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 仕事を終え、二人でブルーバッファローの革を納品してギルドの建物に顔を出した。


「お、おかえり、ゼっちゃん」


「そんな呼び方、これまでにしたことないだろう?」


 ゼツはジロリとノイヤーさんを睨む。


 どうやらゼっちゃんというあだ名から嘘だったらしい。俺もノイヤーさんに非難の視線を向けると「あはは……」と笑って誤魔化されてしまった。


「ヨウム君、ありがとうね。ゼツは大丈夫だった? ブルーバッファローに囲まれて泣いてたんじゃない?」


 その場で見てきたかのように言い当てるのでゼツが隣で「うっ」と声を漏らす。


「だ……大丈夫でしたよ。俺のやることはほとんどなかったくらいです」


「へぇ……やっぱゼツってすごく強いんだ。どう? 今度Aランクパーティに入ってみない? 欠員が出たところがあるのよぉ」


「私は構わないが……相手が受け入れてくれるのかどうか……」


「うーん……そんな悪い人ばかりじゃないと思うけどなぁ……」


 ノイヤーさんは大きな胸を持ち上げるように腕組をして考え込む。やがて妙案を思いついたようで「あ!」と叫ぶ。


「ノイヤー、妙案が?」


「あるよ。ヨウム君と組んだらいいんじゃないかなって思ったんだ。ヨウム君、今フリーなんだってさ」


「ヨウム殿が? この人はテクノスのメンバーなのだろう?」


「そのうち正式に発表されると思いますけど、俺、クビになったんですよ」


 自ら報告するのは二回目。結構惨めな気持ちになるので早いところギルドから公式発表をして欲しいところだ。


「なっ……そ、そうなのか……それは言いたくないだろう事を……すまない」


 ゼツはそう言って直角に腰を曲げて頭を下げる。礼儀正しいのは良い事なのだけれど、堅苦しすぎやしないだろうか。


「だ、大丈夫です――」


 その時、ゴーンゴーンと街の中に教会の鐘の音が鳴り響いた。夕刻を告げる鐘の音は俺やゼツのような冒険者稼業をする人にはあまり関係はないが、ノイヤーさんのような雇われ人にとっては終業の合図でもある。


 ノイヤーさんは嬉々として窓口に『受付休止中』の立て札を置き、身軽な動きでカウンターを飛び越えてきた。


「さ、飲みにいこっか」


 ノイヤーさんは俺とゼツを交互に見てニッコリと笑う。


「あぁ……いいぞ。ヨウム殿には改めてお礼をしなければならないしな」


 ゼツも意外とノリノリだ。


「そんなのいいですよ……それに俺は未成年。酒は飲めないんです」


「と思ってさぁ、私も資料を見てみたの。今日、誕生日らしいじゃん? 18歳、おめでとう。つまり、飲めるって訳!」


 ノイヤーさんはニッコリと笑って俺の背中を叩く。


 俺は孤児なので正確に生まれた日を知らない。だからギルドの書類には適当な日付を書いたはず。


 それがたまたま今日だったらしい。


「あぁ……ありがとうございます。じゃあ飲みますよ」


「おぉ!? 初めてをお姉さんと共に過ごしてくれるって事!? 嬉しいなぁ」


 ノイヤーさんはフレンドリーに俺と肩を組んできた。早くも酔っているんじゃないかと思ってしまうけど、この人はこれが平常運転。つまり素面だ。


「ちなみに初めてじゃありませんよ。こっそりってやつです。パーティで遠征した時に」


 ゼカとムサビは俺よりもいくつか上だ。正確にいくつかは忘れたけど。レヨンは俺と同い年。


 だから、兄のように振舞う二人に勧められるまま、俺とレヨンは酒を飲んだこともあった。


 懐かしいなぁなんて思いながら、ギルドの集会所の出口へ向かう。


 ノイヤーさんは「とー!」と威勢のいい掛け声とともにギルドの扉を叩いて開けた。


「うわっ! 気を付け……なんだ、お前か」


 ノイヤーさんが開け放った扉の向こうにはゼカがいたらしい。


 ノイヤーさん、俺、ゼツの順番で顔を見て、最後に俺に戻ってくる。


 特に話す事もなく、ゼカは「チッ」と舌打ちをして建物の中へ入っていった。


「感じ悪いなぁ。前からあんな感じだから苦手だったけどさ」


 ノイヤーさんはゼカが十分に離れたところでそんな事を言いだした。


「まぁ……あぁいうやつなんで」


 俺がそう言うとゼツが「羨ましいな」と呟いた。


「あいつが、ですか?」


「さっきの態度はどうかと思うが、それだけ自分に自信があるという事の裏返しだろう。私にはそれだけ自分に自信を持つことが出来ないよ」


 ゼツはそう言って俯く。俺も思う節はあった。


 俺をパーティから追い出す時もそうだが、テクノスのメンバーはいつも自信にあふれていた。


 対する俺はいつも怖気づいて、陰でこそこそしているような存在だった。もちろん、本気の力を解放しないためという側面もあるけれど。


「分かります。俺もそうですから。意外とゼツさんとは似た者同士かもしれませんね」


「ふっ、そうなのか? あの『テクノス』のメンバーとは思えないくらいに謙虚なのだな、ヨウム殿は」


「まぁ……それなりですよ」


 俺とゼツが話していると間にノイヤーさんが割って入ってきた。


「はいはーい! そう言う話は飲み屋についてから! 旧市街のお店で良いよね? 安うまだしさ」


「構わんぞ」


「俺も良いですよ」


「はーい! じゃ、レッツゴー!」


 ノイヤーさんは俺達を先導するように、酒場へと向かって前を進んでいくのだった。

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