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 カスタリア公爵領の西に広がる森は、俺たちがワイムの街から来る際に通る街道から少し逸れた先にあった。


 見覚えのある道からまた見覚えのない道に出て進むこと数日。目の前には鬱蒼とした森が延々と広がっている。


 俺たちのいるところがまさに森と平原の境目だ。


 近くに村はなく、人気もない。


 そんな場所ながらも、近くには3頭の馬を引き連れた中年の男性がいた。


「おい! ほら! ついて来るんだ!」


「ヒヒーン!」


 馬達は森に入ろうとしない。中にベヒモスがいて、それを察知して逃げようとしているのかもしれない。


 俺達は情報を集めるため、その男に近づく。


「あの……初めまして」


 男はギロリと睨んでくる。すきっ歯と頬にある大きな傷の目立つ男だ。


「んあ? けっ……女連れで冒険かよ。なんだ?」


 男は俺を見たあと、俺の周りにいる三人を舐めるように見て顔をしかめた。別に女だからいるわけじゃない。たまたま気の合う人を集めたらそうなっただけだ。とはいえ、この人とそんな言い合いをする必要はないので心の中の引き出しに言葉をしまい、笑顔を作る。


「俺はヨウムといいます。この辺りに住んでいる方ですか?」


「ギンペーだ。家は……まぁこの中だな」


 男はそう言いながら森を指差す。


「なっ……も、森の中に!?」


「そうだよ。自給自足の生活なんだ。悪いか?」


「いっ……いえ……素晴らしいと思いますよ。ところで最近、森の中で変わったことはありませんでしたか?」


「変わったことぉ? 例えばどういうやつだ?」


「そうですね……いつもより動物が慌ただしいとか……妙な足音が聞こえるとか……そういう些細な変化で構わないんです」


 男は俺を値踏みするように見てくる。そして大きく息を吸った。


「ここには何も居ねぇよ! 帰れ!」


 男の絶叫はこだまして響く前に風の音にかき消される。


 怒鳴られなれていないレヨンが「ひっ」と小さく悲鳴を上げて俺の背中に隠れた。


「あ……そ、そうでしたか……すみません……もし何かあったらカスタリア公爵の屋敷へいらしてください。それでは」


 俺は頭を下げて男に背中を向け、馬車へと向かう。


 三人は俺の隣を歩いているが不服そうだ。


「ヨウム。なぜあの男を詰問しない? 明らかに怪しかっただろ?」


「あぁ。ギンペーは絶対に何かを知っている。俺が『変わった事はないか?』と聞いたのに『何もいない』と答えたんだ。裏を返せば、そこにいる『何か』を隠したいって事だろうからな」


「なら今すぐ……」


「あいつは口を割らなさそうだしな。だから――」


 俺がこれからの動きを説明しようとした瞬間、背後から馬のいななきが聞こえた。


「あっ! おい! 待てこら!」


 中年オヤジの脚力が馬に勝てるはずはなく、無情にも馬はグングンと加速してギンペーとの距離を離していく。


 俺達のせいではないけれど、さすがに可哀想なので少しだけ手助けをすることにした。


 俺は馬たちの足に向かって微弱な雷魔法を放つ。


 すると、馬は「ヒヒン!」と驚いた声をあげながらその場でこけた。


「あぁっ! だ、大丈夫か!?」


 ギンペーは自分から逃げようとした馬たちなのにも関わらず優しく声をかけながら駆け寄っている。


 一つ恩を売れたわけだし、少し話を聞けるかもしれない。


 そんな訳で俺もこけた馬たちの方へ歩み寄った。


「大丈夫ですよ。足が痺れているだけですから。少ししたら歩けるようになります」


「お前! こいつらに魔法を使ったのか!?」


 ギンペーはキッと俺を睨みつけながら、馬の気持ちを代弁するようにそう言う。


「そうですけど……死ぬようなものじゃないです。逃げられたら困るんじゃないんですか?」


 俺の質問に対し、ギンペーは肯定する気持ちと否定する気持ちが混在しているかのように複雑な表情をした。


「そうなんだが……お前たちも辛いよなぁ、逃げたくなるよなぁ、すまんなぁ……」


 泣きながら馬の胴を撫でているギンペーを見ていると、そこまで悪い人には思えない。


 俺の隣にいたスズが馬に近寄ってしゃがみ込み、別の馬の毛を撫で始めた。


「……この子達は野生?」


 スズの質問にギンペーが頷く。


「そうだ」


「……牧場?」


「違う」


「……繁殖?」


「違う」


「……じゅるり」


「お前らに食わすもんじゃないからな!」


 案外、ギンペーはスズと相性がいいらしい。俺よりも心を開いてくれているような気もしてきた。


「じゃ、誰に食わせるんですか?」


 俺が少しだけ鎌をかけてみる。すると、ギンペーは焦ったようにその場で立ち上がった。


「あっ……い、いや……な、何でも……」


「野生の馬を捕らえて、誰が食うんだ? しかも三頭も、だ」


 少しだけ語気を強める。馬を食う奴が誰なのか、と聞いただけでこの慌てよう。


 もしかしてベヒモスをかくまっているんじゃないかとすら思えてしまう怪しさだ。


「……スだ」


 まさか、ベヒモス!? うまく聞き取れなかったのは俺だけではないようで、全員が「え?」と聞き返した。


「だから……も、モンチョスだよ……」


 ギンペーは観念したようにそう呟く。


 いや、誰!?

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