33
ダンジョンの攻略から数か月が経過した。
晴れてレヨンとスズが正式にテクノスに加入。何故かテクノスはX級に昇格させられた。
SSS級の更に上とトンプソンは言っていたが、単にダンジョンを勝手に攻略した懲罰なのだろう。本当に昇格したならX級よりもSSSS級の方が格好いいからだ。
歯ごたえのある魔物が現れる事もなくワイムの街で平和に暮らしていて、昨日も皆でどんちゃん騒ぎ。
二日酔いの頭痛で目が覚める。
隣には裸のノイヤーさんが寝ていて……
ん!?
「のっ、ノイヤーさん!?」
「ふあぁ……おはよう。ヨウム君、どうしたの?」
ノイヤーさんは薄いシーツで胸元を押さえ、空いた手で目元を擦っている。
「はっ……はだっ……はだっ……おぱっ……えぇ!?」
「なんだ!? 敵襲か!?」
俺が慌てていると、床からゼツが起き上がる。黒い髪の毛は寝ぐせだらけで滑稽だ。
「なっ……なんでゼツもいるんだよ!?」
「……眠い」
「何なのですかぁ……まだ眠いのですよ……」
よく見るとレヨンとスズも床で寝ていたらしい。ブツブツと文句を言いながら起き上がった。全員、ノイヤーさんがベッドで寝ている事に対しては何の違和感も抱いていないらしい。
昨晩は酒場で5人で飲んでいたはずだ。
それで解散して……いや、解散してないのか!
俺は痛む頭を必死にフル回転させて思い出そうと試みるが、全く記憶が戻ってこない。
「の、ノイヤーさん……俺達は……」
「もう……昨日はすごかったよ? 私もうヘロヘロだったもん。声も止まらなくなっちゃったしさ」
ノイヤーさんはにやりと笑ってそう言う。
「え……えぇ!? も、もしかして……」
「ヨウム君のアレ、大きかったなぁ……」
「あ、アレ!?」
「ビリビリって身体が痺れちゃったの」
「痺れた!?」
皆の前で!? ここで寝てるって事はそういう事だよね!?
俺が良からぬ想像をしていると、ノイヤーさんは我慢しきれなくなったように「ぶはっ」と噴き出した。
「あははっ! ヨウム君、何をしてたと思ってるの? ふふっ……お腹いたっ……」
ノイヤーさんはげらげらと笑いながら俺の胸板を叩いてくる。
「な、何って……男女の……」
「違う違う! 本当に何も覚えてないの? 『おいそこのおっぱい』って言ったのも?」
「俺そんな事言ってたんですか!?」
「まぁまぁ……昨日ね、ヨウム君が酔っ払っちゃったから皆で家に連れて帰ってきたの。で、ヨウム君をベッドで寝かせて4人でここで飲み直してたと」
「なんで居座るんですか……ってワインの樽!?」
よく見ると部屋の隅にワインが入っているのであろう樽が置かれている。こんなの昨日までは無かったはずだ。スズかゼツが運び込んだのだろう。
「そこは気にしちゃダメだって。それでね私達がワインを飲んでたらヨウム君がむくっと起き上がったの」
「はぁ……」
「でね……ぶふっ……私を指さして『おいそこのおっぱい』って言ったの! あははっ! 本当に覚えてないの?」
「いえ……全く」
「それで……何をしたんですか?」
ノイヤーさんはニヤッと笑って起き上がり、俺の耳元に顔を近づけてくると、「マ……」と吐息多めに呟く。
「ま?」
「マッサージ」
「へ?」
「マッサージだよ! 酒場で肩がこるって話をしたのを覚えててくれたみたいでね。雷魔法でマッサージをしてくれたの! ヨウム君の大きな『手』でね。おかげで快適で快適で。私ね、寝る時は何もつけない派だから」
「はぁ……」
要するに、酔った俺が好意でノイヤーさんに魔法でマッサージをしてあげただけの事らしい。
良かった……パーティメンバーの前で醜態も痴態も晒していなかったようで一安心だ。
「で、何で俺のベッドで寝てるんですか?」
ノイヤーさんはギクリと苦笑いをして頬をかく。
「あはは……そ、それは……」
「じゃんけんで勝ったのですよ」
レヨンは負けた憂さ晴らしなのか、コップに残ったワインをグイっと飲み干してからそう言った。
まぁ固い床で寝るよりはベッドで寝たいか。他にじゃんけんをしてまで争う理由はないだろうし。
その時、朝の鐘の音がゴーンゴーンと鳴り響いた。
ギルドの窓口が開く合図でもある。
「あれ? 今日ってノイヤーさん、仕事じゃないんですか?」
