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 どうやら最奥部にいるトールがダンジョン全体のボスらしく、彼を倒すと俺達は気づけばダンジョンの入り口になっているハイドン鉱山の開けた入り口に立っていた。


 中に入っていた冒険者たちも同じように何者かの力によって強制的に外へ出されたらしく、人でごった返している。


「え……えぇ!? もう閉鎖!? ちょ……ま、待って待って! 皆ー! 出口に一斉に行かないでー! 並んでー! ほ……ほらほら! ここにおっぱいがあるじゃろ!? 見てってよー! ……ん? お!? おーい! ヨウムくーん!」


 人の整理をしていたノイヤーさんが俺の名前を呼びながら駆け寄ってくる。さすがに胸の露出までは思い留まったらしく、シャツのボタンが一番上まで止められている。


「あ……お疲れさまです」


「やっほ! ゼッちゃんも他の皆も無事で何より! もしかして……早くもやっちゃいました?」


 ノイヤーさんは「仕方ないねぇ」と言いたげに苦笑いをしながら聞いてくる。


 何をやったのか心当たりがありすぎる。ダンジョンの最奥部まで攻略してしまったのか? という質問だろう。


「あー……ダンジョン……ですよね?」


「げぇ!? やっぱり!? はえぇ……やっぱりヨウム君って凄いんだなぁ……あれれ? そっちの人は……パーティの名前ってなんだっけ? バックエンドの人?」


 ノイヤーさんはスズの顔に見覚えがあるらしく、にこやかに尋ねる。


「……バッドエンド……元、だけど」


 スズは俺の背中に隠れながら小声で答えた。ノイヤーさんのように明るくてガツガツとくるタイプは苦手らしい。


「そうなの!? あ……積もる話はあるけども! とにかく皆でワイムのギルド本部に来てくれないかな?」


「ダンジョンの件だな?」


 ゼツは周りで冒険者達が右往左往している様子を見渡し、苦笑しながら尋ねる。


「うん。多分だけどぉ……長老達に怒られたり……するかも?」


 ノイヤーさんは申し訳無さそうにそう告げる。


「な……なんでですか?」


 ダンジョンの塞いでしまった事で怒られるのか。それならもっと強く言っておいて欲しかった、と俺達にも言い分はある。


「まぁまぁ! とにかく行こっか! 馬車はギルドのやつがあるからさ!」


「はぁ……分かりました」


 俺達はノイヤーさんの先導で、冒険者でごった返すハイドン鉱山を後にするのだった。


 ◆


 数日かけてワイムの街へ帰還。自宅に戻る暇もなく、俺達四人はギルド本部にある長老たちの会議室に連れてこられた。


 俺達四人と向かい合うように四人の長老が椅子に座っている。


「それじゃ、失礼しますぅ」


 俺たちを送り届けたノイヤーさんがペコリと一礼をして部屋から出ていく。


 ガチャリと扉が閉まると同時に「はぁ……」とトンプソンのため息が聞こえた。


「まずはマスク鉱山での働きぶりに感謝するぞい。そこの……レヨンとスズと言ったか? 二人もご苦労じゃったな」


 厳密にはスズはマスク鉱山の時は一緒ではなかったのだけど、本題はハイドン鉱山での話だろうから細かいツッコミはせずに流す。


「ありがとうなのです、トンプソン爺」


「うむ。それで……本題じゃがのう……ハイドン鉱山の件、最奥部まで攻略したというのは本当か?」


 事前に皆には俺が代表して答えると伝えている。なので俺がまっ先に口を開く。


「はい。まずギルドの関係者によって入場口が分けられていました。Bランク以上の冒険者向けの入り口から入り、落とし穴に落ちました」


「お……落とし穴に落ちるほどダンジョンに慣れておらんのに最奥部に辿り着けたのか?」


 長老の一人、ペイブソンが唖然とした様子で尋ねてくる。


「そうですが……落ちても無傷でしたから」


「あんな簡単な罠も見破れんのに最奥部の守護者を倒せるわけがないだろう!」


「いやまぁ……倒せちゃいましたから……トールって名乗ってましたけど……倒したらこいつらを落としていきましたよ」


 俺はそう言って鞄からトールが残していった装備品を取り出し、テーブルに置く。


 トールはハンマー、マント、ネックレス、腕あての4つの装備品を遺して消えていった。


 それらを丁寧にテーブルに並べると、長老たちは一斉にざわめいた。


「なっ……なんと……」


 トンプソンが目を見開いて驚いている。


「そんなに珍しいんですか?」


「実はな、わし、ペイブソン、シャープソン、ナンプソンの父の四人で若かりし頃にSSS級パーティとしてダンジョンの最奥部にいる敵を倒したことがある。わしらは全員がボロボロ。ナンプソンの父に至ってはその時の傷が原因で亡くなった。それくらいの強敵なのだよ。最奥部におる者はな。神に匹敵すると言っても過言ではない」


