第13話 中級冒険者は黒幕を脅す
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部屋に入ってきた俺を見てラフネルは驚く。奴が何かを言う前に、俺はグィンガルの折れた鉤爪を床に放り投げた。奥の部屋での騒音は聞こえていたはずだが、まさかグィンガルが敗けると思っていなかったようだ。
俺はにやりと余裕そうに――疲労と頭痛を隠して――笑う。
ラフネルの顔に怯えが見え、奴は背を向け逃げ出そうとした。
俺はすぐに追いつき、床に組み伏せる。腕を捩じってやるとラフネルは悲鳴を上げた。
「……ッ! ふん、無駄だ! 私を領主に突き出すか? この領土内に私に逆らえる人間などいない! 王都にもパイプがある!」
「そうか」
俺は捻る力を強める。ラフネルはまた悲鳴を上げる。
「貴様らは私を裁くことなどできない。誰もが私の言いなりだ。証拠もみ消してやる! 逆に貴様らが罪に問われるよう根回しておこうか……!」
「そっすか」
「……貴様はどこまで馬鹿なんだ!? まだ状況が理解できていないのか?」
「状況が理解できていないのはアナタですよ、ラフネル男爵。アンタはあくまでもルールの中で上手く立ち回ろうとしていますけど。こんな襲撃をする連中がルールを守ると思います?」
ラフネルの部屋には悪魔に関する道具が沢山あった。魔法陣や魔本、触媒となる道具の数々。その中には骸骨の頭部を模したオブジェクトもあった。
その骸骨がカタカタと震え始める。
「……なんだ?」
ラフネルが不安そうに声を上げたとき、バンッと大きな音がする。ラフネルは「ヒィ」と悲鳴を上げた。
窓が勝手に開いた音だ。夜風が部屋に入り込んできて、更には部屋中の蝋燭の火が消える。
空には星もない。部屋の中は暗闇に包み込まれる。
「なにを、するつもりだ……?」
「――来い。『オブシアス』」
暗い空間に、床に、天井に沢山の『眼』が現れた。人の顔と同じくらいの大きさの眼球が、部屋中に敷き詰められ、ラフネルを見つめ始めた。
「ひ、ひぃ。な、なんだ……」
眼球がぐちゅりくちゅりと動く湿った音が部屋に響き渡る。ラフネルの腹の下にも勿論『眼』はあるので、湿った眼球の感触が伝わっているのだろう。
「おいおい。お望みの悪魔ですよ。もっと喜んだらどうです?」
「な、なんだ。これは。それに……!」
「『お前が申請した悪魔召喚のリストに、こんな悪魔はいなかったはずだ』ですか?」
「なっ」
「『オブシアス』は対象の心を見通す力を持っている中級悪魔です。そして彼女は狙った対象を常に観察し続ける。どこにいようと対象を見つけだし、心まで見通すことができる」
眼球が俺の言葉に応じ、ぎゅるりと動く。
「しかし予想していたけど、《召喚管理機構》にもアンタの手先がいたみたいですね。もちろん、彼女は無許可で召喚していますよ。無許可召喚は機構にバレやすいですけど、まぁ今回は俺の方が上手だっただけです」
「……お、お前……グッ」
急にラフネルがえづく。
苦しそうに顔を歪め始めた。寒さで体を震わせ始めている。
「さ、寒い……! 今度は何を……!」
「俺が呼んだ悪魔が一体だけだと? 中級悪魔『ウィカー』。彼はアンタの体内に忍び込んで、アンタを体内から蝕む」
「あが……ひぃ……」
ラフネルの体はガタガタと震え始めていた。
自分の身に何か、得体の知れない異常が起きているのに為す術もない。オブシアスを通してラフネルの心を見れば、コイツの心は恐怖の感情で埋め尽くされていた。
俺はラフネルの耳に近付いて囁く。
「……アンタは権力を持って世の中を上手く立ち回っているつもりみたいだけど。あいにく俺には関係ない。その気になればルールは無視する。アンタがどれだけ身を守ろうとしても、殺す手段なんていくらでもあるんだ」
「や、やめてくれ……」
俺は声を押し殺して、彼に言う。
「また誰かを傷つけようとしてみろ。誰かを痛めつけようと考えてもしてみろ――その瞬間にお前を殺す。お前をずっと見ているからな」
ラフネルは恐怖と寒さで気絶した。
俺は溜息を付く。
指を鳴らすとオブシアスの眼は消え、ウィカ―もラフネルの体内から出て行く。
オブシアスの召喚中は、召喚者も身動きができなくなってしまう。ウィカ―だって対象の侵入させるのは簡単じゃない。グィンガルのような強者なら、体内の魔力に弾かれてしまう。
だがラフネルには通じたようで良かった。
窓から街の景色を見る。
いつも通りの夜の景色が広がっていた。
「終わったか……腹減ったな」
アグリの飯でも久々に食べたいなぁと俺は思った。
その後の俺は疲労でぶっ倒れた。アグリに回収され、回復魔法をかけられた後、眠った。
後日、ラフネル男爵は『悪魔召喚』を企てたとして自首した。賞金首グィンガルを筆頭とした犯罪者数名も彼に協力していたが、その数名も同様に出頭した。
次の満月の夜に上級悪魔を召喚する計画を立てていた彼らは、その前祝として二匹の悪魔召喚を試みた。しかし召喚した中級悪魔二体は彼らの手におえず、彼らに精神的な恐怖を与えたそうだ。実際、罪を自白する彼らは非常に怯えた様子であったという。またゼル王国からの監査団がラフネルの隠れ家に入った所、確かに悪魔召喚をした痕跡があった。この結果からラフネル男爵の自白は受理され、彼は爵位を没収。グィンガル達は王都の収容所送りとなった。
ラフネルは自分が関わってきた事件の他、自分の協力者だった他の有力貴族らの名前を明かしたため、王国の監査団の調査が入ることとなる。
こうしてリューベンの街での悪魔騒動は終わりを迎えた。
この事件で俺たちの名前が出ることはなかった。
次回で1章は終わりです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。