ノイヤーさんは一瞬固まると、「やばっ!」と甲高い声で叫び、ベッドから飛び降りる。黒いレースのパンツ姿のノイヤーさんが慌ててギルドの受付嬢用の服を着ている様はなんだか背徳感というか独占している感じがしてしまう。
服を着たノイヤーさんはテーブルにあるパンを咥えて扉を開けて部屋から出て行く。
ノイヤーさんは一瞬だけ思い出したように扉から顔を覗かせる。
「あ! 皆! 後で受付に来てね! X級パーティのテクノス様をご指名のお仕事があるんだよ!」
これは覚えている。昨日の夕方にそんな話が舞い込んだので、今日に延期してもらっていたのだった。
「分かりました。後で行きます」
俺の返事を聞いたノイヤーさんは「じゃね」と短く言ってギルド本部へ仕事へ向かった。
嵐のような人が去った後に残ったのは、まだ酔いが残っているように半目でふらついている3人のパーティメンバー。
レヨンが立ち上がり、フラフラとベッドへ入ってきて横になる。
「眠いのです……」
レヨンはそう言って俺の足に顔を擦り付けてくる。
こいつ、まだ酔ってやがる。
ペシンとレヨンの頭を叩くと、「あうっ」と可愛らしい声を出して俺の顔を見上げてきた。小動物のようで可愛らしくて、つい頭を優しく撫でるように手が伸びる。
「むぅ……いいご身分なのです。ふかふかのベッドでデカパイと添い寝して……」
「勝手にワインの樽を人の家に運び込んでどんちゃんやってた人に言われたく――」
レヨンの頭を撫でていると、ベッドのすぐ横にスズとゼツがやってきて正座をした。
「……撫でて」
「叩いてくれ」
こいつらも酔ってるのか……
「お前ら! 今から水飲めよ!」
「何でなのですか? 私は別に二日酔いじゃないのですよ」
だとしたらスリスリしてくる意味が分からないのだが。
「水分が多いと身体の雷の通りが良くなるんだよな」
俺が不敵な笑みを浮かべてにやりと笑うと、三人は慌てて身支度を始めたのだった。
◆
ギルド本部の受付に行くと、ノイヤーさんはニッコリと笑って手を振ってきた。いつものように「おーい」と呼んでこないのが妙な距離を感じてしまい、それがまた朝の出来事を思い起こさせる。
「ノイヤーさん、仕事って何なんですか?」
俺が代表して尋ねると、ノイヤーさんは一枚の紙をカウンターの下から出してきた。
「魔物の討伐。ってもそんじょそこらの魔物じゃなくてね。ダンジョンの魔物なの」
「だ、ダンジョンの!? どこのですか!?」
「ハイドン鉱山だよ。ダンジョンが閉じた時に外へ出されたのは冒険者だけじゃなくて、各層の守護をしている魔物も同じだったみたいなの。ま、これは長老たちの予想なんだけどね。その魔物たちが、カスタリア公爵の領地に住み着いちゃったんだってさ」
「俺達が落ちた階層よりも上の階層にいたやつらって事か……」
「そういうことだと思うのです。下層も探索が不十分だったので残っていた魔物がいたのかもしれません」
俺の予想にレヨンが同調する。
「ま、これもダンジョンを閉じちゃった自分達の後始末だと思ってさ。カスタリア公爵も困り果ててるから、お金は弾んでくれるみたいだし」
「こういうのを何と言うのだったかな。マップチンポか?」
ゼツがとんでもない下ネタを放り込んできた。あのノイヤーさんですら苦笑いをしている。
「……マッチポンプ」
スズは冷静に訂正する。
「マッハチンポか?」
再びゼツの下ネタ。
「……マッチポンプ」
スズは冷静に訂正する。
「チンポマッチと言ったか?」
ゼツは三度諦めない。
「……マッチポンプ」
それでもスズは冷静に訂正する。無表情に打ち返されるからなのか、ゼツは「ノリが悪いな」と言って黙り込んだ。
スズがいてくれるのでゼツの下ネタ処理の手間が省けて楽になった気がする。
「要は自分で火をつけて自分で消して金を貰うって事だよなぁ……ま、報酬の件は公爵と相談します。さすがにこれで金を貰うのは気が引けるので」
「はいはーい! それじゃ、行ってらっしゃーい!」
俺はノイヤーさんから依頼の詳細を受け取り、若干気だるそうな3人を連れて馬車の発着場へ向かうのだった。
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