第14話 中級冒険者と事件の顛末
一章完結です。
よろしくお願いします。
悪魔崇拝の首謀者が自首したことにより、彼らにラフネルに脅されていた者達も声を名乗り出た。そこにはドリーさんの名前もある。無許可の悪魔召喚幇助。脅されていても罪には問われることとなった。聞いたところ、一年間の懲役だそうだ。落ち着いたら面会に行こうと思う。
こうして悪魔召喚を巡る事件は決着した。
しかし俺にはまだやる事が一つだけあった。
「見事なお手並みだったな。本来ならば一階級特進してもおかしくない働きだったというのに、賞与の一つもないのが口惜しい」
オーラムが残念そうにつぶやく。
「俺もメイナさんも今の環境に満足しているんです。気持ちだけありがたく受け取ってきます」
「ならばせめて感謝はさせてくれ。一冒険者として貴殿らに礼を言わせてほしい。ありがとう」
とオーラムは頭を下げた。
「俺も感謝しています。オーラムさんがいてくれたおかげで色々動きやすくなった」
俺も頭を下げた。
……これで一か月前から続いた騒動も、あと少しで決着が付くのだと感慨深いものがある。
俺らは暗い部屋にいた。満月の明かりが窓に差し込む。
「そ、それでギーク殿。この部屋の奥に……?」
「ええ。オーラムさんをお待ちです。お時間は3時間とさせていただきます。延長はなしで」
「……う、うむ! よし……では行ってくる!!」
「グッドラック」
俺は親指を立てた。最初は嫌だったが、やっぱり仕事の終わりを見届けるのは清々しい気分になる。
オーラムさんは奥の部屋への扉を開ける。
「た、たのもう! 我はオーラム! 冒険者である!!」
「……え~。もう緊張してるの~。こんな小さな女の子にビクついちゃって恥ずかしくないんですか~、先輩♡」
ツインテで、後輩属性の、メスガキサキュバスがいた。
オーラムは絶叫する。
俺は急いで部屋を出て行った。
部屋から出てきたオーラムは別人のように燃え尽きていた。無敗の男はこの日、初めて敗北を喫したのである。
白い灰になったオーラム。だが、その眼には光があった。
「この人は強くなるよ」
と仕事終わりのサキュバスは呟いた。
「敗北から立ち上がることで冒険者は強くなれる。この人もそう――。きっと今よりずっと強くなれる。厄介な人間に手を貸してしまったかな?」
「いずれ敵になりそうな台詞を言わないでくださいよ」
「ふふ。そうだね。アナタ達とはこれからも仲良くやっていきたいもの……。じゃあ、エスコートお願いね? 先輩?」
上手いボアの串焼きが食べたいそうなので、その場所まで案内する。魔界へ戻るまで付きあわないといけなかったのだが、何度も誘惑された。その誘惑攻撃は苛烈で、俺の冒険者人生で最も手ごわい敵だったいえよう。あやうく「あれ、この人。俺のこと好きなんじゃね?」と思った。
別れる頃には、お酒とお肉を奢りまくった俺の財布の中身はすっからかんになっていたが、あの子が笑顔だったので何も問題ないなと満足観に浸った。
「……これ敗けてね?」と後になって気付いた。サキュバス怖い。
――ともかく、これにて依頼は終わった。
家へと帰る途中、メイナさんを見つけた。声をかけると、怪訝な顔をされた。
「酒臭いな。飲んできたのか?」
「仕事の付きあいで」
「……しかも悪魔の匂いがするんだが」
と嫌な顔をされた。メイナさんはアグリを例外として、基本的には悪魔を嫌っている。というか獣人と悪魔は基本的に仲が悪い。神話の時代に激しい戦争があって以来、互いを敵視している。
「アタシは今回の件の後処理に追われていたというのに、アンタは楽しそうにサキュバスと遊んでいた訳か。へー」
「いや、そういう訳じゃ。これも仕事なんすよ」
「冗談だよ。今回はアンタのお陰で助かった。ありがとうな……。謝礼も出せないのが心苦しいが」
「大丈夫です。そもそも今回の件はメイナさんがいなきゃ、どうにもなりませんでした」
俺じゃ黒幕の正体を掴むことはできなかっただろう。紅の砦の操作能力があってこそだ。
「俺の方こそお礼を言わせてください。ありがとうございました」
俺だけじゃドリーさんの無念を晴らすことはできなかったのだ。
……本当に彼の為になったかは分からない。それでも何かはできたのだと思う。
「今度落ち着いたら飯でも行こう」
「良いっすね。また紅の砦の皆と一緒に騒ぎましょうよ」
「ん? 私はアンタと二人だけで、のつもりだったが?」
「…………え?」
マジで? これってつまりはデートの誘いってこと?
