」

「ふーん。例えば?」

「例えば・・・・・ロクゴウはリルのように笑えない。勇者の設計通りならばロクゴウにも『笑う』機能は搭載されている筈だが、上手く起動できない」

「別に無理して笑う必要もないと思うけど」

「・・・・・・先の授業の時、ロクゴウも笑えれば・・・・・・リルの『楽しい』という感情はより増加したのではないかと推測できる」

「・・・・・・かもな。ただ今のままでも問題ないと俺は思うぞ」


 と俺が答えると丁度リルが戻ってきた。お盆に紅茶とお菓子をのせている。


「持ってきた! 上手に紅茶も淹れられたよ!」

「おう、ありがとうな」

「あ、後ね。この前アグリさんにカードゲームも教えてもらったの。ロクゴウさんも一緒にやろう!」

「承知した」


 とロクゴウは頷いた。その後、俺たちは楽しく過ごした。

 まだリルの記憶は戻らない。彼女が何故、ダンジョンに囚われていたかも謎のままだ。

 けれど少女は笑うことができているし、このまま日々が続いてほしいと思った。


 

 俺たちはロクゴウに協力しリルについての調査も進めていた。彼女はリューベンの景色を覚えており、この街に住んでいたと当たりをつけていた。

 しかし調査の結果は芳しくなかった。


「・・・・・・リルについて調べてみたが、彼女がこの町にいた形跡はまだ見つかっていない。彼女の親類もな」


 とメイナさんは溜息をついた。

 俺達は冒険者クラン『紅の砦』の拠点にて、リルについての調査結果をまとめていた。


「四年ほど遡って町の記録も調べたが、リルという名前の少女が誘拐された記録も残っていなかった。仮にあの子がリューベンに住んでいたとしても、それはもっと昔になる」


 メイナさんは苦い顔をしている。

 四年以上前だとリューベンの街が荒れていた時期だ。無法者ばかりの冒険者や、権力を笠に着た貴族達によって街の治安は最悪だったという。その時期には殺人事件や誘拐事件も頻発したそうだ。

今はメイナさん達『紅の砦』を始めとする冒険者達の活躍によって街の治安は回復した。


「やはり手がかりになるのはリルの持っていた手記と、ダンジョンに潜伏していた悪魔崇拝者たちか」


 メイナさんの言葉に俺も頷いた。

 手がかりは二つ。一つはリルの側に残された手記。中身は未知の言語で書かれており、ロクゴウが解析に当たっている。まだ書かれている内容については分かっていない。言葉の法則性すら分かれば一気に解読できる類いのもの、らしい。俺たちは専門外なので、解読作業はロクゴウに任せている。

 もう一つはリルが囚われていたダンジョン『ナムアの想宮』を縄張りにしていた連中だ。悪魔を崇拝する反社会的集団はダンジョンを根城にしており、ダンジョンが解放されると彼らは行方をくらました。

 その内の数人と俺たちは出会ったことがあった。

 賞金首グィンガルを筆頭とした悪魔崇拝者達。

 一ヶ月前、彼らは有力貴族の手引きでリューベンの街に潜伏し、悪魔を用いた大規模なテロを画策した。

 幸運にもそのテロは未然に防がれグィンガル達は王国の牢屋に投獄された。手引きした貴族も爵位を剥奪され裁きを待つ身だ。


「面会にでも行きたいですが、面会理由を思いつきませんしね」


 グィンガル達のテロを防いだのは俺たちだった。ただ防いだ方法が『暴力で脅して自主させる』という違法な手段なので王国にばれるとまずいのだ。


「他に逃げた悪魔崇拝者と接触できれば良いんですけど・・・・・・アイツらは何かを知っている筈だ」


 悪魔崇拝者達はダンジョンを根城にして何かをしていた筈だ。ダンジョンに囚われていたリルもおそらく関与している。

 ・・・・・・あまり良い想像はできなかった。


 

 その良くない想像は当たってしまった。

 次の日。俺は悪魔崇拝者と接触し真実を知ることになった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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