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本物のレヨンと二人でダンジョン散策を再開。
小部屋はちょくちょくとあるが、特に目ぼしいものは落ちていない。
「ここって何回層あるうちのどこなんだろうな……」
「意外と浅いところなのかもしれないのですね。お宝ザックザックと聞いたことがあるのですが……ここまでオケラだと寂しいものなのですよ」
「そうだよなぁ……」
「ところでヨウムさん。先程はどうして本物の私を見抜けたのですか?」
レヨンは控えめに目も合わせずに尋ねてきた。
「あぁ。あれか。まず間違いなく、過去の記憶を頼りにするのは無理だと思ったんだよ。経験を頼りにした反応は全く同じだったからな。だから新しい体験をしたときの、未知の体験に対する反応を確かめることにしたんだよ」
「なるほど……過去の経験をまるっと再現するような……例えば記憶のチェックなんかでは同じレベルになってしまうから見抜けない。むしろ過去の経験が通用しないことをやってみたらどういう形であれ反応は別のものになる、ってことなのですか」
「そういうこと。で、やったことないし、安全だしでキスをしてみることにした」
「他になかったのですか……」
「ぱっと思いついたのがそれだったんだよ!」
決して、マスク鉱山でのやり取りを思い出してしまったからではない。断じて否だ。
「まぁ……なんにしてもあいつはすげぇ積極的だったんだよ。背伸びしてまで応えてきた。腕が震えてたのはリアルだったけどな。だけど本物はそもそもキスをせずに避けた。ま、理由はわかんないけど、その方が今のレヨンっぽいなって思ったんだよ」
「あっ……案外ふわっとした理由だったのです……それで真っ黒焦げにされたらたまらないのですよ!」
レヨンは頬を膨らませて俺に抗議の意を示しながら、ポカポカと殴ってくる。
「わ……私にはヨウムさんに抱きしめてもらうような資格はないのですよ。色々なことをグチャグチャにした張本人なのですから……」
まだそんなに責任を感じているのか、と俺は言いたいけれど、そうしたところでレヨンは解放されないのだろう。
「ま、そういうところがあるから自信を持って選べたんだよ」
「あはは……嬉しいのやら悲しいのやら……」
俺が真っ直ぐに歩いていると徐々に視界からレヨンのとんがり帽子が消えていく。
少しして、レヨンが立ち止まっていたことに気づいた。
振り返って「早くしろよ」と呼ぶと、レヨンは帽子を目深に被り直して口を開いた。
「あ……あの……ヨウムさん」
「なんだ?」
「ヨウムさん的には……その……ああいう方が良かったりするのですか?」
「ああいう方?」
「ほっ……ほら! あれなのですよ! その……積極的な……といいますか……」
レヨンはモジモジとしながらそんなことを言い出した。こいつ、まだそれを気にしてたのか。俺はレヨンの元へ向かい、帽子を取り上げる。
「そんなわけ無いだろ。無理して背伸びされてる方が悪いからな。いつも通りが一番だよ」
「そう……そうなのですね! 分かったのです! 行くのですよ!」
「お……おう……」
急に元気になったレヨンに手を引かれ、俺達はダンジョンを先へと進んでいった。
◆
結局目ぼしいものはなく、縦横に大きく広がった空間に出てきた。ここから繋がる通路は俺達が来たものを入れて2本。他に分かれ道もなかったのでもう一つの通路からスズとゼツが出てくるのだろう。
それに物陰から何かを殴りつける音がする。俺とレヨンは恐る恐るその方向へと向かう。
「……サカモトを返して!」
岩の陰では、スズが叫びながら黄色いスライムのような魔物を殴りつけていた。
黄色いスライムの中には小型の赤いスライムがおり、ゼツの身体を這い回っていた。ところどころ服が溶かされ、胸や脚も普段は見えないところまでむき出しになっている。
あれはあれでゼツは喜んでいそうなシチュエーションではあるけれど、眉間によっている皺の数からして快楽どころの話では無さそうだ。
ゼツを助けようとしているスズの拳はポヨン、とスライムによって勢いをそがれ、全くダメージを当たれられている様子には見えない。殴りつけられるたびにポヨヨンと揺れるスライムがスズを嘲笑っているかのようだ。
「スズ……どうしたんだ?」
スズはスライムから離れ、俺たちの方を向く。
「……ヨウム……レヨン……サカモトが……ゼツが食べられちゃった」
スズは泣きそうになりながら俺たちにそう告げた。
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