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鉱山前に出来た即席の町はまだ発展途上らしく、無秩序に並んだ掘っ立て小屋のせいでかなり入り組んでいる。
その迷路のような道を越えた先にある鉱山の入り口で待っていると、串に刺さった肉の塊を持ったスズとゼツがやってきた。
「すごい肉だな」
ゼツがスズの食費をジェスチャーで教えてくれたので立て替えてもらった分の金をゼツに渡す。
牛の腹をまるまる一本持ってきたんじゃないかというくらいにボリューミーな肉の塊だ。
「……塊」
「見りゃわかるよ」
「……怒らないの? 荷物になるって」
なぜかスズは恐る恐る尋ねてきた。前のパーティではこれで怒られたりしていたのだろうか。
「自分で持ってる分にはな。それに、俺も貰うぞ?」
塊肉から少しだけ肉を削いで食べる。香辛料が効いていてうまい。
同じようにゼツとレヨンにも一切れ取り分けて渡すと笑顔で食べている。
「こうやって皆に渡せばいいんだよ」
「……なるほど」
新発見とばかりにスズは驚く。
「もしかして……前のパーティのときはずっと独り占めしてたのか?」
「……独占」
ニヤリと笑ってスズは肉にかぶりつく。
こいつの食い意地の張り方はとんでもない。
「あぁ……と、とりあえずこれからどうする? ハイドン鉱山自体の安全はここにいる冒険者達が担ってるようなものだし、俺達が出しゃばるような感じでもないしさ。一度ワイムの冒険者ギルドに戻ってアイノに方針を相談するでも良いし……」
「おや。ヨウムにしては随分と遠回しな言い方だな」
ゼツが俺の意を汲んだように笑う。
「本音を言えばダンジョンに行ってみたいんだよな」
「なら行こうではないか! スズも良いだろう?」
スズはゼツと仲良くなったようで、目を合わせて頷いている。
「……私もついて行って良いの?」
「あぁ。むしろ歓迎するよ。これで4人パーティだ。一番動きやすい人数になったからな。万が一を考えても不足はないよ」
前衛はゼツとスズ。後衛は俺とレヨンが担当する配置。元『テクノス』でもこの割合だったし慣れている構成だ。
「そうと決まれば……早速行くのですよ!」
レヨンは俺達をダンジョンの入口へと誘導する。
そこでは、何やら冒険者が机に向かって列を形成していた。
「はいはーい! 入場券の販売はこちらー! Bランクのパーティまでは銅貨1枚、それ以上は要相談だよー!」
元気にそう叫んでいたのはノイヤーさんだ。どうやら冒険者ギルドが人の交通整理を兼ねて入り口で入場券の販売をしているようだ。
「のっ、ノイヤー!?」
ゼツが一番に驚いてそう言うとノイヤーさんへ駆け寄っていく。ノイヤーさんも俺達に気付いたようで、机から身を乗り出して手を振ってくる。その度にバインバインと大きな胸が揺れていて、ほんの数日ぶりなのになんとも懐かしい気持ちにさせられる。
「……爆乳」
スズはレヨンをちらっと見てからそう呟く。スズもそれなりだと思っていたが、ノイヤーさんを前にすると誰しもが自信を失ってしまうものらしい。
「これはこれで需要があるので私は気にしていないのですよ」
レヨンは胸を張ってそう言う。
「……強がり」
「ぐっ……スズさん少しは先輩である私をリスペクトして欲しいのですよ……」
「……ヨウムの好みは?」
スズはレヨンの言葉を無視すると今度は俺に話を振ってくる。スズはぼそぼそと話すけれど無口という訳でもないらしい。並んでいて暇な時間に積極的に話を振ってくるのだからむしろ話し好きと言っても良いのかもしれない。
「そうだな……」
ノイヤーさんのサイズを極大とするなら、スズとゼツは中、レヨンは無。誰かを褒めれば誰かが傷つくという難問だ。
「あー……みんな違ってみんないい、だよな? な?」
俺がそう言うと、スズとレヨンはジト目で俺を見てくる。
「……逃げた」
「あぁ……やはり回復魔法よりも先に変身魔法を練習すべきだったのです……」
二人の白い視線から逃げるように列の先頭に視線をやる。
列の先頭へ行ってノイヤーさんと立ち話をしていたゼツが丁度戻ってきたところだった。
「おぉ! 私達は無料で良いらしいぞ! ん? どうした? なんだかさっきよりも空気が重たくないか?」
「……多様性のバリアをはられてしまった」
「はうぅ……はっ! 牛乳! 牛乳を飲むのですよ! 誰か近くにある農場を知らないのですか!?」
「なっ、いったいどうしたんだ……」
ゼツは状況を呑み込めないようで、スズとレヨンの言葉を理解できていないらしい。
というかゼツが一番好きそうな話題だし、ここはゼツに乗っかってもらってスケープゴートになってもらおう。
「あー……いや、ノイヤーさんって、その……胸がデカいだろ? そんな話をしていたんだ」
ゼツはこれまでにないくらい真剣な表情をする。
「ふむ……興味深い話題だな」
「ぜ、ゼツはどうなんだ? どういうサイズ感が良いとかさ」
「何? 全てにおいて優劣などないだろう。陥没乳首、あばら骨が見える程の貧乳、垂れ乳、巨大乳輪。愛する人の乳房ならばありとあらゆるものを愛すべきではないか? 好みだと? 甘えるんじゃない!」
「……素晴らしい」
「さすがなのです!」
二人は目を輝かせてゼツに向けて拍手を送る。
要約すると俺と同じような事を言っている気がするけれど、何が違うのだろう。
まぁ俺を責める流れが無くなったので良しとしよう。
「……というのがヨウムが言ったであろう模範解答だが、やはり私はノイヤーの物が一番だな。大きさに勝るものはないな、うーん」
腕を組んでしみじみとそう言われると俺の立場がなくなるんだけど!?
「い、行くぞ! 無料なら受付は要らないだろ?」
ゼツは既にノイヤーさんから入場券を受け取っているようで、手には4枚の紙切れを持っている事に気付いた。
これで俺達もダンジョンへ入れるはずだ。
三者三様の視線を受けながら、俺達はダンジョンの入口へと向かうのだった。




