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 カスタリア公爵の屋敷にやってきたのはこれで三回目だろうか。


 前回は数か月前、ダンジョンを勝手に閉鎖してしまった件の謝罪だった。


 今回は仕事を受けるだけなので、前回に比べれば気楽なものだ。


 屋敷の前で馬車が止まり、以前ナツナと一緒に居た執事がやってきて扉を開けてくれた。


「テクノスの皆様、お待ちしておりました。こちらでございます」


 執事が屋敷の中へ入っていくので、俺達もそれについて行く。


 通されたのは以前も来た事がある応接間。


 俺達が部屋に入るとほぼ同時にカスタリア公爵もやってきた。


「ヨウム殿、皆様、ご足労頂き感謝申し上げる」


「それで……早速ですけど、領地に魔物が出たと聞きました」


「うむ……どこから来たのかは分からんのだがな……普段は絶対にいないようなドラゴンなので、下手に手出しが出来ないのだ。そんな訳で一流冒険者である皆様にお越しいただいた、ということなのだよ」


 ダンジョンを守っていた魔物の一体なのだろう。さすがに俺達がダンジョンを閉じてしまったせいでこうなっている件は伏せておいた方が良さそうだ。また公爵に怒られたくはない。


「対象の魔物は一体だけですか?」


「確認されているのは三体だ。一体はドラゴン。ここから東にあるカスタリア山脈を根城にしているらしい。山の向こうはロムビア王国。国を跨ぐ重要な交易路なのだが、ドラゴンが現れたという噂でどうにも足が遠のいている様子でな。困っておるのだ」


「なるほど……」


「ここから南にある川がロムビア王国との国境となっているのだが、そこにサーペントと呼ばれる巨大な蛇が見つかったという報告がある。最後にここから西にある森だな。そこにベヒモスと呼ばれる魔物が住み着いて暴れまわっているようだ」


「分かりました」


「それと……姿は未確認なのだが、もう一体いるのだよ」


「そうなんですか?」


「うむ。ここからハイドン鉱山に向かう途中にカスタリア湖という湖があってな。そこにとある男が魔物を放流したところ突然変異で巨大化してしまったのだ。それを地元の民は『湖の王』と呼んでおったのだが、その『湖の王』がここ数か月姿を見せないらしいのだよ。噂によると真っ赤な魔物がやってきて湖の王を食らいつくしただとか言われているようでな。ドラゴンでもサーペントでもなく、もっと強大な魔物がどこかに潜んでおるやもしれんのだ」


 心当たりがありすぎる話だ。ちらっとスズの方を見ると恥ずかしそうに頬を朱に染めて顔を伏せた。


 しかし、真っ赤な魔物だなんてどういう尾ひれのつき方がしたらそんな話になるのだろう。


「あー……あははは……そ、その魔物の件も調査してみますね……」


 目の前にいる赤髪の女の子がその湖の王を食らいつくした張本人だと、どう伝えればいいのだろう。


 とりあえず伏せてしまったけれど、どんどんと公爵に隠し事が増えていく。


「ありがたい! テクノスの皆さま、よろしく頼みますぞ! それと、娘がヨウム殿に用事があると言っておりました。仕事の前に少し部屋へ寄っていただけますかな?」


 ナツナと会うのも数か月ぶりだ。病状は安定しているらしく、たまに文が届く。内容は『屋敷で軟禁されていて暇』というだけの事を手を変え品を変えで書き綴っているだけだが。


