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 カスタリア公爵の屋敷を出発し、ハイドン鉱山を目指す道中。隣りに座っていたレヨンが「うわぁ!」と歓声をあげた。


 その方向を見ると、そこには大きな湖の水平線が見え始めているところだった。


「あれは……海? いや、湖か」


「この方角だと……カスタリア湖なのですね」


「じゃあここもまだカスタリア地方ってことか……どんだけ領地が広いんだよ……」


 あの湖も元を辿ればナツナの父親、カスタリア公爵の持ち物。もはや一国の王と言われても不思議ではない程の権力を持っていそうだ。


「ん? 誰かが木の陰で寝転んでいるのですよ」


 レヨンが指さしたのは湖の近くに生えている木の根元。そこでは赤髪の人が寝転んでいた。


 周囲には荷物が散乱していて、明らかにこのまま放置できるような状況ではない。


 正義感に強いゼツが一目散に馬車を飛び降りて向かっている。


「まぁ……行くしかないか」


 俺とレヨンも目を合わせ、馬車の勢いが少し弱まってから荷台から飛び降り、赤髪の人の元へと向かった。


 ◆


 木の根元に寝転んでいたのは剣士の女の子だった。顔にかかるくらいの長さの赤い髪は乱れて目にかかっているが、年は俺達よりも少し若いくらいに見える。


 普段は背負っているのだろう大剣の鞘も赤、服も赤ベースのものという徹底ぶりだ。


 を脇に置き、荷物を入れているリュックの中身は下着も砥石も関係なく散乱している。


「だ、大丈夫か!?」


 ゼツが走り寄って揺すると、女の子は「んん……」と声を出して起き上がる。


「……皆は?」


 赤髪の女の子は俺達をぐるりと眺めるとぽつりとそう漏らす。


「皆?」


「……パーティ。はぁ……お腹空いた……」


 会話が成り立っているのかと心配になってくる。腹が減ったらしいのでゼカが自分の鞄から保存食を取り出したところで赤髪の女の子はそれを制して立ち上がった。


「……大丈夫」


「大丈夫って……腹が減ってるんだろ?」


「……独力」


 さっきからずっと真顔だ。不愛想なやつなんだろうとは察するし、ゼツはお節介だったかもしれないが、少しは感謝の意を見せてくれてもいいだろうと思ってしまう。


「こんなところで寝転がってたら誰かに狙われるかも知らないだろ? その態度はどうなんだよ」


「……スズ」


「いや、名前じゃなくて……」


 スズと名乗った赤髪の女の子は鞘から自分の頭身と同じくらいの長さのある大剣を抜き取ると、それをいとも簡単に片手でブンブンと振りながら持って湖の方へ向かっていく。


 その怪力っぷりに俺達は三人で目を見合わせる。


「あの子……スズ……はっ! S級パーティの人なのですよ!」


 レヨンは思い出したようにそう叫ぶ。


「S級パーティ……そんなのがいたのか」


「はいなのです。S級パーティも数は多くありません。片手で数えられる程度なのです。『バッドエンド』というパーティはその中でもSS級に近いと言われていた新進気鋭のパーティなのですよ!」


「で、あの子がそのメンバーだって事か。あの様子を見るに置いていかれたのか?」


「そうかもしれないのです」


 自分の身に降りかかった事を思い出してしまう。まぁさすがにこんな大剣を片手で振り回せるような人を簡単に追い出すとは思えないが。


 スズは丁度湖の波打ち際に着いた頃だった。


 そこで剣を振り上げ、一気に叩き下ろす。


 ザッパァン! とあまりの怪力で湖が真っ二つに割れた。


 その衝撃で何匹かの魚が雨のように水と一緒に空から降ってくる。


 俺達はずぶぬれになりながら、湖が元の形に戻ろうと、何度も大きな波をぶつけ合う様子を眺める事しか出来ない。


 全員が口をあんぐりと開けて、目の前で起こった天災級の出来事を目に焼き付けている。


 魚が辺りに降っている事を確認したスズは悠々とした足取りで俺達のところへ戻ってきた。


「……しまった」


 スズは顔を青ざめさせて


「どうしたんだ?」


「……火が……起こせない」


 そりゃそうだ。辺り一面びしょ濡れで枯れ木だったものは枯れ木じゃなくなってしまったのだから。


 見かねたレヨンが「ちょっと待っていてください」と言って湖から離れたところで枯れ木を集めに行った。


 ゼツもついて行ったので、俺はスズと話をしてみる事にする。


「スズ……さん?」


「……スズでいい」


「スズ。ヨウム。俺達は『テクノス』ってパーティを組んでるんだ。知ってるか?」


 スズはこれまでのボーっとした態度の中で一瞬だけ鋭い目つきをして俺の方を見てくる。


「……ビリビリの人?」


「そ、そんな呼ばれ方はしたことないかな……」


「……いつも後ろからビリビリさせてた」


「なっ……」


 パーティメンバーの誰もが、レヨンですらそれに気づいていなかったというのに、どこかで見かけただけで俺が何をしていたか彼女は見抜いていたらしい。


 魔力を感じる器官が敏感なのか、野生の勘なのか、はたまた別の能力なのか。何にせよ彼女は怪力だけの人ではなく、鋭さも持ち合わせているようだ。


「そういえばパーティの人はいないのか?」


「……分からん」


 スズは獲物の魚の頭を素手で殴って気絶させ、自前の大剣の上に並べている。


「そ……そっか」


「……起きたらいなかった」


「その前に皆と何か話してなかったのか?」


「……話した」


「なんて?」


「……お前は、クビだって」


 あー、すっごい親近感が湧くぞ。なんでだろう?

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