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 ハイドン鉱山の坑道はこれからダンジョンに挑もうとしている冒険者、手負いとなり帰ってくる途中の冒険者であふれかえっていた。


 観光地かと思うほどで、双方向の列をなしてぞろぞろと人が歩いている。


「このまま歩いていたら最奥部についちゃいそうなのですよ」


「そうだよな。なんか……ダンジョンってこういう感じなんだな。スズやゼツは他のダンジョンは行った事あるのか?」


「……初めて」


「私もだ。つまり……全員がここで初めてを失う……ロストバージンということだな」


 ゼツはニヤニヤしながらそう言うが、全員が無視。こいつの扱い方もだいぶ慣れてきた。


 だが、誰もダンジョンの勝手を知らないというのは中々に不安だ。誰しも初めてはあるのだろうけど、まさか全員が同時とは思わなかった。


 そんな風に雑談をしながら歩みを進めていると、開けた空間に出る。どうやらメインの鉱山部分のようだ。


 別の通路からは鉱山労働者のような人たちが発掘した鉱石を運び出している。


 そんな空間の一区画だけは厳重に柵と門で覆われ、警備のような人が立っていた。


 そこがダンジョンの入り口なのだろう。


 入り口で一組ずつチェックがあるらしく、行列の原因はここだったようだ。


「パーティの場合はランクを申告すること! Bランク以上はこちらに!」


 そう言う人の前には誰も並んでいない。どうやらほとんどのパーティはCランク以下のようだ。


「私達はあっちなのですかね」


「まぁ……そうだろうな」


 二人はSSSランクのパーティ。後二人も元SSSランクパーティと元Sランクパーティのメンバーなのだから、Bランク以上ではあるだろう。


 俺達は4人で固まってBランク以上の受付の方へ向かう。


「入場券を拝見する」


 俺は受付兼警備の兵士の言葉に従って4人分の入場券を渡す。


「うむ。ちなみに貴公らのランクを伺いたい」


「あー……SSSランクです」


「は?」


 予想通りの反応だ。ダンジョンが出現して早々にテクノスが来るだなんて思っていなかったのだろう。


「あ……一応テクノスというパーティでして……」


「ハッ……な、なななな……なんと!?」


 兵士は後ずさりながら驚く。


「と、通っていいですか?」


「い、いや! 待て! 証明するものはあるか!? SSSランクを騙る輩かもしれん。それにテクノスは男3人女1人と聞いている! どう見ても貴公らは男は1人ではないか!」


 ギルドの関係者とはいえまだ世間の認識はそうなのか。


 レヨンと顔を見合わせて苦笑いをする。


 さて、どう証明したものか。特に証明するための物品なんかはない。自らSSSランクのパーティだなんて名乗る機会はそうそうなかったし、証明する機会もなかったからだ。


 だが、方々で疑われるのも面倒なので今度トンプソンに会ったら何かしらの証明を発行してもらおう、と心に決める。


「うーん……でも本当なんですよ。どうやって証明すれば?」


「ランク証があるだろう?」


「ら、ランク証?」


 知らないぞ、そんなもの。俺やレヨンがポカンとしていると、ゼカが近づいてきて耳打ちをしてくれる。


「Aランク以下はあるんだ。小さなドッグタグみたいなものだよ」


「あぁ……そうなのか……」


 俺達はデビューからSランク。それもすぐにSSSランクへ昇格したので、Aランク以下の常識は知らない。


 まぁそんな事を言うと嫌味っぽいので黙っておくに限る。


「Sランク以上なのでランク証はありません。顔パスで通して貰えませんか?」


「顔パスも何も顔を知らないからな……そうだ。この石はハイドン鉱山で産出するタングステン。非常に硬い金属だ。これを割って見せろ」


 兵士はできないだろうと言いたげにニヤニヤしながらそう言う。


 石を割る力とSSSランクかどうかは別じゃないか? とも思わなくもないが、全員が頷いたので実演する事にした。


 まずは俺。タングステンの鉱石の隙間に魔力を流し、熱で溶かしていく。それを地面に叩きつけると石は簡単に真っ二つに割れた。


「はい。出来たぞ」


 続いてスズ。片手で握るとパァン! と音を立てて鉱石が砕け散る。破片も物凄い勢いで飛んでいき、兵士の頬を掠めた後は薄皮が切れたようにツーっと血が伝う。


「……余裕」


 次はゼツ。鉱石を地面に置いて固定すると、刀を握って振り上げ制止する。


 そのまま目を瞑って精神統一を開始。


 全員が息を飲む。


 ゼツは自分にとって最良のタイミングで「チェストー!」と叫んで刀を振り下ろす。


 すると、鉱石は音もなく真っ二つに割れた。いや、切れたのだとその切り口を見て察する。


「ふぅ……こんなものだな」


 最期はレヨン。彼女はヒーラーだが、それ以外の属性の魔法もそつなく使える。


 だが、意外にも苦戦している様子だ。


「うーん……割れないのです」


 鉱石の前でじっとしゃがみ込んであれこれとしているが、一向に石は割れる気配がない。


 俺は見かねて警備の兵士に見えないように雷を放つ。するとバチっと音を立てて石が跳ねた。よく見ると亀裂が入っているので大丈夫だろう。


「お! 割れそうなのです! 後はこれを……えいっ! なのです!」


 レヨンは重たいタングステンの鉱石をフラフラになりながら持ち上げ、適当に投げる。


 すると、亀裂の凹凸に地面がクリーンヒットしたようで、パカッと二つに割れた。


 これで全員がクリア。俺が警備の兵士を見ると「ううむ……」と不服そうに唸る。


「……仕方ない。次は頭蓋骨を砕く?」


 スズはそう言いながら兵士の頭を掴み真顔で脅す。表に感情が出ないだけで腹の底ではかなり激情家なタイプらしい。


「ひっ! と、通って良し!」


「……通過」


 スズはニヤリと笑って俺達を見てくる。


 俺達も笑い返し、柵を越えて遂にダンジョンへの一歩を踏み出した。


 とはいえ、薄暗い通路が続くのはこれまでと何ら変わらない。


「まったく……スズはどこまで規格外なのだ……」


「でも、違うタイプで面白いのです。私は常識人なのであぁ言ったことは出来ないのですよ」


「レヨンに同じく。ま、そこがスズの良いところだな」


「……照りマヨ」


 スズはポッと頬を赤くして俯く。


「そういえば食いもんはあんまり持って来てないな。中で調達出来なかったらどうするんだ?」


 スズは俺、ゼツ、レヨンを順番に見ると、ゼツに狙いを定めたように視線を固定した。真顔で見続けているのでゼツは恐怖を感じたのか俺の背後に隠れた。


「た、食べないでくれ! 性的な意味なら大歓迎なんだが!」


「歓迎するなよ……」


「皆さん、もう少し緊張感を持ってほしいのですよ」


 レヨンはそう言いながらも、スズが持って来ていた肉をつまみ、指についたスパイスを舐めとっている。


「お前もだぞ……」


 正直、ただ洞窟を歩いているだけ。敵もトラップも何も――


 その瞬間、ふわっと嫌な浮遊感に包まれる。さっきまであった地面が無いのだ。


「え?」


「……ん?」


「ひゃぅう!」


 他の三人も驚いた声をあげているが、誰も適切な行動をとる事が出来ない。


 そのまま俺達は落とし穴の奥底へと落ちていくのだった。


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