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結局、酔っ払いのゼツとノイヤーさんは肩を組んで二人でどこかへ消えてしまったので俺は一人で帰宅。
翌日、トンプソンと話すためにギルドの本部へ来てみると案の定というか受付カウンターの前には行列が出来ていた。
「ったく……デカパイ姉ちゃんまた遅刻かよ……」
「まぁ遅刻した日はいつもよりボタン一つ多めに開けてるし今日もそうじゃないか?」
列に並んでいる冒険者たちがそんな会話をしているのが聞こえた。
ノイヤーさんはあらゆるヘマを乳で誤魔化して生きているらしい。
「うわぁぁああああああああ! 遅刻遅刻ぅ!」
遠くから硬そうなバゲットを咥えたノイヤーさんが走ってくる。走る度に揺れて邪魔なのか、バゲットの根本を胸で挟んでいるのでそこはかとなくセンシティブなルックスになってしまっている。
行列を作っていた冒険者たちはさっきまでの愚痴はどこへやら、ノイヤーさんを歓迎ムードで出迎える。
ノイヤーさんは俺に気付くと、ウィンクをしてカウンターの方へ走って行った。
俺もトンプソンのところに向かわないと。忙しい人なので捕まえるのが大変なんだった。
◆
トンプソンの部屋の前。ノックをすると「ヨウムか、入れ」と返事が来た。相変わらず物凄い洞察力だ。
「失礼します」
「あぁ、首になったらしいのう。全く使えん奴らだ」
「そんな事言わないでくださいよ……」
いくら親代わりで遠慮をする間柄ではないとはいえ、顔を合わせてすぐに俺が使えない奴だなんて言わないで欲しい。
「本当にそうじゃよ。何のためにSSS級の肩書を与えてモチベーションをあげてやったのか分からんではないか」
「す……すみません……」
「何故ヨウムが謝る? ワシは他の三人に対して言っておるのじゃぞ」
「え?」
昨晩のレヨンの言葉が頭をよぎる。SSS級になったのは俺の存在が大きかったからだと。
「え? とは何だ。SSS級に昇格させたのはヨウムの実力あればこそ。他の3人はお前のおまけだ。それを何を勘違いしたのか、お前が仕事をしておらんと言いがかりをつけおって……」
「えっ……えぇええええええええええええええええ!? お、俺なんですか!? 本当に!?」
「そりゃそうじゃよ。そこの大穴を見て来い。あれを誰が開けたのか思い出せばその妥当性は分かるじゃろうよ」
「いや……そうですけど……大体トンプソンが言ったんじゃないですか。俺に本気を出すなって。だから俺は支援するような立ち回りをしていたんですよ」
「それはそれ、これはこれじゃよ。お前が本気を出したら周りの人も感電死してしまうじゃろうが」
「まぁ……そうなんですかね」
「何にしても、それすら見抜けないような奴らじゃったという事。気を取り直して新しい仲間を探しなさい」
「分かりました。失礼します」
俺はゼツと仕事をすることになっている。新しい仲間の一人目はゼツなんだろう、と思いながら、集合場所であるギルド本部の集会所に向かった。
◆
トンプソンはヨウムを見送り、彼の足音が遠のいていくのを確認すると大きくため息をつく。
ヨウムが自分に対して怒り、本気で力を解放したらいかに歴戦の勇士であるトンプソンとはいえ無事では済まないのだから。
「はぁあああああああ……緊張したぞ……一瞬ビリっと来たしな……それにしてもいつの間にか背もワシを越しおってから。雷神と言えど昔は小さかったのにのう……」
その彼との邂逅を終えたトンプソンは一息ついて過去の思い出に浸る。
そして、トンプソンは一度座り直してヨウムの新しい仲間の候補を考える。
「やはり実力もそうだが性格が大事なようだな。あやつの支援は地味すぎる。かといって派手にやれとも言えんし……あの地味な支援で気づいてくれるのか、テクノスのメンバーが心を入れ替えてくれればいいのだが……」
トンプソンはああでもない、こうでもないとヨウムの新しい仲間に必要な条件を考える。
すると、トンプソンは一つの名案を思いつく。
「おぉ! とりあえずあやつに預けてみようかのう」
トンプソンはすぐに目当ての人物への手紙をしたため始めるのだった。