18
オレスリザードの巣はサブの坑道と繋がっていた。ミスラル鉱石に群がっていた奴らを倒したときと同じ方法で各個撃破。最後に巣の奥で守られていた卵を破壊して巣の掃除は完了した。
そして、念のために外からの侵入を防ぐための電気柵も設置。ミスラル鉱石を使った魔力を半永久的に供給する機関がやっと完成した。鉄格子にミスラル鉱石から魔力を供給することで雷魔法を流し続ける仕組みだ。
「っし、完成だな」
「ふむ……見た目には何も変わらないな……」
ゼツはそう言って電気柵と化した鉄格子をペタペタと触る。
「それはお前だからだぞ……」
ゼツは何故か雷魔法が効かない体質だ。故に鉄格子を触ってもびくともしないのだが、俺は動作確認のため鉄格子に向かって木の枝を投げる。
ジュッ! バチッ! と音を立てて木の枝は一瞬で黒焦げになり、煙を立てながら焦げ臭い匂いを辺りに漂わせる。
「うわぁ……これに当たったらひとたまりもないのです……」
「ま、人間や動物なら気を失うくらいだよ」
「では……最後に鉱石採集なのですか?」
「あぁ……それは俺がやるよ。ゼツとレヨンは休んでててくれ」
俺は二人を残して坑道の中へと進む。
「あっ……まっ……」
背後からレヨンの引き止める声が聞こえたが、俺はお構いなしに坑道の奥深くへと一人で向かったのだった。
◆
やってきたのは大きなミスラル鉱石があった坑道内の広い空間。
「うーん……これじゃ……微妙だよなぁ……」
俺はナツナにプレゼントする鉱物を探すついでにレヨン、ゼツ、ノイヤーさん用の鉱物も探すことにした。候補の鉱物を手にとっては明後日の方向に投げることを繰り返している。
ただのプレゼントというのもあるし、『テクノス』のメンバーであることを示す分かりやすいアイテムになると思ったからだ。ノイヤーさんはテクノスとは関係ないけれど、良くしてくれているしお土産を渡さないと拗ねそうなので合わせて用意している。
後見つからないのはレヨンの分だけ。付き合いが長い分、ああでもないこうでもないと拘ってしまうのが良くないのだろう。
「まだ探してるのですか? ヨウムさん。外は真っ暗になっちゃったのですよ」
俺が疲れ果てて坑道の奥で座り込んでいると、隣にレヨンがやってきて座った。
「まだそんなに時間経ってないだろ」
「真っ暗は嘘なのですけど……もう日が暮れてきてるのは本当なのですよ」
「なっ……まじかよ……」
「ふふっ、よっぽどナツナさんに渡す石で悩んでいたのですね。ナツナさんが羨ましいのです」
「そんなんじゃねぇよ。ナツナのはこれ。すぐに決まったよ」
俺はナツナ用に見つけたルビーのような原石をレヨンに見せる。
「わぁ……大きな宝石なのです……そうしたら、今は何をしていたのですか?」
本人の前で選ぶのが大変とは言いづらい。適当に誤魔化すことにする。
「あー……ま、何でも良いだろ。空を見てたんだよ」
「ここは地下なので空じゃなくて天井なのですよ」
「天ってついてるから似たようなもんだろ。それに光ってる」
鉱石は光を取り込んで反射する。俺は適当に雷魔法を放って広い地下空間に光を満たす。するとそれに呼応するように鉱石たちが自分に与えられた色を見せつけるように輝き始めた。
「うわぁ……すごく綺麗なのです。なんだか懐かしいのですね。四人で旅をしているとき、こうやってよく二人で星空を眺めてたのですよ」
レヨンは帽子を取り、天井を見上げる。天井にも大きな鉱石がいくつも埋まっていて、それらはシャンデリアのように光を反射している。
星空と言われても遜色ないか、むしろこの方が綺麗とまで思ってしまう程だ。
レヨンはしばらく天井を見上げた後、腕に顔を埋めた。
「さっきの言葉、嬉しかったのです」
「さっき?」
「ほら、レインディアさんに今のテクノスは3人だって。社交辞令でも嬉しかったのです」
「じゃ社交辞令並みに嬉しがっててくれ」
「むぅ……やはり社交辞令だったのですか……」
「なんてな」
俺がニッとレヨンの方を見て笑うと、レヨンは照れ隠しのように帽子で自分の目を隠した。
旅に出る時の言葉を簡単に翻すのは好きじゃない。だけどレヨンと一緒に過ごしていると、彼女には悪意の欠片もなかったことが伝わってきて、どうしても憎さより友情か勝ってしまう。
「ヨウムさん、変わったのですね」
「そうか?」
「はいなのです。4人のときは私と二人で一緒に年下キャラでした」
「そうだな」
「この旅に出る前は……強そうだけれど正直怖かったのです。でも……それも私のせいなのですから、こんなことを言うのもおこがましいのですけど……多分、あの時のヨウムさんだったらレインディアさんのことは許してなかったと思うのです」
レインディアのこと「は」許していないとレヨンは言った。それはつまり自分はまだ許されたという認識ではないということ。
そんな言葉尻を捉えるほど今の俺はやさぐれていないけれど、レヨンはまだ俺にビビっているようだ。俺から目を逸らしたままレヨンは続ける。
「そして、今はなんだかリーダーっぽいのです。皆のことを気遣って、石を5個集めてみたり。私は今のヨウムさんが一番好きなのですよ」
レヨンは帽子のつばを上げると、俺の方を見てニッコリと笑う。一瞬だけ、何もかもが壊れる前に戻った気がした。
「あ……ありがとな」
照れ隠しに顔を逸らしたその先に、オレンジ色に輝く鉱石を見つけた。これならレヨンに合いそうな気がする。
「これ……レヨンの分。どうかな?」
レヨンに石を差し出すと、彼女は石を受け取らずに後ずさる。
「はっ……はわっ……わわっ……わ、私はまだ受け取る資格は無いのですよ!」
レヨンはそう言うと、帽子を取って立ち上がる。
俺の前に来ると中腰になって目を瞑り、俺の額にキスをしてきた。
「石の代金、前払いしておくのです!」
そう言うとレヨンは外に続く道へトテトテと走っていく。
「へ? あっ……」
「綺麗な石なのです。そろそろ切り上げないとゼツさんもお腹が空いたと怒っているのですよ〜!」
前払いもしてもらったわけだし、すぐ手元にあったオレンジ色の石を手にとって俺はレヨンの後を追いかけるのだった。
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