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 謁見の間にいるのは国王と俺達とユティだけ。もっと脇を大臣が固めているのかと思いきや、意外と少数だったので肩透かしを食らった気分だ。


「雷神ヨウム殿、足労であったな」


 だからなんで俺は雷神だなんて呼ばれてるんだ。トールを倒したからか? 大方トンプソンの爺さん辺りが広めてるんだろう。いい迷惑だ。


 それはそれとして、練習通りに形式張った挨拶を返さなければ。


「はっ! 国王陛下には……あー……何とかを賜り……」


 ど忘れしてしまった。


「お……おい!」


 ユティが慌てて俺の元へ駆け寄ってくる。


「わははは! 良い良い! 未来の英雄殿に頭を下げてもらった経験が出来ただけでもわしは嬉しいぞ!」


 国王は寛大な心で許してくれたようだ。


「さて……本題だ。かけられよ」


 国王は俺達にも椅子に座るよう指示をする。ユティが素早く動いて俺たちの分の椅子を並べてくれた。なんというかこの人も大変なんだろうな、と思ってしまう。騎士なのに椅子運びだなんて。


「かの有名なテクノスが勢ぞろいとはな。我々で世界を収めぬか? 王国軍とテクノスが手を組めば敵無しであろう?」


「陛下、冗談でもそのような発言はおやめください。冒険者ギルドは中立です。いかなる国、組織にも肩入れはしません」


 X級に昇格したときにトンプソンにも口を酸っぱくして言われたことだ。それをそのまま国王に伝える。


「うむ……それは分かっておるのだがな。弱きものを助くのは別であろう? 例えば……戦争を回避するとか」


「人命を助けるのであれば……」


「まさしく。我が国は隣国のロムビア王国との小競り合いをしておってな。このままではいずれ戦争に発展してしまいかねんのだよ」


「小競り合いを……何がきっかけなんですか?」


「堤防だ。彼の国との国境は山脈や河川で仕切られておる」


 国王は地図を指差しながら説明を始めた。


 トシバトゥン王国の東端はカスタリア公爵の領地。そして、カスタリア公爵領の東側にある山脈、南側にある川がロムビア王国との国境線になっているようだ。


 ちなみに都市ワイムは冒険者ギルドを始めとする各ギルドが寄り集まってできた中立都市。その国境線を表すように、トシバトゥン王国の領地の中にポツンと丸があり「中立都市ワイム」と書かれている。


「堤防……この川ですか?」


「そうだ。ピルム川と呼ばれておる。先祖代々から暴れ川でな。何度も決壊を繰り返しておるのだよ。ロムビア王国とは表向きは仲良くやってはいるが、それはこの百年のこと。それ以前は血で血を洗う争いをしておった。百年前の戦争は我が国に有利な形で終わってな。そのため終戦時の条約で、ピルム川の堤防は我々よりも低くする、と決まったのだよ」


「大雨で氾濫するのは必ずロムビア王国側になるってことですね」


 トシバトゥン王国の堤防は必ずロムビア王国の堤防よりも高い。つまり、危険水域を超えるのは必ずロムビア王国のほうが早い。だからトシバトゥン王国側には大雨でも水が流れにくい、という仕組みなのだろう。


「そういうことだ。だがここ最近はロムビア王国側が改修工事と称して明らかにこちら側よりも高い堤防を作っておってな。抗議もしておるが、現場では小競り合いにまで発展するようになってしまっておる」


「なるほど……」


「そこでヨウム殿にお願いしたいのだが……敵地に雷を落として欲しい。雷神と名高い貴公が我々の側について雷を落とせばロムビア王国側は必ずや尻込みをする。交渉が有利に進められるのだ。どうだろうか?」


 トンプソンから聞いたのだろうか。俺が雷魔法を使えるというのはそれなりに広まっているらしい。


「無理ですね」


 俺は即答する。2国家間の争いに冒険者ギルドは介入しない。これは明らかにその原則に反している。


「そ……そこをなんとか……ならないか?」


「ならないです。出来たとして、2つの国の間に雷を落とすくらいでしょう。とにかく片方の国に肩入れはできません。冒険者ギルドにはロムビア王国出身の者も多くおります。下手な挑発は王国間の全面戦争のきっかけにすらなるかと……大臣や周囲の方とは相談をされましたか?」


「う……うむ……」


 王は歯切れの悪い返事をする。これは相談してないな。


 冒険者なんて簡単にいう事を聞くとだろうとでも思われていたのだろうか。


 妙に腹立たしいが、ここで王の機嫌を損ねてもメリットはない。


「よ、ヨウム殿! どうであろうか? 私には美しい娘がいる! 戦争に勝てば褒章は思いのまま! 川向こうの領地も約束しよう。爵位持ちだぞ? どうだ?」


 王は俺のあらゆる欲を刺激しようとしてくる。


 女、金、権力、名声。


 女は別に要らないしなぁ。特定の人がいる訳じゃないけどまだ若いから身を固める気もないし。


 金も既に十分くらいに貯まっている。


 権力者にはなりたくない。めんどくさそうだし。


 名声もそれなりだ。テクノスは冒険者ギルドにて最強。X級の称号を得ている。


 あれ? そう言われると俺って何を目標にして生きてるんだろう。


 王の狙いとは別のところで俺は頭を悩ませ始めてしまった。


「お、王よ! 此度の話は私も初耳。このような話をされるために雷神殿を呼び出されたのだとしたらあまりに……」


 ユティはこの話を知らなかったらしく、動揺を隠さずに慌てながら王を制する。


「お前は黙っておれ! 一介の騎士めが!」


 王は自分の部下だからか、ユティにはかなり強気に出ている。これじゃ大臣もイエスマンで固められていそうだし、諫言するような人は既に王の周りにはいないのだろう。


「と、とにかく俺達が国境の川に行って様子を見てきますよ。中立の立場ですから行き来もしやすい。向こうの狙いも探ってきますからしばらく待っていてください」


「う……うむ。ではヨウム殿にお願いしよう。では、よろしく頼むぞ」


 王は謁見の間を出ていく。俺を口説き落とせなかったからか、その顔は不満げだ。


 あぶねー。ひとまず戦争は回避。こんな仕事、ギルドの長老たちにお願いしたいところなんだけど。


 ユティは扉が閉まったのを確認すると俺達の方へ駆け寄ってくる。


「ヨウム殿、気分を害されたら申し訳ない……私もこんな話だとは知らなかったのだ」


「だ……大丈夫ですよ……とりあえず国境まで行ってみるので、それまでユティさんは開戦派の人を押さえておいてもらえますか?」


「うむ。それくらいならお安い御用だ。頼んだぞ」


「はい、お願いします」


 なんか、とんでもない事になってきてしまったな、なんて思ってしまうのだった。X級の称号、もう返上したいな!?


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