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 ギルドの巨乳お姉さんによって懐を痛めることなく王都の一流ホテルの最上階を獲得。


 荷物をおいて早速観光に繰り出した。俺は両国の国境警備隊にも顔が利くようになったので、現場の人を抑えるような動き方がいいのかもしれない。


 まぁまずはなんにせよ羽根を伸ばさないとだ。


「お腹が減ったのです」


 ぐぅ〜と可愛らしい音をお腹から鳴らしたレヨンがそう言う。


「……私のキャラが奪われる」


 スズが冗談めかして言う。


「それキャラ付けでやってたのかよ……」


「……冗談」


 俺達がいつものように冗談を言いながら歩いていると、不意にゼツが立ち止まる。


「む! ここは有名だぞ! 『スパイシーファイアードラゴン』だ!」


「何なのですかそのダサい必殺技みたいな名前は……」


 レヨンは呆れた顔で店の看板を見上げる。そんな呆れるほどダサいか、と俺は内心でむっとする。


「ダサいか? 格好いいだろ」


「……ダサい」


「名前はダサいが料理は旨い。ダサうまで有名な店だな」


 スズとゼツも名前がダサいことは否定しない。


「かっこいいのになぁ……ここにするか」


 ◆


 席に通されてしばらくするとグツグツと煮えたぎる鍋が運ばれてきた。注文はゼツに任せたのだが失敗したかもしれない、と直感する。


「おぉ……? こ、この暑いのに鍋かよ……」


「暑いときにこそ辛いもの! なぁに、この地に住む人が実践していることを真似するだけさ!」


 ゼツは意気揚々と服をはだけてそう言う。こいつはただ脱ぎたいだけだろう。


 セッティングされた鍋の中身は真っ赤で、ところどころ見たことのないスパイスが浮かんでいた。


「こりゃ……うわっ! 辛え!」


 ひとすくいしたスープを舐めると、口の中で雷魔法が暴発したかのような衝撃だった。


「これは……無理かもしれないのです……」


 レヨンは帽子を取り降伏宣言。


「……幸せ」


 スズはジュルジュルとスープを飲みながら幸福宣言。


「あぁ……口が幸せだ。粘膜を針で突かれているようだ……」


 ゼツは口福宣言。そういえばこいつはドMだったな。


 どちらかといえば俺はレヨン寄り。レヨンの隣に椅子をずらし、メニュー表を広げる。


「レヨン、何か辛くない物を頼もうぜ」


「えっ……あっ……ひゃい!」


 辛いスープを飲んだからなのか、レヨンの顔は真っ赤で目も潤んでいる。


「辛い物、辛いよなぁ」


「そうなのですよ」


「レヨン、良いのか? 逃げても」


 ゼツは汗を額から垂らし、ニヤニヤしながらレヨンを煽る。


「にげっ……これは逃げなのですか?」


「あぁ。大人の階段を登るんだよ」


「大人の……階段……」


「そうだ。辛い物を涼しい顔をして食べてこそ大人というものだ」


「その定義だと二人はまだ子供なのですよ」


 その通り。ゼツもスズも生理反応には負けたようで、鼻から頬にかけて赤みがかっている。鼻の頭にも大きな水滴が乗っているし、とてもじゃないが『涼しい顔』で食べている様子はない。


「……レヨン、お手本」


 スズもレヨンを煽る。


「まさか……お前らでもこのスープって辛いのか?」


「あぁ……いささか調子に乗りすぎたよ」


「……苦難は皆で分かち合う」


「仕方ないな……すみませーん! ミルクをくださーい!」


 俺は店員にミルクをオーダー。これで粘膜を保護しながらスープを処理していく算段だ。


「レヨンは無理するなよ。好きなもの頼めよな」


 レヨンは俺が差し出したメニューを差し戻してくる。


「いえ……私も大人にならないといけないのです! それに仲間が苦しんでいるのに一人だけお子様ランチなんて頼めません!」


 苦しんでなければお子様ランチを頼んでたのか。


「そっ、そうだよな! レヨンは偉いなぁ!」


「う……うむ! ささ! 一緒に大人になろうな!」


「……アダルト」


 レヨンの機嫌を損ねると一人あたりのスープの配分量が増えてしまうので一斉にヨイショを始める。


 レヨンはそれに気分を良くしたようで、器並々に真っ赤なスープを注いだ。


「うぅ……見るからに辛いのです……」


「むっ、無理するなよ……」


 真っ赤なスープを前にたじろぐレヨンを見ているとさすがに可哀想になってくる。


「ヨウムさん。私がこれを飲めたら、明日は朝一番にデートをしてほしいのです」


「朝か? いいぞ」


 ゼツとスズも同意するように頷いたので交渉成立。


 それを見たレヨンは意を決したようにスープを口に運んだ。


「はふっ……はっ……からっ……うまっ……なのです!」


 目を見開いてレヨンは感想を述べる。


 その手は止まらず、辛い辛いと言いながら次々と口に運んでいく。


 大人になりたいからなのか、本当にハマってしまったのか。どちらにせよ、レヨンは一人あたりのノルマをゆうに超える量を飲んでいたのだった。


 ◆


 翌朝、レヨンと出かける約束ために俺は三人が泊まっているスイートルームへやってきた。


 スズとゼツは胸元も脚もゆるゆるに露出した部屋着のままベッドに寝転んでいる。


 だが、レヨンの姿がない。


「あれ? レヨンはどこだ?」


「トイレじゃないのか?」


 ゼツが起き上がってトイレを指差す。


 同時にガチャリと扉が開き、外出用の準備を整えたレヨンがよろめきながら出てきた。


「うぅ……おしりが痛いのです……」


「だ、大丈夫か?」


 絶対に昨日辛い物を摂り過ぎたせいだ。南無南無。


「はっ、はうっ!? よ、ヨウムさん!? な、何でもないのですよ!」


「尻穴が痛いとは……レヨンは知らない間に大人の階段を一気に駆け上ったようだな。昨晩はお楽しみだったのかな?」


 ニヤニヤしながらゼツがレヨンをいじる。


「そっ、そういうことではないのです! 穴の周りがヒリヒリと……あぁ! よ、ヨウムさん! 聞かないでほしいのです!」


 レヨンは顔を真っ赤にして叫び、またトイレにこもってしまった。


「あの調子ではしばらく出てこられそうにないな。ヨウム、私と散歩でも行くか?」


 ゼツがそう言って俺の隣に来ようとしたのだが、目敏いスズはそれよりも早く俺の隣に駆け寄ってきた。


「……私の方が早かった」


「むぅ……仕方ないな。行って来い」


 ゼツは苦笑してスズに順番を譲る。だが、スズは寝癖はつき放題、服も部屋着のままと外に出る準備は何一つ整っていない。


「……3分で準備する」


「はいよ」


 スズは俺がいるのも構わずに下着姿になり、服を着替え始める。


 あまりジロジロ見るのも悪いので俺はトイレの方に身体を向ける。


「レヨン! ゆっくり治せよ! 時間はたっぷりあるからな!」


「分かったのです!」


 トイレの向こうからは元気そうなレヨンの声がした。この様子なら多分大丈夫だろう。


「……お待たせ」


「早いな!?」


 3分どころか数十秒で着替え、髪の毛を直したスズは俺の腕に抱きついてくる。


 動きづらさを感じながら、俺とスズは朝の市場へ繰り出すのだった。

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