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俺の異世界生活はこれで良い  作者: 脱出
第1章 中級冒険者は悪魔崇拝者と戦う
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第11話 中級冒険者の仲間と使い魔

※3人称の戦闘回になります。すみません。

話の構成は敵の説明。メイナの戦闘。アグリの戦闘、となっています。

よろしくお願いします。


 ――1。悪魔崇拝者達について

 

 都市『リューベン』北東地区。貴族や豪商が住む高級街。現在は貴族側の厳戒態勢が敷かれ、街を繋ぐ通路も厳しい検問がかけられてある。その一角に売却予定の家がある。事業に失敗した商人の豪邸で、現在、人は住んでいないことになっている。

 しかし、この家はラフネル達の隠れ家となっていた。

 ラフネル・アルスター男爵。父から受け継いだ資産を元手に、ダンジョン解放事業を始めとしたさまざまな事業へ出資している貴族。解放されたダンジョンにも次々とキャラバンを派遣し大きな利益を得ている。

 活動で得た資金源は、自らも信望する『悪魔崇拝』の活動への資金源に当てている。凶悪な犯罪者達も手駒に持ち、裏で幾つもの――恐ろしい犯罪に手を染めてきた。ダンジョンに手駒の盗賊達を忍ばせ、ダンジョンに挑む冒険者たちをさらう。彼等は公の記録ではダンジョン内での死亡とされているが、実際は悪魔の餌となった。

 金と権力にものを云わせ、人さらいも行い、さらった者も同様に悪魔に喰わせてきた。

 ラフネルには知恵と行動力があった。そして自分以外の者は、自分と違って努力をしない愚物だと信じていた。自分と違い、他の魂は堕落しきっている。何も生み出さず、先人たちの遺産を喰い尽くす、救いようのないクズ。腐臭を生みだすゴミ共。

 故に革命を実行する。

 一か月後、凶悪な悪魔を呼び出す。召喚には大量の魂が必要だが、幾ら魂を捧げても悪魔は満足しないだろう。それでいいとラフネルは考える。愚物どもの魂には生贄の価値すらないのだと、それを証明することこそ彼の願いだった。

 何百もの死体を目にすることで、ようやく愚物たちは目を覚ますのだとラフネルは信じていた。


 今もラフネルは隠れ家に籠り、革命の日を待っている。たとえ自分に勘付く人間がいても、絶対に安心だと彼は確信している。彼の周りには志を同じくする同士がいた。

 多くの冒険者を殺してきた盗賊団『蛇』。

 悪魔召喚を始めとした魔法を極めた魔術師ルバード・ファルマイア。

 そして単騎で冒険者パーティーを壊滅させた男。高額の賞金首グゥインガル。

 皆、強く残忍で頼りになる。仮に誰かが侵入したとしても、彼等にとって遊び道具に過ぎないのだ。

 ラフネルはワインを口にする。今夜も実に気分が良かった。


 

 ――2.大広間の戦闘


 『蛇』。四人の人間で構成される盗賊団。タンク役の男が攻撃を引きつけ、暗器使いが標的を毒で少しずつ削る。後ろからは弓使いが牽制し、更には魔術師が後ろで控える。

その卓越されたコンビネーションで幾つもの冒険者パーティーを壊滅させてきた。敵を囲み、毒を用いてじわじわと標的を嬲り殺す。標的が命乞いをし、悲鳴を上げ、仲間だけは逃がそうとする声を聞くのが彼等は大好きだった。 

 

 そんな彼等はいま、全員とも地べたに這いずり回っていた。

 魔術師は杖を折られ、弓使いは両目を潰され、暗器使いは両腕を折られていた。タンクの腹には深く槍が突き刺さっている。また逃げださないように全員の両足も折られていた。


 獣人メイナは退屈そうに煙草の火を付ける。


 隠れ家の大広間、そこに盗賊団は陣取っていた。侵入者に気付き、獣人の姿を見た彼等は戦闘体勢に入る。敵は一人―——容易い、しかも若い獣人だと彼等は色めきたった。

 メイナは跳躍し、一瞬で弓使いまでの距離をつめた。タンクが驚いた時には、既に弓使いは地に伏して、魔術師も倒されるところだった。

 暗器使いが雄叫びを上げて、ナイフを投擲する。そのナイフもメイナの槍使いで叩き落とされた。間合いを詰められ、槍を叩き付けられ暗器使いも倒れる。

 たった数秒でパーティーが瓦解した。

 タンクは怒りの声を上げようとするも、槍で腹を貫かれた。

 ――獣人族。遙か昔、魔界から押し寄せる魔獣に対抗するために、神が生み出した最初の人類。ゆえに人族より強靭な肉体、そして長い歴史から培われた戦闘技術を持つ。個としての戦闘力は最強種族と名高い耳長族エルフにも劣らない。

