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ゼツとのランニングは結構な遠出になっていたらしく、俺は迷いながらホテルに到着。
その頃には日も上がり、街の人出も増えて来ていた。
ホテルの前では真っ赤な髪の女の子がしゃがみこんで地面の砂に指で何かを書いていた。
「スズ、お待たせ。何を書いてたんだ?」
「……肉」
スズが書いていたのは分厚いステーキ肉。
「じゃ、食いに行こうぜ」
「……最高」
スズはニっと笑って立ち上がり、尻についた砂を払う。
そして、砂を払った手を片方、俺に向けて伸ばしてきた。
「……繋ご?」
スズは顔を少しだけ傾け、穏やかに微笑みながら提案をしてきた。
「おっ……い、いいぞ」
結構な可愛さだったので思わず面食らってしまう。
スズは俺と手を繋ぐと、指の間に自分の指を押し込んできた。
「……悪くない」
隣を歩くスズはまだ飯を食べていないのにやけに上機嫌だ。
「なんか良いことあったのか?」
「……現在進行形」
「そうなのか? 何なんだよ。教えろよ」
「……鈍感」
スズは唇を突き出して怒っているアピールをするとプイっと俺から大袈裟に顔を逸らした。
まぁ、肉が出てくるまでの辛抱だ。そうしたらスズは肉しか見えなくなるのだから。
◆
市場ではたくさんの露店が連なっていた。
スズはその先頭から「……全部」と言って全種類の商品を買っては味見をしている。
今は買い物は一時休止。両手に甘い味付けで焼いた豚肉の串焼きを持ち、それをはむはむと頬張っているところだ。
だが、その串から肉が一向になくならない。
よく見ると、スズは一口がかなり小さく、肉の端だけを前歯でかじり取っていた。これまでは大口を開けてバクバクと食べていたのでこれは明らかに異変だ。
「スズ、何かあったのか?」
スズは肉をじーっと見ながら「……なんで?」と聞き返してきた。
「肉、すごくゆっくり食ってるからさ。いつもならそのくらい一口だろ」
「……レヨンのアドバイス。レディは大口で食べない」
「あぁ……」
最近大人のレディに憧れているレヨン先生による大人の女性講座があったらしい。
「そんなの気にするなって。少なくとも俺の前じゃいつも通りで良いんだぞ」
「……ありのままが楽」
スズは自分で自分を押さえつけていたためかなりフラストレーションがたまっていたようだ。一気にバクバクと肉を食べ始めた。
「まぁ……レヨンのいう事は話半分に聞いとけよ。もっとまともな大人のレディーに……」
そう言ったはいいが誰だろう。俺の周りにいるまともな大人のレディ。
ノイヤーさんか? いやいや、あの人も十分にまともじゃない。
ゼツ? まともじゃないのは明らか。
俺の周り、まともな人はいないな……
「……どうしたの?」
「え? あぁ……何でもないよ。スズはありのままでいればいいって事だよ」
「……嬉しい」
スズは頬を赤くしながら肉を頬張る。そんなに美味しいのか。良かった良かった。
◆
市場の中心に行くと、客寄せ用なのか吊るされた牛が丸々一匹丸焼きにされていた。
スズは目を輝かせながら牛の前でしゃがみ込み、俺を見上げて来た。
「……欲しい」
「さすがにこれはバラ売りじゃないのか?」
スズが指さした先には『一頭買い歓迎!』と書かれていた。
丸々一匹を買うのだから、小さな串を買うよりはコスパは良さそうだが、さすがに食いきれなくないか。
「スズ、食えるのか?」
「……ヨウムと半分こ」
半分こ出来るようになってえらいね、と言いたいところだがよりによってこれで半分こ!?
「半分も貰っても食えないぞ……」
「……半分こは良い事なのに」
「じゃ、じゃあ半分こにした上で俺の分を分けてやるよ。スズが全部食べていいぞ」
スズは目をキラキラさせながら「ほんと!?」と食い気味に聞いてきた。
「あぁ、もちろんだよ。すみません! これ、一頭買いでいいですか?」
俺は店主に尋ねる。
「いいが……払えるのかい? 金貨10枚だよ」
中々なお値段だ。だが、俺には一撃必殺の言葉がある。
「冒険者ギルドにツケといてください」
「はいよ。持っていけるかい? 台車が必要なら――」
「……大丈夫」
スズは牛に刺さっていた鉄の棒をひょいっと持ち上げて肩にかける。
「あ、熱くないのか?」
「……大丈夫」
若干熱そうなので近くにあった8人掛けのテーブルを占領してそこに牛を置いてもらう。
スズは「……半分こ」と言ってナイフで国境線を引くと、自分の領地の分をバクバクと食べ始めた。
綺麗に線に沿って俺の分を残してくれている様子を見ると、スズの成長を感じてしまう。出会った時はパーティの食い物を全部ひとり占めして追い出されていたというのに。
「スズは偉いな……ちゃんと半分こ出来るようになってさ」
「……大事なものは半分こする」
「他になにかあるのか?」
スズにそう尋ねると、無言で俺を指さしてきた。
「お、俺?」
「……うん。レヨンと半分こ」
「それはゼツも入れてやれよな」
「……そっか。サカモトも……」
何気ない質問に返した一言のつもりだったのだが、スズは喜怒哀楽のほとんどが混ざったような複雑な表情で牛を食べ進めていたのだった。
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