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ワイムを出発して数日、トシバトゥン王国とロムビア王国を分かつ大きな川、ピルム川に到着した。
「うわぁ……大きな橋なのです」
川の対岸とを繋ぐのは渡し舟だけでなく、馬車が横に数台は並んで走れそうな幅の橋も架けられていた。
橋の周りには駐屯兵用の宿舎や関所が設けられていて、小競り合いがあるとはいえ人の往来もそれなりにあるようだ。
馬車は関所の前まで進み、そこで停止する。
「冒険者ギルドの者か?」
警備兵が馬車の外から尋ねてくる。
「えぇ。そうです」
「そうか……もしよければ少し話を聞いてくれないか? 私はここの責任者。トシバトゥン王国に仕える騎士のハイカという」
粗末な格好をしていたので警備兵だと思っていたら騎士だったようだ。兜を脱ぐと黒髪センター分けの若風な男性だった。精悍な顔つきでここを統括していると言われると妙に納得してしまう。
「あぁ……なるほど。ちなみにユティラミアさんってご存知ですか?」
「なっ……ユティラミア公のお知り合いか!?」
公? ユティって騎士の中でも偉い人だったのか。王直々に命令を受けて動いているくらいだし、有力者ではあるのだろう。
「えぇ……実はテクノスというパーティでして……」
「てっ、テクノス!? あの伝説の……ダンジョンを数時間で攻略したという……」
ハイカは数歩引きながら驚く。
どうやら伝説とまで言われるようになっているようだ。
ハイカの反応に対してスズは真顔、ゼツは苦笑い、レヨンは胸を張ってドヤ顔をしている。
「これこれ。これなのですよ。やっと新生テクノスの名前も轟いてきたのです」
「まぁ……そのテクノスですね。それで、どうしたんですか?」
聞いてくれ、と言われたら断れないのが性分だ。
「実はな……そこの川、ピルム川に魔物が現れたんだ。サーペントというらしくてな。それ以来渡し舟が出せなくなってこの橋の往来がパンクしているんだよ。河川を使った運送も止まっている」
あー、そういえばカスタリア公爵からもそんな話をされていたな。通り道だし、早めに取り除いた方が良いのだろう。
「それならカスタリア公爵からも依頼をされていたので、俺達が対応しますよ」
「そうか! ありがたい! 以前、ここを冒険者ギルドの偉い人が通ったのだが、急いでいるからと断られてしまってな」
「その人……ベトベトの髪の毛で性格の悪そうな顔をしていましたか?」
「ま……まぁ……受ける印象は人によるだろうが、そう感じる人もいるだろうな」
ハイカは遠回しに肯定する。
俺とハイカの頭には同じ顔が現れている事だろう。ナンプソンだ。まぁ戦争を止めるのが何よりも優先なのだから分からないでもないが。
「そういえば、この辺りは平和なんですね。堤防をめぐって小競り合いが続いていると聞いたんですけど」
「それもサーペントのせいで止まっているのだよ。堤防の工事も止まっているし、危険なので橋以外では渡河も出来ないからな」
サーペントは期せずして平和の守り神になってしまっていたようだ。むしろこのまま放置した方が小競り合いが減って良いんじゃないだろうか。
「小競り合いが出来なくなったなら良い事にも思えますけどね……」
「それはそうだが……やはり経済的な影響も大きくてな……この辺りには橋がここしかない。渡し舟を再開させてある程度人が分散してくれないと私達も過労死してしまうんだ」
労働の果てに死ぬか、小競り合いで死ぬかの二択だとこの人は後者を選ぶらしい。
「まぁ……とりあえず対岸に渡ってもいいですか? 向こうの責任者の話を聞いて、双方の合意がないとサーペント退治の件で話がこじれたら厄介そうですし」
「うむ。そうだな。ありがたい。お願いできるか?」
「こういうのは中立の俺達の方が何かとやりやすいですからね。行ってきますよ。じゃあもう通っても?」
「あぁ。お願いする。おい! 門を開けろ!」
ハイカの合図で門が開き、馬車は再び進み始める。
「……サーペント、美味しいのかな?」
スズは橋の真ん中に差し掛かったところで、川を眺めながらそう呟く。
「知らないけど、ベヒモスの時は消えちまっただろ? 多分今回もすぐに消えるんじゃないか?」
「……残念」
スズは飽くなき食への探求心はすさまじい物がある。
「そういえばロムビア王国ってトシバトゥン王国とはまた文化とかが違うんだよな。飯も辛いんだっけか」
「うむ。私は一時期住んでいたことがあるんだが、とにかくスパイスを効かせる料理が多いな」
「……じゅるり」
「ま、スズはそれを楽しみにしててくれよな」
スズは俺の言葉に首を横に振って手首を掴んできた。
「……デートも忘れないでね。次は私から」
「あー! 私も予約するのです!」
レヨンは負けじと空いている手を掴んで来る。
「ふむ……では私も予約した方が良いのか? またマラソンをしような、ヨウム。ロムビア王国の王都は水の都と言われていてな、とてもきれいな所だぞ」
ゼツはそんな俺達を見てハッハッ! と豪快に笑っている。
この3人を同時に相手にしていたら俺もそのうち過労死するんじゃないだろうか、なんて思ってしまうのだった。
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