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鉱山で一泊してカスタリア公爵家の屋敷へ。
山の中腹にある城がそれにあたるらしい。
俺達は坂を登り、恐る恐る門の前で馬車から降りると、衛兵が俺達の方を見ながら警戒心を強めたのが分かった。
「ナツナ・カスタリア様に用事があります。ヨウム・ライディーンが参ったとお伝え下さい」
衛兵は訝しりながらも一人が門の向こうへと消えていく。
そして、しばらくすると平服を着たナツナが走ってやってきて、俺に抱きついてきた。
「ヨウム様! 待っておりましたわ! 本当に来てくださいましたのね! 嬉しい!」
「ちょ……は、離れてくれって」
背後からの視線が痛い! 主にゼツのゴシップ好きな茶化す目線とレヨンからのガチな嫉妬系の目線!
「離れませんわ! さ、ヨウム様。父上にも挨拶をいたしましょう。ヨウム様の話をしたらぜひ直接お礼を言いたいと申しているのです」
「ち……父上って公爵だよな?」
「そうですわ。他におりまして?」
「貴族の人となんてほとんど話したことないんだけど……大丈夫なのか?」
「私がなんとかしますわ」
心強いのだけれど、面倒な事にならないといいが。
背後からゼツとレヨンにザクザクと刺されているような気もしつつ、俺は腕に巻き付いてきたナツナと並んで城の中へと入っていった。
◆
応接間に並んで座っていると、使用人を引き連れたカスタリア公爵が入ってきた。
俺達は立ち上がって公爵を出迎える。
「よいよい。座ってくれ」
公爵は立派に蓄えられた髭を撫でてそう言った。
同時に全員が着席すると公爵は机に額をこすりつける勢いで頭を下げた。
「この度は我が娘の命を救ってくださりかたじけない。ヨウム殿、レヨン殿、ゼツ殿。報奨はいかようにでも」
「あぁ……それならもう貰ってます」
「なっ……なんと!?」
カスタリア公爵は驚いた顔をして娘を見る。違う、そうじゃない。
「鉱山でいくつか石を貰いました。それだけです」
「そ……それだけで良いのか!? もっとこう……金や女やと要求はないのか!?」
「えっ……な、ないですけど……」
カスタリア公爵は商魂逞しい人という印象だ。だから自分も周りにも報酬は金をとにかく積めば良いという発送に至るのだろう。
それはそれで割り切れていて悪くないのだが、生憎俺達はそこまで金に困っていない。そんなわけで名誉を選んだわけだ。
「なんと奥ゆかしい……ヨウム殿。このカスタリア地方での活動で何かありましたらいつでも私の名前をお使いくだされ。まともな者はそれで引きます。まともでない者は食って掛かるでしょうがそういった愚か者はいかようにでもしていただいて構いません」
要するにカスタリア公爵の名前を借りて好き放題できるということ。いやまぁありがたい申し出ではあるけれど、中々に切りづらいカードだ。実際に、村を襲撃して略奪なんて出来る訳がないし。そういう良識がある前提の話だろうし。
「あ、ありがとうございます。早速のお願いにはなるのですが、領内で腕利きの宝飾品職人を紹介してもらえないでしょうか?」
「もしや……鉱石の加工をお望みか?」
「はい。ここに5つの石があります。これらを宝飾品に出来る人にお願いしたく」
「それくらいならお安い御用だ」
とりあえず原石を整えてくれる人はこれで簡単に見つかりそうだ。
だが、話に割り込んできたのは俺の隣りに座っているナツナ。
「ヨウム様! 折角なのですから先に鉱石を見たいのです! 一体どんな石を選んでいただいたのか、と」
「あぁ……これですよ」
俺は包の中から赤い原石を取り出してナツナに手渡す。人の顔ほどありそうな鉱石の真ん中は赤く輝いている。
「まっ……まぁ! これはルビー……ヨウム様……ありがとうございます」
なぜか石に負けずとも劣らないまで顔を赤くしてナツナは俯く。
「なっ……なんでそんな……」
「ご存知なのでは? ルビーの石言葉は『純愛』。つまりこれはヨウム様から私へ愛のメッセージと受け取りました」
「なんと!? 今日は宴か!?」
違う、そうじゃない。そうじゃないのだけど、ナツナもそうだし、その父親も大興奮して喜んでしまっている。
「あっ……いや……これは……ただ……」
俺がナツナの方を向いて弁解しているとガシッと肩を掴まれる。振り向くと、笑顔だが目だけは笑っていないレヨンがいた。
「ヨウムさん、私の石も見せてほしいのです」
「あ……あぁ」
俺が包みから残りの石を取り出す。
「ピンクオパールにエメラルド……サファイアと……スファレライト……ですか?」
ピンクオパールをゼツに、スファレライトと呼ばれたオレンジ色の石をレヨンに手渡す。
ナツナは最後のオレンジ色の石を見て眉をひそめた。
「ナツナ、どうしたんだ?」
「いえ……これは……」
ナツナは俺のそばに来て耳打ちをする。
「石言葉は『裏切り』というものもあります」
マズイ! これをレヨンに渡すのはかなりの嫌味じゃないか!
俺は慌ててレヨンから石を回収しようとするが、レヨンは意地でも離さない。
「いやなのです! これがいいのです!」
「や、やめとこうぜ! ほら、エメラルドとかサファイアの方が貴重で高いんじゃないのか? それは多分安物だぞ?」
「値段ではないのです! ヨウムさんが選んでくれた。それが大事なのですよ! そうなのですよね!? ナツナさん!」
「はい! 当然ですわ!」
何故かいつの間にかナツナはレヨンと手を組んでしまった。
分の悪くなった俺はゼツに助けを求める。
ゼツは残った石を見ながら「ふむふむ」と顎に手を当てて考えてごとをしていたようだ。
「エメラルドはノイヤーへの土産かな? 目の色と同じだな。サファイアはまだ見ぬ仲間へ……といったところか」
「正解だよ」
「ではなぜ私はピンクオパールなのだ? どこにもピンクなところなどないではないか」
「いや、あるだろ」
脳内が真っピンクなのに自覚がないのか!?
「ピンクなおぱ……私のおっぱいを見たことがあるのか!? いつ見たんだ!?」
ゼツは慌てながら自分の胸を腕で隠す。
そういうところだぞ、と言いたいのだけど、皆テーブルの向こうに公爵が座っているのを忘れているんじゃないだろうか。
恐る恐る公爵の方を見ると、俺達のハチャメチャなやり取りを、公爵は苦笑いしながら聞いていた。ナツナに今後近づくな! と一喝されなかっただけ良かったと思おう。
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