20
都市ワイムにある冒険者ギルド本部の訓練場。
そこでは、トンプソン、ペイブソンを前にしてゼカとムサビ、彼らの二人の新しい仲間の四人が地に這いつくばっている。
ヨウム達が旅立ってから一週間、彼らは毎日のようにFランクを脱却するため長老たちの試練に挑み続けているが一向にクリアできる気配がない。
「ほっほっ。Fランクじゃ」
トンプソンは余裕の笑みを浮かべ、地面に這いつくばっている四人に向かって告げる。
「くっそ……俺達の時だけ手を抜いてないだろ……他の奴らの時はもっと手加減してるくせに……」
「では明日は手加減してEランク相当での合格としてやろうかの?」
「そっ……そんなの……俺達は元SSSランクだぞ!」
ゼカは自分達のプライドが許さない、とばかりにそう叫ぶ。
「ではそれなりの要求水準となるのは当然であろう? プライドを捨てるか、諦めずに努力を続けるか。二択じゃのう」
「くそがっ! 前はこれでSSSランクだっただろうが!」
悔し紛れに地面を叩いたゼカとトンプソンの間に冒険者ギルドの4長老の一人、ナンプソンが割って入った。ナンプソンは長老の中では比較的若手で野心家。
黒々とし油で粘ついた髪を一度手で撫でつけ、ナンプソンはゼカを守るような立ち位置でトンプソンを睨みつける。
「そろそろ将来有望な若者をイジめるのも飽きられたのではないかな? ご老人が大人げないですぞ」
「ふむ……毎日のように試験をやっておるでな、修行という名目でわしらはむしろ感謝されたいところなのじゃがのう……」
トンプソンは不服そうにそう呟く。
「では明日の試験は私とシャープソンが担当しましょう。ご老人はお休み頂いた方がよろしいかと」
「ふぉっふぉっふぉ。そうかもしれんな。では明日はナンプソンとシャープソンにお願いしようかの」
トンプソンとの約束を取り付け、不毛な争いを中断させたナンプソンは振り向いてゼカとムサビを見る。
「貴公らもいい加減にSSSランクなぞという幻想は捨てるべきだ。あれは雷神あってこその称号だからな」
「ら……雷神?」
「ヨウムの事だ」
ゼカの質問にナンプソンは真顔で答える。
「どいつもこいつもヨウムヨウムって……あいつはただ後ろでこそこそしてただけじゃねぇかよ!」
「ふむ……そう思っているうちは、貴公らがSSSランクになるのは夢のまた夢だろうな」
「くっそぉ……っ!」
ゼカはもう一度地面に拳を叩きつける。
トンプソンはギルドの事務所側から新たに訓練場へやってきた一団に気付き、ゼカからその一団へ視線を移す。
「……おや? 次のパーティかのう?」
三人組の集団がトンプソンの前まで歩いてやって来る。その中の剣を背中に背負った一人が前に出てきた。
「S級パーティ『バッドエンド』です。私はリーダーのソーハ・ルオミ。メンバーが変わったため、再認定をお願いしたく」
「おや? 三人か? 前は四人組だったかの?」
トンプソンがソーハに尋ねる。
「えぇ。スズというものがおりましたが、彼女がいなくなりました」
「おぉ! あの赤色が好きな大食いの娘か! しかし、いなくなった……とは?」
「ありていに言うとクビ、ですね」
「ふむ……近頃は誰かをクビにしてパーティを再編成するのが流行っておるのか?」
トンプソンはスズという女の子がS級パーティ『バッドエンド』の軸として活躍していた事を思い出し、ヨウムと重ね事の次第を疑問に思う。
「は……流行、ですか?」
「あぁ、いや。何でもないぞ。では試験を始めようかのう」
トンプソンは深い皺の刻まれた目の奥から厳しい眼光を三人に浴びせる。
それは三人がSランク認定を受ける事の厳しさを実感するには十分なほどの恐怖心を与えたのだった。
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