「あぁ、はい。分かりま――」


 その瞬間、ダン! と扉が開いて応接間にナツナが飛び込んできた。


「ヨウム様! お久しぶりですわ!」


 心臓への負担も考えずにナツナは俺に駆け寄って抱き着いてきた。


「な、ナツナ……身体に障るから大人しくしていた方が……」


「ヨウム様がいらっしゃいますから、何かあっても助けてくださいますよね? さ! こちらへ! お見せしたいものがあるのですわ!」


 ナツナは俺への信頼を表すかのようにニッコリと笑うと、他の三人には一切目もくれず、俺の手を引いて応接間から連れ出した。


 ◆


 やってきたのはナツナの居室。その部屋の真ん中に置かれたテーブルには、木のトレーにいくつかの宝飾品が置かれていた。


 大きな赤いルビーが埋め込まれた豪華なネックレス、淡いピンク色の石がついたピアス、エメラルドグリーンの宝石が乗っている指輪、オレンジ色の石がいくつも埋め込まれた腕輪、サファイアブルーのペンダントの5つだ。


 ルビーのネックレスだけやけにデカい。ドレスの首元はこれ一つで決まりそうだ。そういう意味ではお嬢様のナツナにはぴったりなのだろうけど。


「これは……」


「以前、ヨウム様に探していただいた鉱石を職人に加工してもらったのです」


「ルビーのネックレスだけやけにでかいな……これ、ナツナのやつか?」


「鉱石が一番大きく立派でしたので……わ、わたくしが差を設けようとしたわけではありませんのよ!」


 ナツナは他の三人の方を見ると、顔を赤くしてそう言う。


「誰もそこまで思ってないよ。まぁ……選んだのが素人の俺だから、石の質もバラバラだよな。むしろ俺のせい……」


「可愛いのですぅ!!!」


「こ……これ……私もいただけるのか!?」


「……初耳」


 俺がナツナのフォローをしていると、三人が我慢できなくなったようにはしゃぎはじめた。


 自分のものもそうでないものもお互いに身体に当てあってお洒落を楽しんでいる。


「お……お前ら……多分超高級品だから大事に扱えよ……」


「ナツナさん、このルビーのネックレス、少しだけつけてみてもいいのですか!?」


「えぇ。もちろん。当然ですわ」


 ナツナはレヨンを鏡の前に立たせると背後からルビーのネックレスをつける。


 身体に対してかなり大きめなため、胸元にまでかかっているが、それでもとても綺麗だ。


「うわぁ……綺麗なのです……」


 レヨンは俺の反応を確かめるようにチラチラとこっちを見てくる。


「なんだ? 似合ってるぞ」


「あ……ありがとうなのです。ナツナさんも。もう満足したのですよ」


 レヨンは顔を赤くして俯き、ネックレスを取り外してもらっている。


 俺はテーブルに近づき、本来の持ち主にあるべきように宝飾品の並べ替えを始めた。


「このピンクのやつがゼツだな。で、エメラルドの指輪がノイヤーさん、黄色い石の腕輪がレヨン。スズは……サファイアのペンダント……でもいいか?」


 石を拾った時はまさかスズが加入するとは思っておらず、無難な石を選んでいた。


 だが、赤が大好きと思われるスズに対して青色のペンダントを渡すのは中々に勇気がいることだ。


 それでもスズは口角を上げてニッと笑い「……嬉しい」とボソッと呟いてくれた。多分本人の中では相応に嬉しがってくれているのだろう。


 全員が自分のものを身につけると、冒険者ながらもそれなりに華やかな見た目になった。ノイヤーさんの分は俺が懐にしまう。


「おぉ〜! テンション上がるのです!」


 レヨンは腕輪をはめた右腕を小動物か何かのようにパタパタと振っている。


「そりゃ良かったな。じゃ、ドラゴンを倒してきてくれ」


「え? ひ、一人なのですか!?」


 小動物は怯えてしまった。ドラゴンを一人はさすがに無理だろう。


「冗談だよ。順番に行くか。最初は……森のベヒモスにするかな」


「了解だ。さっさと倒してしまおう」


「……森のベヒさん」


「可愛らしい雰囲気を想像してしまうのです」


「どうせ臭い化け物だぞ……」


 相変わらずの締まらない空気の中、俺達はカスタリア公爵の屋敷をあとにして、ベヒモスの住まう森へと向かうのだった。

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