 

「さてと。少しは反省したか? ちゃんと後で自首してもらうからな?」


 のメイナの脅しに、盗賊達は必死に頷く。その反応を見てメイナはつまらなそうに笑う。


「……どうにも信用できないな。後で治療はするんだし、もう少し痛めつけておこう」


 と手の骨を鳴らす。

 盗賊達の悲鳴と鈍い破壊音だけが大広間に響いた。



 ――3.三階。魔術工房の戦闘。


「ほうほう。『治癒』魔法を応用した『睡眠』魔法ですか。リラックスさせ眠りを誘う。やりますねぇ」


 魔術師ルバードは、深い眠りに落ちた同志たちを見て頷く。彼の目の前には一人の女性がいた。何故かメイド服を着た銀髪の女性。姿形は人間だが体内を巡る魔力の質は誤魔化しようがない。


「悪魔様が何の要件でございましょう?」

「私はご主人の付き添いですよ。アナタ達を懲らしめにきました」


 と答えるアグリはとてもつまらなそうな表情を浮かべていた。

 その答えにルバードは大きな溜息をついた。


「嘆かわしい。崇高なる生物である悪魔のアナタが愚か者に従うとは。いや、悪魔といえど中級ならその程度でしょうかねぇ。現にアナタの魔法は私に全く効いていない」


 目視できない魔力の壁。それがルバードを覆っていた。


「我が『魔力障壁』は敵からの魔法干渉を無効化する。悪魔にも通用することも証明できたのは僥倖ですね。まだまだ私は高みに登れる」

「そうですか」


 アグリは無感情に言い、一歩ルバードへと近づく。


「悪魔のアナタなら分かるはずだ。今の時代の人類の『魂』がどれだけ腐り果てているかを! 遙か昔、西大陸に魔物が跋扈していた時代、多くの戦士が悪魔と取引を行いました。取引に用いられるのは魂だけ。戦士たちは魂を差し出すことで力を手にし、その力で魔物たちを倒し土地を切り開く。使命を果たした後に悪魔に魂を渡して眠りにつく。そして悪魔は手に入れた崇高な魂を大事にする……儚く、美しい、英雄たちの歴史です」


 アグリは一歩、一歩と距離を縮める。


「しかし時代が進む中で取引に魂が用いられることは稀になりました。対価は魔力や貴重品など低俗のもの。そして召喚に応じるのは中級程度の悪魔ばかり……上級の神話クラスの悪魔達は姿を滅多にみせなくなりました。何故か? 魂の質が落ちたからです。悪魔にとって、人の魂は価値あるものでなくなったからです。過去の英雄たちを神聖視するだけで、自らは進歩しないゴミが増えたからですよ。魂の証明など分かりきった命題です。魂に価値などない! 必要なのは証拠だけです」

「それで沢山殺すんですか?」

「ええ。魂の証明が為されれば、『肯定派』を説得することもできる。奴らを黙らせれば『悪魔崇拝』の中での我々の立場も約束される――。そして全種族を導く指導者となる」


 アグリは歩みを止めない。ルバードも流石に神経を張り詰める。

 カツン、アグリの靴音が響く。

 アグリはルバードを通り過ぎっていった。そのまま窓の方へと足を進める。

 ルバードはハァと息を吐く。

(警戒したが全くの杞憂だった。悪魔だからどんな手を使うかと期待もして、手を出さずにいたが失望を禁じ得ない――ここで殺してしまおう)


 通り過ぎる一瞬、アグリの眼が紅く輝いたことを彼は気付かなかった。


「その価値がない魂にアナタは含まれていないのですか?」

 

