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 特にめぼしいものもなく、俺達は各階のボスを倒して進撃。


 ついにこれまでとは大きさがまるで違う扉の前にまでやってきた。


「これ……この先がダンジョンの最奥部なのか?」


「扉の様子からしてそうだろうな」


「……確定」


「そのはずなのです」


「じゃ……行くか? ダンジョンを残すことを考えたら帰ってもいいけど……」


「まぁ……ついうっかりということにすればよいのですよ!」


 レヨンは目を輝かせながらそう言う。


「そうだよな。一度くらいはダンジョンをクリアしたって実績欲しいよなあ」


「そうなのです!」


 そんなわけで俺が先頭となって自分の背丈よりも大きな扉を押して開ける。


 ゴゴゴゴ。


 鈍い音を立てて開いた扉の向こうは、教会の大聖堂のような細かな装飾が施された空間だった。


 それに縦にも横にもとても広い。


「まるでここで好きに暴れてくれって言いたげだな……」


「……ビリビリ!」


「お、俺か?」


「違う!」


 スズの目つきが真剣そのものだ。全員が明らかにこれまでに違う強さの敵がいると察する。


 覚悟を決めた瞬間、天井から眩い光が降り注いだ。その光はカクカクと折れ曲がった稲妻の形状。


 稲妻は部屋のど真ん中に降り注ぎ、やがてそこに一人の人間を形作る。


「な……ひ、人!?」


 これまでの敵は魔物だった。だが、今回現れた敵らしき魔物の形は明らかに人のそれだ。


 赤茶色の長く伸ばした髪をオールバックにして、ひげも伸ばし放題。薄着でマントを羽織ったその姿は神話の絵画で見る神のようだ。


 彼はハンマーを片手で持っている。鍛冶屋のようにも見えるが、この場所にいるのだから恐らくそういうことではないのだろう。


「だ……誰なんだ?」


『我が名はトール。雷神と呼ばれている』


「と……トール!? 神様ということなのですか!?」


 レヨンは声を大にして驚いている。


 俺は声すら出ない。雷属性の魔法しか使えない俺からしたら、雷神なんて雲の上の存在だ。勝てるのか? いや、勝つしかない。これが武者震いか。はじめて本気を出すべき相手が現れたような気持ちになる。


『汝ら、試練を望むか?』


 トールは両手を広げて俺達に尋ねてくる。


「あ……あぁ! お願いしたい」


『では……来い!』


 先手必勝。俺はトールが開戦を告げた瞬間にありったけの雷を放つ。


 バリバリバリバリ! ドォン!


 無数の閃光がトールに向かって放たれる。


 トールは「むぅ!?」と一瞬たじろいだが、地面をハンマーで叩きつけ、その火花から雷を生成。俺の雷と相殺した。


 2つの雷がぶつかった瞬間、ドガァン! と派手な爆発が起きる。


「こっ……これは……」


 ゼツは言葉を失っている。ブルーバッファローに囲まれて泣いていたようなやつが相対する相手ではないのは確かだ。


「ゼツ、お前もここまで死線を潜り抜けてきたからビビんなって」


「あ……あぁ……主にスライムに食われかけていただけだがな」


「冗談は後からにしとけよ……くるぞ!」


 トールはもう一度地面にハンマーを叩きつけ、火花を発生させ、その火花から雷を生成する。今度は俺が雷を放って相殺した。二度目の爆発で分かったが、トールと俺の雷の威力は拮抗している。


 それなら勝てるはずだ。こちらにはまだ3人の仲間がいるのだから。


『お主は……何者だ? なぜ触媒も無しに雷を……』


「触媒? なんだそれ?」


『貴様……そうか! フハハハ! なるほどな!』


 トールは一人で納得しているが俺にはなんのこっちゃだ。


「俺にもわかるように教えてくれよ! トールさん!」


『漢ならば請うな!』


「なら……倒すか……」


 俺は3人の方を向く。


「俺があいつの気を引く。ゼツにあいつの攻撃は効かない。だからトドメはゼツが刺すべきだ。スズはゼツを守りながら二人で懐へ入ってくれ」


「わ……わかった!」


「……了解」


「レヨンは俺の側で魔法で支援を頼む」


「は……はいなのです!」


 作戦は決まった。


 トールがハンマーを振り下ろす前にスズとゼツは剣を構えて走り始める。


『そうだ……こい!』


 トールがハンマーを振り下ろす。その雷は俺――じゃない!


 ゼツの方へと引き寄せられるように向かっていった。


「ぐうっ!」


 どうやらゼツには俺が本気で雷を放っても効かないらしい。トールの雷を受けながらもスピードを落とさずに向かっていく。


 俺はその隙にトールの足元めがけてありったけの雷を放つ。


 トールの足はビクンと震え、姿勢を崩した。


「……今!」


 スズはゼツに対して水平に大剣を構え、板で押し出すように体を捻り、ゼツを吹き飛ばす。


「えっ……おおおおおおおお!? チェストおおぉおおお!」


 吹き飛ばされながらもゼツは刀を構え、トールの脳天に向かって刀を振り下ろす。


『ぬ……ぐああああ!』


 トールは苦悶の声を出し、その場に倒れた。


 俺とレヨンが駆け寄った頃には、トールの姿は跡形もなく、そこには彼が身に着けていたと思しき4つの物が落ちていた。


「やった……のか?」


「あぁ! やったぞ! わ……私の手で……雷神を倒した……いや……皆のおかげだ! ありがとう!」


 ゼツは飛び跳ねながら俺に抱きついてくる。


「……全員野球」


 スズも俺達に駆け足でよってくると、俺の頭を撫で撫でとする。


 だが、レヨンは浮かばれない様子でその場に立っている。


「……レヨン? こっちに来いよ」


 レヨンは首を横に振る。


「わ……私は今の戦いで何もしていないのです……」


 レヨンの本職はヒーラー。本来はこういう強敵相手にはなくてはならない存在。だが、俺達は短期決戦で勝負をつけたため、癒やすための傷すらほぼつかなかったのだ。


「そんなのは関係ないだろ。そもそもゼツがピンピンしているのはレヨンの癒やしの力でスライムにやられかけたこいつを助けたからだ。間接的に貢献してる。前の俺と同じだよ」


「前の……ヨウムさん……」


「テクノスを首になった時の俺だよ。あの時は目に見える功績しか評価されてなかった。その辛さも無意味さも俺は分かってる。レヨン、お前も十分に貢献してる」


「ヨウムさん……」


 レヨンは目に涙をじわっと浮かべ、俺達に向かって走り寄ってダイブしてきたのだった。

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