「冗談だ。またみんなで酒を飲もう」
「ですよねー」
と会話をしてから別れた。
都市リューベンの南西にある二階建ての集合住宅、一番の端っこが俺の部屋だった。
部屋に帰るとアグリが待っていた。絨毯の上にちょこんと座っている。
「お帰りなさい。ご主人」
「ん、ただいま。もう遅い時間なのにどうしたん?」
俺の隣部屋はアグリが借りている。
「いえいえ。一仕事を終えたご主人を労ってあげようと思いまして。健気に待っていたのです」
「マジか。嬉しい事してくれるじゃん」
「というわけで、さぁどうぞ」
と彼女は自分の膝を叩いた。
「どうぞとは……?」
「分かっているでしょう。膝枕ですよ、膝枕」
「なん・・・・・・だと……」
俺は衝撃で立ちつくす。
美女の膝枕……、嬉しいを通り過ぎて恐怖すら覚える提案。提案を受け入れるか拒否するか二択の選択肢を突き付けられる。しかし受け入れれば「恥ずかしくないんですか」とからかわれ、拒否すれば「チキンですね」とからかわれる。
俺の沽券を確実に破壊する悪魔の一手……!
「ご主人に効果的な作戦だと思ったのですよ。久々に慌てふためく顔が見られて満足です」
「くっ……悪魔め……」
「それで? どうします?」
俺は覚悟を決めた。
「いいだろう。膝枕をしてもらおうじゃないか。だが予言しよう。先に羞恥に我慢できなくなるのはお前だと、な」
「私も予言しましょう。私の膝枕がご主人の墓場となる、とね」
意味分からない会話をして、俺は床に寝転がり、頭をアグリの膝の上に載せる。
「…………」
「……………」
「………………で、どうです? ご主人」
「恥ずかしくて死にそう」
いや、これ。結構恥ずかしいな。知人に見られたら死んじゃうよ?
あーマジでやばい。今まで積み上げてきた尊厳が崩れていく音が聞こえてくる。
「降参だ。もうやめていいか」
「だめです」
と頭を抑えられる。降参して俺も耐えることにした。
「ご主人。私はご主人から追加で魔石貰いましたけど、ご主人は報酬も何もないじゃないですか。それでいいんです?」
「ああ。欲しいわけじゃないけど、まぁ別にいいかなー」
「冴えないですね」
「ほっとけ。前も言ったけど、満足しているんだよ。無理せず、ほどほどに異世界生活を楽しむ。それが性に合っているし、この生き方を続けられれば後悔しない」
異世界生活は21年目になる。そこそこ強くなったからこそ、自分の限界だって分かってくる。この二度目の人生でも華のある成功とは無縁だろう。
「この生活を続けて・・・・・・それでたまに人助けとかできれば満足だ」
「ご主人様らしいですねー。そういうとこ好きですよ」
といつも通りの会話をした。
こうして一日が終わる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次回から2章です。
投稿は次の土日くらいになると思います。
(早く投稿できれば、投稿します。不定期になり申し訳ない)
よろしくお願いします。