 アグリは窓に近付きながら言う。ルバードは振り返り大笑いをする。


「私がですか? まさか!? 稀代の天才魔術師の私が? ありとあらゆる魔法を極めた魔術師である私が愚物どもと同じな訳がない! 悪魔召喚を極めたとされる《開闢の》レギウス・エリードにも劣らない!」


 アグリは窓を開ける。夜風が室内に飛び込んでくる。


「そうだ! 私こそ選ばれた人間なのですよ! そこらのザコとは違うのです……そうだ、ザコと言えば……!」


 ルバードは大笑いをして、自分の杖を床に投げ捨てる。


「手足に使っていたあの男の名前は何でしたっけねぇ? 無様に泣きわめいて我々の命令に従うことしかできない。傑作でしたよ! ええ本当に!」


 アルバドは一歩、一歩と窓へと近づく。


「ああいう手合いこそ世界に不要な無能と言うものです。無能は消さなければならない」


 アルバドは笑う。窓へと近づく足を止めない。


「私はこの世界の愚物を一掃する使命を持っているのですよ」


 アルバドは窓の正面に立つ。

 一筋の汗がつぅと頬を伝う。


「私は、私達は愚物どもとは違う! 選ばれている……優れている!」


 アルバドは笑う。歯はガチガチと震え始めていた。

 彼は窓の手摺りに手をかける。


「天才で! 英雄となるのだ! 賞賛され! 名誉を手に入れるに相応しい……そんな人間なのですよぉ!!」


 窓から身を乗り出す。

 眼下には固い石畳。

 ルバードの手足はガタガタと震えていた。


「わ、私はぁ! 私……こんな……なんで……体がッッ!」


 足を手摺りにかける。

 アグリはその様をじっと見つめている。


「体がぁ……え?……あれ……違う……言う事を聞かない……!!!」

 

 ルバードの両目から涙が溢れだす。

 両足を手摺りにかけた。


「は、え……。いやだ……なんで……私に何をした?」


 アグリは何も答えない。


「と、取引をしよう! この街から手を引く! 好きなだけ金もやろう!」


 アグリは何も答えない。

 冷たい夜風がルバードの頬を撫でる。


「悪魔崇拝者について私が知る全てを話す!! 彼等のメンバー、戦力、全て洗いざらい話すから……術を解いてくれ!」


 アグリは何も答えない。

 ただ、つまらなそうに。虫を観察するような目でルバードを見ている。


「ひっ……謝る! すまなかった! だからやめてくれ!」


 ルバードは必死に窓の枠を掴む。

 その掴む指も一本、また一本と離れていく。

 体全身が震えていた。


「やめてくれ! 悪かった! 自首する! 罪も償う!! やめてください……お願いします!」


 全身が宙へと乗り出す。


「嫌だぁ! お願いします! もうしませんから! 悪いことなんてしません! お願いします!! やめて! やめてやめてやめてやめ――」


 アグリは視線をルバードから外した。

 彼は両手を離し、宙へと飛んだ。


「ああああああああああああああああああああああ!!!」


 グシャリと鈍い音がした。


 暫くしてからアグリは口を開く。


「――まぁ。魔力で体をガードさせておきましたし、たぶん死にはしてないでしょう。

今使ったのは『催眠』魔法。対象の無意識化に呼びかけ、意のままに操る魔法です。対象が緊張状態の時により作用しやすい……。って誰も聞いていないですね」


 アグリは窓の手摺りに寄りかかり上階を仰ぎ見る。


「ご主人は黒幕のところですかねー」


 彼女にとっての今の楽しみは、主人であるギークを見届けることだった。

 ……魂には必ず終わりがある。英雄にしろ悪党にしろ、その人生には必ず結末がある。

 ギークの前世は不幸で終わった。後悔して死んだ。不幸になる為に産まれた訳でもないのに、結果は無残なものだった。

 彼は幸運にして、人生をやり直す機会を得た。その魂が果たして幸福に生きることができるのか。悪魔として見届けたいと彼女は思っていた。


「まぁ。それはそれとして、ご主人はかなり好きなタイプの人間ですし……。誰も聞いていないところでデレても意味ないか……」


 アグリは退屈そうに足をぶらぶらさせた。


次回は主人公の戦闘回になります。


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