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 橋を渡り切ると、また検問。今度はロムビア王国側の検問だ。とりあえず責任者と話したいので、不本意ではあるがテクノスの威光を借りることにした。


「冒険者ギルドのX級パーティ、テクノスです。ここの責任者の方とお話をさせてください」


 警備兵は「はぁ?」という顔をする。


 あ、あれ? 知られていない?


 俺が少しだけきょどっていると、隣にいた先輩らしき警備兵が「おい」と脇腹を突いた。


「冒険者ギルドで一番有名なパーティだぞ。男一人に女三人。ロリ魔女と赤髪の戦士と東洋系の剣士が目印だから覚えとけよ。すみません、こいつ新人でして……すぐにご案内しますんで」


 先輩警備兵は後輩を指導しながら俺達にペコリと頭を下げて近くにある小屋に入っていく。


 その後ろ姿を眺めながらレヨンがにやけながら俺を見上げてくる。


「ヨウムさん、地味なのですか? 私達三人で判断されているようなのですよ」


「うっせえな……」


 図星だが触れられたくないところをレヨンにいじられてしまった。


「ふむ……いっそ全裸になってみるのはどうだ? 全裸の男にロリ魔女と赤髪の戦士と東洋系の剣士の4人パーティだよ」


 ゼツの提案は「ないな」と言って却下。


「……トールの遺品」


 スズがぽつりとそう呟く。


 トールが遺していったハンマー、マント、ネックレス、腕あての4つの装備品は誰も欲しがらなかったので俺が持ち歩いている。


 だが、ハンマーを持ち歩くと鍛冶屋に見えるし、マントは金ぴかで派手だし、ネックレスも首回りがかゆくなりそうだし、腕あても蒸れそうだし、という事で何も身に着けていなかったのだ。


「まぁ……マントくらいは使っとくと目立つか。ってもギルドが何か作ってくれりゃいいだけなんだけどなぁ……Aランクまではあるんだろ? ランク証」


「それを落としてしまったら、拾った人が誰でもテクノスになりきれてしまうという問題があるのですよ。『己の武名でのみ道が拓ける、というのが上級者にはあるべき姿じゃろう?』とトンプソン爺も言っていたのです」


「そういう一面もあるんだろうけど、現状ロリ魔女っ娘で有名なだけだろ……」


「可愛い可愛い魔女っ娘、なのですよ」


「……激しく同意」


「わわっ!」


 スズがレヨンの背後に回り込んで頭をなでなでする。


 そんな風に遊んでいると、警備兵が小屋から出てきた。


「皆さん、こちらへ」


 警備兵の案内で小屋の中へ入る。


 そこには粗末ながらも執務室としての体裁を整えた応接用のローテーブルとソファが置いてあり、一人の初老の男がソファにかけて待ち構えていた。


「いやはや……高名なテクノスの皆様にお目にかかれるとは光栄の極み。私はハニヤ。ロムビア国王より辺境伯に任じられ、この辺りの統治を任されております」


 つまり、俺達がここに来ることになった小競り合いの当事者ということ。いきなり大物を引いてしまった。だが、俺達がその小競り合いの仲裁に来たと見抜かれると面倒だ。サーペントが川に出ている件もあるし、その討伐というのはちょうどいい隠れ蓑になるだろう。


「そんなに偉い方が国境のあばら小屋で仕事をされているんですね」


「私は現場主義なのでね」


 ハニヤはニッと笑って答える。とっつきやすいがその目は笑っておらず、腹の中では何を考えているか分からないタイプの人だ。


「現場主義……ですか。では川の件で?」


「左様。トシバトゥン側とも連携を取りたいのですが、過去の諍いのせいで中々うまくいかず困っていたところでしてな」


「過去の諍い?」


 向こうから堤防をめぐる小競り合いの件に触れて来てくれた。これはチャンスだ。


「えぇ……トシバトゥン王国には長年大きな顔をされ続けてきた。当時を知る人がとうの昔に死に絶え、子々孫々に渡って。そろそろそのバランスを見直す時期なのでは、と我々は考えているんですよ」


「なるほど……まぁ、冒険者ギルドは国同士の争いには不介入です。それはそれとして川に出たサーペントを処分しても?」


「うむ……それは是非お願いしたい。近頃はサーペントのせいで冒険者もあまり近寄ってくれなくなっておりましてな。手には負えないと思う人が多いのでしょう。さすがテクノスの皆様だ」


 露骨なヨイショには適当な笑顔を返し、俺達は小屋を後にする。


 しばらく進んで川岸に出ると、そこでやっとレヨンが最初に口を開いた。


「私は生まれも育ちもワイムなので国同士の事は分からないのですよ」


 いまいち小競り合いの経緯が理解できない、といった感じでレヨンが首を傾げる。


「俺もだな……」


「……私はトシバトゥン側。ロムビアは……よく知らない」


 スズもこういう話には疎そうだ。


「まぁよくある話ではあるな。たかだが数人の家族で住んでいる家ですら、隣人との諍いが起こるんだからな。幾万もの人が住んでいる国同士が接して仲良くやろうというのが無理な話なのだろうな」


 これまでの人生であちこちを旅していたのであろうゼツがそう言うと妙に説得力がある。説得力があるのだけど、ゼツだぞ? と思ってしまう自分もいる。


「なんか……ゼツがまともな事を言うとそれだけで違和感が凄いんだよな」


「分かるのです」


「……サカモト、舐められてる」


「良いんだ良いんだ。どんどん舐めてくれ。部位の指定も良いかな?」


 いじり過ぎたのかいつものゼツが出てきてしまった。


「俺が言いたかったのは頼りになるって意味だからな」


 ゼツは俺に顔を向けると嬉しそうに少しだけおどけた表情を見せる。


「では頼りになるヨウム。蛇を倒して来てくれるかな? 私はもしもの時に備えて陸地で待機しておくからな」


「へいへい……どうせ俺がやる事になるんだよな」


 サーペントは水の中にいるのだから雷魔法をぶっ放せば簡単に浮き上がってくるだろう。


 氷のように静止した水面を見ながら、どこにいるかも分からないサーペントに当てるため、俺は水に手を突っ込んで雷魔法を一気に水中へと放った。

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