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レヨンのお陰でゼツも復活。服は溶かされて破れてしまったので、先端まで見えそうな胸の露出具合が気になるものの、本人は嬉々として見せてくるくらいなので俺が見なければ問題は無いだろう。
スライムを倒したことがトリガーになったのか、ゴゴゴゴと音を立てて石の壁の一部が沈み、そこから下層へ繋がる階段が現れた。
「うわぁ……ダンジョンっぽいのです」
レヨンがワクワクした様子で階段の下を覗き込む。
「あんまはしゃぐなよ。レヨンも服が無くなるぞ」
「はわわ……それは怖いのです……」
「はっはっは! 折角だし皆で裸になろうじゃないか!」
ゼツはおおらかに笑いながらスズと肩を組む。その拍子にペロンとゼツの服の胸元が捲れて全体像が露わになる。
「……私にも恥じらいはある」
半ば強引に肩を組まされたスズはそう言ってゼツの服を戻して胸を隠した。
「ふざけてないで……ほら、行くぞ」
どうにも締まらないが、ガチガチに緊張しているよりはいいか、と気楽に考え直して俺は真っ先に階段を降り始める。
階段の幅は狭く、一列にならないと進めなさそうだ。それに終端は見えるもかなり先なので、気が滅入りそうだ。
暇つぶしに雑談を始める事にした。
「そういえば……ゼツの本名ってサカモトって言うんだな」
スライムがいてそれどころじゃなかったのでスルーしていたが、スズがゼツの事をサカモトと呼んでいた事を思い出す。
以前、本名を聞いたが俺には教えてくれなかったのに、スズには教えたのか、と人生で一番気味の悪い嫉妬心が芽生えてしまう。ゼツに対して嫉妬するなんて。
「むっ……な、何故それを!?」
後ろからゼツことサカモトの驚いた声が聞こえる。
「スズが呼んでたぞ」
「あぁ……落とし穴から落ちた後なんだがな、スズと同じところに落ちたみたいですぐに合流したんだ。だが、スズは静かだし、私もついに話題が尽きてな……」
「雑談の引き出しの一つだったんだな……」
もっと大事にしているから隠していた訳じゃないのかよ、と言いたくなるがぐっとこらえる。
「まぁ、これからもゼツと呼んでくれ。今更サカモトなんて呼ばれても恥ずかしいだけだ」
「……可愛いのに。サカモト」
「そうなのか? 私には分からないな……」
「……サカモト」
スズはサカモト呼びが気に入ったようだ。カツカツという4人分の足音とスズが呟く「サカモト」というウィスパー気味の声だけが響く。
「……エニシ・サカモト。それが私の名だ」
足音とスズの声に混ざってゼツが何か話し始めた。
「どうしたんだ? 急に。無理しなくていいんだぞ」
「暇つぶしに私の昔話でもしようかと思ってな。ヨウムには前に少し話したかもしれないが。私は故郷で縁を絶つための神として祀られていたんだ。当然、私のせいで不利益を被る人がたくさん出てくる。そういう人には恨まれるし、私を崇めていた人も無事に縁が切れたらそれっきり。まぁ早い話が疎まれて生活していたわけだ」
「そうだったな。でも人の縁の強さが見えるんだろう?」
「あぁ。それが本題だよ。スライムに食われている最中、私は一瞬意識を失っていたんだ。念のために補足しておくと絶頂に由来するものではないぞ」
「絶頂……って何なのですか?」
清純なレヨンがそう尋ねる声が聞こえる。
「レヨン、後で教えてやるからスルーしてくれ」
「あう……わ、分かったのです」
レヨンは俺の声のトーンで何かを察したように押し黙る。
「それで、目が覚めると私達の4人にはとても強い縁が見えるようになっていた。言ってはいなかったが、前々からこの4人は縁で繋がっているのが見えていたんだよ。それが今ははっきりと強くなっている」
「つまり……俺達4人は仲間になるべくしてなったって事か?」
「逆も然りだ。いくら縁に恵まれようと、自らそれを絶つ選択をすれば勝手に消滅する」
「……難しい」
「要するに、私達が仲良くしているからより結束した、と理解したのです」
「うむ。レヨンの理解で正しいぞ」
「なるほどなぁ……じゃあなんだ。実はこの4人で新しいパーティを正式に組むのも悪くないのかもな」
スズのS級パーティ脱退がどういうステータスか分からないので引き抜きのような形になるかもしれない。
それに、レヨンもまだ自分にそう言う話は早いと思っているかもしれない。
それでも、俺はゼツに見えている「縁」を捨てる気にはなれなかった。この4人で再会できた時はほっとしたし、前の『テクノス』のメンバーと一緒に居るよりも楽しいと思えるからだ。
「私はそういう未来も十分にあると思っているぞ。このダンジョンを生きて出られたら、だがな」
「変な死亡フラグを立てるなって……」
「……勧誘は魅力的」
スズはボソッとそう漏らす。
「私は……ま、まずはここを生きて出ないとなのですね」
レヨンはそう言って回答を誤魔化す。
この旅に出る前、俺が少しでも歩み寄っていたらもう仲直りは出来ていたんだろうか。
どうせ、あの時の気分でそんな事は出来ないだろうけど。
それでもレヨンの煮え切らない態度に俺はどうしても自分の過去の発言を後悔してしまう。
「……っと。ついたな」
そんなこんなで話していると、階段の終端に到着。目の前には大きな石の扉がある。
全員が階段を降り終わるのを待って、俺は石の扉に手をかける。
すると、他の3人も同時に手をついた。
「皆、行くぞ!」
「うむ。次も頼むぞ」
「治療は任せるのですよ!」
「……おなか減った」
どうにも締まらないが、俺達は4人で次の階層に繋がるであろう扉を開けたのだった。
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