15
ナツナを屋敷に送り届け、更に進むとマスク鉱山に到着した。
「あれ……なんなのでしょう?」
遠くに見える鉱山の入り口。その手前に人が集まっているのが見える。砂煙がかなり立ち上がっているので詳細はここからではよくわからない。
もう少し近づくと、その人だかりは兵士で、魔物と戦っている様子が見て取れた。
俺たちは慌てて馬車を降り、鉱山の入り口へ向かう。
魔物は四足歩行のトカゲのような形状をしているが、その表皮は石のように黒く硬そうだ。兵士たちが槍で突くも全くの無反応。
「きっ、傷つけるな! その『オレスリザード』は貴重な魔物! 生きて捕獲せよ!」
立派な髭を蓄えた指揮官のような人が叫ぶ。
「しっ……しかし……既に負傷者も出ております。これ以上は……」
「だめだだめだ!」
兵士の提案にも耳を貸さない。この人に絡むのはあまり得策ではない気もするが、仕方ない。俺は指揮官のような人に話しかける。
「あの……お困りですか?」
「ん? 旅の者ですかな?」
「あぁ……はい。ヨウムといいます」
「私はレインディア。この鉱山の責任者だ。あの魔物をどうにかして捕らえたくてな……」
「生け捕り……なんですよね?」
「う、うむ!」
「分かりました」
俺達は早く鉱山の中にいる魔物を倒したい。こんな入り口で手間取っていたら日が暮れてしまう。
そんなわけで俺はオレスリザードに向かって微弱な雷を放つ。肌は石のような素材なので雷属性の魔法は効かなさそうなので、体内まで貫通しそうな目を狙う。
オレスリザードはすぐに沈黙。気を失ったようにその場で倒れた。
「はい。終わりましたよ」
レインディアは目を丸くしてオレスリザードを眺めている。
「へっ!? い、一瞬で!?」
「目を覚ます前に拘束しておいてください。気絶しているだけなので」
「あっ……ありがたい! お強いのですな!」
「まぁ……それなりに。それより、俺達はアイノって人に依頼されてここに来たんです。鉱山の中に出た魔物を退治して採掘を再開させてくれって」
アイノの名前を出すと、レインディアの顔が一段とほころぶ。どうやら知り合いのようだ。
「おぉ! そうでしたか! ちなみにその魔物というのがあやつでしてな。生け捕りにするため明るい場所まで数日かけておびき寄せたのですが、四苦八苦しておったところなのです」
「あ……そ、そうなんですか!?」
じゃあ俺達要らなくない!? と遥か遠くにいる依頼主に言いたくなる。
「ちなみに生け捕りっていうのもアイノさんの指示なんですか?」
「いや、それは採掘権を持っておられるカスタリア公爵の指示で……貴重な魔物なので生け捕りにすると高く売れるから、ということです」
「なるほど……」
ナツナの父親は商魂逞しい人のようだ。
「しかし……近頃ミスラルの発掘が本格化してきたからか、それに引き寄せられるように魔物が増えておりましてな。困ったものですよ……」
「入り口はこの一箇所だけなんですか?」
「あと2箇所ありますが、そちらは封鎖しておるのです」
「なるほど……」
俺はじっと鉱山の入り口を見て考える。俺達がこのまま帰ると発掘がまた止まってしまう恐れもある。
金属製の柵と門。上側には有刺鉄線まで完備されていて十分な防備にも見えるが、魔物の侵入を防ぐという意味では不十分らしい。
現に金属製の柵はオレスリザードに噛みちぎられた箇所もある。
「なら……そうだ! レインディアさん、あの柵に魔法を流してみませんか?」
「魔法を……」
「はい。雷属性の魔法です」
「ハハハ! マッサージをしてもらうつもりはありませんよ!」
これが世間一般の反応なのだろう。もっとビリビリさせてやろうか? あ? と心の中だけで毒づく。
「それよりも、もう少し強いものです。例えるなら……常に燃え続ける火の柵と思ってもらえれば」
「そっ……そんなことが可能なんですか!?」
「えぇ……ですが魔力を継続して供給するためにはミスラルが必要です。少しでも余っていませんか?」
「外にあったものは既に出荷を終えておりましてな……中に行かねばありませぬ」
「なら……俺達で取ってきても? 実は公爵家のナツナ様からも何か贈り物に相応しい鉱石を取ってこいと言われてるんです」
「ナツナ様から……」
俺は懐から、ナツナからもらったパールを取り出して見せる。
「なっ……こ、この大きさは確かにナツナ様の……ヨウム殿、貴公は一体何者なのだ?」
「い……一応テクノスってパーティで冒険者やってます……」
「なっ……て、テクノス!?」
レインディアは目を大きく見開いて後退りをする。
後ろでレヨンは「これこれ、これなのですよ」と言っている。ナツナにスルーされたことをまだ引きずっていたらしい。
「何にせよ私に断る権利はありませぬ。どうぞ、お入りください。丁度これから兵士達が最終確認に行きますのでそれに同行いただければ道にも迷わないでしょうからな」
俺達はレインディアに言われるがまま、坑内の最終確認に向かう兵士たちと一緒に暗闇の中へ潜っていくのだった。