「あぁ……そういえば雷神とか名乗ってましたね……」


「そういうことじゃ。それをお前たちは無傷でやってのけた。ペイブソンが疑うのも無理はない事が分かるじゃろう?」


「まぁ……でも実際にダンジョンは閉鎖されたんです。それが、俺達がトールを倒した証拠です。」


「そうじゃな。まぁ起こった事は巻き戻らん。数十年ぶりのダンジョンで活況になると呼んでいた公爵はカンカンだろうて。わしらが代表して丸く収めておくから気にせんでいいぞ」


「公爵?」


「ハイドン鉱山を領有しておるカスタリア公爵じゃよ」


「あぁ……実は俺も知り合いなんです。代わりに謝っておきましょうか?」


「お前は……アイノの依頼は二つの鉱山に出た魔物の討伐だと言うのに……なぜそんなことまでしておるのだ……」


 トンプソンは苦笑いをしながら俺に尋ねる。


「そんな事言われても……やるべきだと思ったからやっただけです。縁ですよ、縁」


「縁のう……まぁ……相分かったぞ。公爵へのとりなしは任せる。もしこじれそうなら声をかけてくれ」


「分かりました」


「うむ。それでは皆、ご苦労じゃったな。ゆっくり休みなさい」


 俺達は順に立ち上がると口々に「失礼します」と言って長老たちの会議室を後にした。


 ◆


 ヨウムをはじめとする4人が会議室を出て行き、扉が閉まり切るとトンプソンは大きなため息をついた。


「ふぅ……ヨウム、あやつはやばすぎんか!? 無傷で最奥部の守護者を倒しおったぞ! ほっほっほ! ここまで化けるとはのう! それに良い仲間も見つかったようじゃ。いずれはあの4人が『テクノス』となるのかのう」


 孫のような存在であるヨウムの活躍を喜びはしゃいでいるトンプソンに対してナンプソンが冷たい目を向ける。


「まったく……何をはしゃいでおられるのか。冒険者ギルドの役目は安全にダンジョンを運営する事。出現して数日で封鎖などしていては職人ギルドや商人ギルドからの非難は避けられないのですよ?」


 ナンプソンの意見に対し、ペイブソンが手を挙げて反論する。


「ナンプソンの言う事も一理あるがな。まずは雷神殿という英雄の誕生を喜ぶべきだろう。むしろ数日だから良かったとも言える。傷は浅いうちに、ということだ」


 その意見に対し、「そうは言いますが……」とシャープソンが長いひげをさすりながら話し始める。


「彼はあまりに強大すぎます。いずれは国王にもこの話は耳に入るでしょう。そうすれば雷神殿の招集は免れない。いや、4人全員かもしれません。冒険者ギルドは中立であるべきです。いかなる国家に対しても牙を剥いてはならない。そうでしょう?」


 シャープソンの懸念に対しては全員が頷く。


「うむ。そうじゃな。ひとまず……テクノスの新しい等級でも決めるかの? かつてのわしらと並んでSSS級なんぞを名乗られたらわしらが恥ずかしいわい」


 トンプソンの提案にナンプソンが手を挙げる。


「では……SSSS級ですかな?」


「お主はセンスが無いのう。じめじめとした性格といい、ダサい必殺技の名前をつけていた父君にそっくりじゃのう」


 トンプソンの言葉にペイブソンとシャープソンがにやりと笑う。


「ぐっ……ではご老人方の案をお伺いしたい」


 ナンプソンは眉間に皺をよせて言い返す。


「テクノス級というのはどうかな?」


 ペイブソンのアイディアには誰も首を縦に振らない。


「X級、というのはどうでしょうか?」


 全員が「おぉ……」と唸る。


「うむ。では次にヨウムがここに来たらX級への昇格を伝えようかの。以上で解散じゃ」

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