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状況を報告するため、兵士たちと坑道を進みレインディアの待つ場所に戻った。
「なっ……お、おかえりなさいませ」
レインディアは俺の顔を見るとギョッとした表情を見せる。
「あぁ……戻りましたけど。なんだか不服そうですね」
「そっ……そうですかな!?」
「ちなみに……中は大変でしたよ。魔物がたくさんで」
「そうでしたか! いやぁ……リザードがたくさん――」
「あ? 俺はリザードなんて一言も言ってないよな? どういうことだよ」
そう。あんな量のオレスリザードがいるなんて聞いていなかった。それをたまたまで片付けるのは簡単だけれど、意図的にレインディアが黙っていた、という可能性もあった。
そして、レインディアの態度からして後者である確率は高まった。レインディアの脚に向かって微弱な雷を放ち、動きを止めた上でゼツが拘束する。
「レインディア、何を隠そうとしていた? オレスリザードが中にいるならそう言えばいいだろ?」
「なっ……何のことですかな……」
「悪いけどちょっと前から、俺は裏切るやつには厳しく行くことにしてるんだ。本当のことを言わないなら……仕方ないよな?」
隣にいるレヨンが「ひっ」と小さく声を漏らす。お前はその対象に入ってないから安心してくれ、と声をかけたいが今はレインディアをビビらせるのが先なので声をかけられない。
「大体雷魔法がマッサージ用途ってのがちゃんちゃらおかしいんだよ。あのオレスリザードの分厚い皮膚を貫くんだぞ? 雷に当たったやつを見たことあんのかよ? おい、なんとか言ってみろよ」
俺はレインディアが身につけている金属を取り外し、下着姿にしながら声をかける。だがレインディアは泣きながら「ごめんなさい」と言っているだけで会話が成り立たない。
「ごめんで済むなら憲兵はいらねぇんだよな」
レインディアの両足を掴み、軽く魔法で電気を流す。
ピリピリとしているだろうが、それでもレインディアは悲鳴を上げている。
「ひっ……いいいい! や、やめてくれぇ!」
「なら本当のことを言えよ。今更隠しても仕方ないだろ?」
「そっ……それはお前たちの方だろう! テクノスの名を騙る者たちめ!」
「はっ……どういうことだ?」
「私は本物の『テクノス』に命を救われたことがある! 彼らは男3人に女1人の四人組。貴様らは3人。しかも男は一人。どうみてもテクノスではない!」
レインディアは俺たちのことを、元『テクノス』のメンバーを知っているからこそ疑っていたようだ。
「まぁ……そういうことか。その男のうちの一人が俺、女はこの魔女っ子だよ。見覚えないか?」
レヨンを見ながら尋ねるとレインディアは「あ……あ……」と思い出したように震えながらレヨンを指差す。レヨンは照れくさそうに帽子を目深に被った。
「仕方ないのですよ。私とヨウムさんはあまり前に出ませんでしたから」
「そうだよなぁ……まぁそういうことだ、レインディア。なんで俺たちを騙したのか教えてくれないか?」
「そ……それは……」
俺がもう一度魔法を使おうとすると、レインディアは観念したように「私のせいだ!」と叫んだ。
「……どういうことだ?」
「あのオレスリザードは外から来たのではない。坑道の途中に巣穴があったのだよ。私は工期を急がせるため、十分な調査をせずに工事を進めさせた。その結果オレスリザードの巣にぶちあたり、鉱石の採掘は事実上不可能となっていた。それを……それがバレたくなくて……うっ……」
「俺達はどうせ偽物だから中で食われる。それで証拠隠滅って魂胆だったわけか」
このオッサン、小物すぎない!?
「坑道に入る前にオレスリザードを一匹気絶させただろ? 仮にテクノスじゃないとしても、実力は信用して欲しかったな」
「そっ……それは……申し訳無い……だがテクノスというのは私の中でそれだけ特別な存在だったのだよ。騙るなど許せない、それ程にな」
ただのテクノスのガチファンおじさんだったらしい。なんというかさっきまではふつふつと湧いていた怒りも収まってきてしまった。
「……だが思い出したよ。兄のような二人の影に隠れている二人の顔を。ヨウム殿とレヨン殿……だったかな?」
「すっ……すみません……レインディアさんのことは私達は記憶にないのです……」
レヨンは視線を外すため帽子を目深に被りそう告白する。俺もそうだ。あちこちで人助けをしていたので、個別具体の人の顔を全部覚えていないのだ。
「構いませぬ。それだけ多くの人を助けてこられたということなのでしょう。改めて、私の非礼を謝罪させてください。本当に申し訳なかった」
レインディアというおっさんは俺に足を握られたまま、下着姿で謝罪をする。もはや自分がどうなっているのかも冷静に見られないのだろう。
「あ……あぁ。いいんだよ。これからは俺達ふたっ……三人がテクノスなんだ。そこんとこはよろしくな」
「あ……ありがとうございます!」
「それと……謝罪ついでにもう一つ頼んでもいいか?」
「えっ……ええ!」
「鉱石なんだけどさ、5個くらい持ってってもいいか? 気に入ったやつがあったら、だけど」
「えっ……ええ! 構いませんとも! どうぞどうぞ!」
「ありがとな。じゃ……とりあえずは巣の掃除からだな。レヨン、ゼツ、行くぞ」
「はいなのです!」
「うむ!」
レヨンとゼツと3人で小屋を後にする。
「うぅ……まだまだお仕事がたくさんなのです……」
レヨンは開口一番にそう言う。
「ま、そうだよなぁ。とりあえずは鉱山にいるオレスリザードの巣を叩き、やつら全滅させて安全確保。その後に電気柵の設置。そしてナツナ用の鉱石の採集。はぁ……やることが多すぎるぞ……」
「そういえば鉱石を5つ寄越せというのはナツナのためなのか?」
ゼツが俺に尋ねてくる。
「ん? ま、秘密だよ」
見つける前からこいつらに期待させるのも悪いしな。
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