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「えぇ!? ヨウム様はあのテクノスのメンバーだったのですか!?」


 移動中、ナツナの馬車に乗り込んで雑談をしていたら、ゼツがナツナの声真似をしながらそんなことを言い出した。


 事の発端はナツナがテクノスを知らなかったこと。別に俺はそんなことは微塵も気にしていないのだけど、ゼツに取っては衝撃だったらしい。


「そりゃ冒険者ギルドに所属している人が誰とどんな名前でパーティを組んでるかなんて、関係ない人は興味なくて当然だろ……ゼツだって貴族が何人いて誰の爵位が何で……とか興味無いだろ」


「ふむ……それもそうだな」


「ヨウム様は社交界に興味がお有りですか? よければ私が繋ぎますわよ」


「あぁ……いえ、特には。ありがとうございます」


 一応断りはするけれど、公爵令嬢とコネができたのは大きい。今後、困ったら彼女に相談を持ちかけるのも一つだろう。


「そうですか……ヨウム様! その……私は何もできませんが……何かお礼をさせてくださいませんか?」


「良いんですよ、別に。それに俺は単にレヨンの指示通りに魔法を使っただけです。お礼をするならレヨンにしてください」


「もちろんレヨン様にもお礼を致しますわ。それはそれ、これはこれです。これでも公爵家の端くれ。出来ることはして差し上げたいのです!」


 ナツナは必死の形相でそう言う。とはいえ、そんないきなり「金をよこせ」なんて強盗みたいなことを言うつもりもない。何ならナツナのことを知らなさすぎるので、何を言えばいいかもわからないのだ。


「じゃあ……ナツナのことを教えてくれませんか? 何でもいいよ」


「わっ……わたくしの? ヨウム様はわたくしに興味がおありなのですか?」


 ポッと顔を赤くしてナツナは俯く。


「そっ……そういうことじゃないですって! 単純に知りたいってだけで……」


「まぁ! ではお話しますわね」


 ナツナは嬉しそうにはにかむと「私はゴミなのですわ」と唐突に重たい宣言をした。


 朗らかな雰囲気だった馬車の中の空気が一気に引き締まる。


「私は生まれつき身体が弱く、出産には耐えられないと言われております。つまりどこかに嫁いだところで跡継ぎは産めない。かといって皆様のように魔法や剣が使えるかと言われればそうでもない。公爵家の娘として生まれたのに、私には出来ることが何もないのですわ」


 ナツナはシーツを握りしめながら生い立ちを話してくれる。


 だから周囲の人からゴミ扱いされている、ということらしい。中々にハードな生い立ちで、公爵家に生まれたからすべてが順風満帆とはいかないのだろうと思い知らされる。


 ゼツとレヨンの「地雷を踏んだな」という視線を受ける。


「ま……まぁ……そ、そこまで卑下することはないですよ。俺だってテクノスってパーティを『役立たずだ』って追い出されたんです。だけど今は元気にやってる。ナツナさんにもいつかそういう居場所が見つかりますよ」


「えぇ……私は今それを見つけた気がしますわ」


 ナツナは俺に艶っぽい視線を送ってくる。顔を逸しても粘着力の強い視線はどこまでもついてくるようだ。


「あ……あははは……」


 ナツナはベッドの端に落ちていたパールのネックレスの破片を指で転がしながら、そのパールを愛おしそうに見つめる。意外と大人しめというか暗めの性格をしているようだ。


「これは母の形見だったのですわ」


「そ……それは……すみませんでした……なのです……」


 緊急事態とはいえ、引き千切った張本人のレヨンはしょんぼりとしてしまう。


「あ……いえ! 責め立てようという意図ではありませんわ! むしろ……母が命を救ってくれたと思っているのです」


「あ……そ、そうなのですよ!」


 レヨンも感情の置きどころがわからなくなってしまったようで、とりあえずナツナに共感しておこうとばかりにそう言う。


 パールを転がしていた細い指はその動きを止め、もう一本の指と共同でパールをつまみ上げる。ナツナはそのパールに軽く唇を当てると俺に渡してきた。


「どうぞ。これは差し上げます」


「あ……いいんですか?」


「えぇ。残りは後で集めますが……それは通行証です」


「つっ……通行証?」


「えぇ。カスタリア家の門も、私の部屋の扉もそれで開きますわ」


 女子からニッコリと笑ってここまで言われるとさすがに意識はしてしまう。


 ナツナから顔を右に逸らすとゼツがニヤニヤしながら俺を見てくるし、左を見るとレヨンが頬を膨らませている。


 どっちを向いてもろくな未来はないはずなので諦めて正面のナツナを見る。


「ナツナさん……ありがとうございます」


「お気になさらず。もしお返しを頂けるのであればマスク鉱山で宝石を取ってきていただけませんか?」


「ほっ……宝石……ですか?」


「はい。とびきりの一つを私のために」


「ま……まぁ……探してみますよ」


「ふふっ、楽しみですわね」


 いつの間にかナツナの手は俺の手をギュッと握っていた。


 あ、あれ? 俺、いつの間にかナツナにこんなに気に入られちゃってたの?

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