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「今更だけどゼツの本名ってサカモトっていうんだな……」
スライムに身体を蝕まれつつも、どこか夢が叶ったかのように恍惚の表情を浮かべているゼツを見ているとどうにも緊急事態という感じが薄れてしまう。そういえば初めて会った時、本名は内緒にされていたなぁ、なんてことを思い出す。
「そんな話は後なのですよ! スズさん、剣ではダメなのですか?」
レヨンは真面目だ。必死の形相でゼツを助ける術を探そうとしている。
「……無理だった。剣は効かない。すぐに再生するから。それに私が本気を出したらサカモトを巻き込んでしまう」
「まぁ……そうだよなぁ……」
スライムに全身を包まれているのだから、討伐対象と救助対象が一体となっている。スズが本気を出して切りつけたら、それこそスズの身体が吹き飛んでしまうだろう。
試しに雷魔法を放って見る。
バチッと音がしてスライムの一部が弾け飛んだが、その部分は別のスライムがやってきて埋めてしまう。
弾け飛んだスライムはビクビクと痙攣しているが、やがてモゾモゾと動き初め、元の集合体へと戻っていった。
「なるほどな……やれるかもしれないぞ」
「ほ、本当なのですか!?」
「あぁ。ま、レヨンは万が一に備えて別の策を考えててくれ」
俺はスズとレヨンから離れ、スライムに包まれたゼツの方へ向かう。
「おーい! ゼツ! 聞こえるか?」
ゼツは目を瞑る力加減で返事をしてくる。意識はあるようだ。
「今から助けてやるぞ。前みたいにスマートじゃないし、ちょっとビリっとするかもしれないけど我慢しろよ!」
事前に声をかけたので後で何か言われても知らぬ存ぜぬで押し通そう、というのは冗談だが。
俺はスライムに近づき、ゼツに触れようと手を伸ばす。
当然その動きはスライムに察知され、俺の手はスライムのヌメヌメとした体によって包まれ始めた。ここで逃げ出さなければ、同じように食われてしまうのだろう。
だが俺はもっと寄ってこいとばかりに微動だにしない。
そして、肘のあたりまでスライムがのぼってきたところで一気に魔力を開放する。
このスライムは小さな個体の集合体。それがどのくらいの大きさなのかはわからないが、雷を小さく分けてすべての個体に雷を当てれば一斉に吹き飛ぶはずだ。
まずは1本の微弱な雷を作る。それを2本に分ける。それらを分けると4本になる。繰り返していき、8,16,32,64と雷を枝分かれさせていく。
「128……256……512……1024……2048……ぐっ……」
一気に枝分かれを増やしすぎたのか、雷の制御に力を使いすぎたようで一瞬頭がぐらつく。だが、持ち直せば問題はなさそうだ。更にペースをあげる。
「4096……8192……16384……32768……65536……131072……こ……このくらいでいけるか……?」
仮にこのスライムが13万匹以上の個体の集合体だとしたら次は更に数を増やせば良い。
俺は無数に枝分かれした雷光をスライムに向かって一気に放つ。当然ゼツを無数の雷がかすることもあるが、彼女には雷は効かないはずだ。
案の定、スライムがボロボロと剥がれ落ちていくだけでゼツには何の影響もない。
やがて、分厚いスライムの層が消え、ゼツの素肌が見えてきた。
火傷したように赤く痛々しい腕を無理矢理掴み、そこからゼツを引っ張り出す。
「ぜー……はー……」
ゼツは息をしている。もう大丈夫だろう。
「さすがヨウムさんなのです!」
「……すごい」
二人も俺の様子を見ていたようだ。振り返って二人に指示を出す。
「レヨン! ゼツを頼む! スズ! 手分けして落ちたスライムを叩き殺していくぞ!」
「……了解」
「はいなのです!」
俺は制御しやすい程度に雷を枝分かれさせ、落ちているスライムにとどめを刺していく。
スズもスライムをすり潰すように振り落とす。
動かないスライムは格好の的。俺たちの敵ではない。ものの数分でスライム達の討伐に成功した。
俺とスズは軽くハイタッチをして、ゼツとレヨンの元へ戻る。
地面に横たえられたゼツの肌はところどころ赤みがかっていて痛々しい。一人で捕まっていたらあのままゆっくりと溶かされていたのだろう。
「うぅ……」
「ゼツさん、もう大丈夫なのですよ。皆が助けてくれたのです」
「そうか……ヨウム、スズ、レヨン、感謝するぞ」
寝転がったままゼツはそう呟く。
「気にすんなよ。助け合ってこそだろ」
俺はそう言いながらゼツの顔の近くであぐらをかいて座り、元気づけるように頭を撫でる。
「なら……私はまだまだだな。特にヨウムには出会ってから助けられてばかりだ」
「そんなことねぇよ。例えば……ほら……」
そういえばこいつってパーティを組んでから、下ネタをいうか面倒事に首を突っ込むことしかしてないな!?
いや……まぁナツナの救出もスズに話しかけたのも結果はいい方に繋がっているからなのだろうけど。
そういえばこいつには人の縁が見えるのだったか。ナツナもスズも、当然レヨンも、全員が縁で結ばれているのだろうと実感する。
もしかするとそういう縁が強い時には、縁を引き寄せるために敢えて無謀に見えても突っ込んでいたりするのだろうか。
今回だってスライムに簡単に捕まるはずがない。何かしらの理由があったはずだ。
「なぁ……あのスライム……あいつと俺達は何かの縁があったのか?」
ゼツは「ハハハ!」と笑う。
「何もないぞ。私がスライム凌辱に憧れていただけだ。ちょっと身体に這わせてみたんだが思ったよりも強くてなぁ。ダンジョンのスライムを舐めていたよ。あ、この舐めるというのは変な部分を舌でどうこうすることではなく、相手をバカにする、という意味だな」
こ……この野郎!!!!
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