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「それで、雷属性の魔法というのは一体どういうものなんだ?」


 馬車に揺られること数時間。ゼツは暇になったのか、唐突に口を開いてそんな事を俺に尋ねて来た。


「そのまんまだよ。天気の悪い日にゴロゴロ鳴ってるだろ? あれのよわっちぃ版を出せるって感じだな」


「ふむ……『よわっちぃ』とはどのくらい弱いんだ?」


「肩こりに効く程度だな。まぁ……ほとんどの人は雷を再現出来る程の魔力が足りないんだ」


「ヨウムであれば足りる、という事か。しかしこの前助けてもらった時は雷のような音はしなかったぞ」


「抑え目にしているからな。あれ以上やったらゼツまで黒焦げになっちまうよ」


「試しに少し食らってみたいものだな。抑え目とはいえ、あのギルドの長老たちを一撃で無力化するほどの威力があるのだろう?」


 ゼツはそう言って手を差し出してくる。俺はその手を握り、軽めに魔法を使ってマッサージ程度の電気を流す。


「ふわぁ……まだか? 私は眠いんだ」


「人を眠気覚ましに使うな」


 それにしてもおかしい。控えめとはいえ、ビリビリするくらいには魔力を使っているはずだ。それなのにゼツはピンピンしている。


 意外と丈夫な奴らしい。俺は更に魔力を込めて電気を流す。


 ゼツと目を合わせるが、彼女はまだビリッとも来ていないようで首を横に傾げた。


「む? ヨウム、本気で来ていいぞ」


「そ、それはさすがに……我慢してたりしないよな?」


「我慢? 私が何より嫌いな言葉だな」


「そ、そうなのか……」


 試しにペイブソンを倒した時と同じくらいの電気を流してみるが、それでもゼツはビクともしない。生理的な反応として身体がビクンと反応することすらしないのだ。


 俺がおかしくなってしまったのだろうか。


 通り道に枯れ木が生えていたので俺はそっちに向かって手を伸ばし、同じくらいか少し強めの力で魔法を放つ。


 するとバツン! と轟音が辺りに響き、一瞬だけ俺の手と枯れ木の間に閃光が走り、枯れ木は一瞬で燃え始めた。音に驚いたようで馬車もその場で停止する。


「おっ……おぉ!?」


 これは一体どういう事だ? なんでゼツにだけ――


「はっ、はわわわ! 燃え広がるのです!」


 レヨンは馬車を飛び降りると、俺が燃やした枯れ木に向かって魔法で大量の水をかけて消火する。


 木のすぐそばにまで行って完全に鎮火したことを確認したレヨンが顔を青ざめさせて戻ってきた。


「ヨ、ヨウムさん……そんなに強い魔法が使えたのですか?」


「あ……あははは……」


 しまった。レヨンには目に見えるくらいの強さの魔法は見せたことが無かったのだった。


 レヨンは馬車に再び乗り込むと「出してください」と御者に声をかける。


 馬車が再び動き始めるとレヨンは頬を膨らませて俺の肩を叩いてきた。


「ヨウムさんのバカバカ! 最初からこれを見せてくれていたらテクノスは解散せずに済んだのです! 私もヨウムさんと仲違いをせずに済んだのです!」


「そっ、それはそうだけど……勝手に勘違いしたのはレヨンの方だろうが」


 レヨンはまだ納得できないようで唇を尖らせている。


「ま……まぁまぁ。ヨウムの力がSSSランクに相応しいと分かったのだろう? 良い事ではないか。うん、よしよし。これでわだかまりはなくなったな」


「無くなってねぇよ。こいつはそのきっかけを作ったんだからな」


 俺がそう言うとレヨンはさっきまでの威勢の良さを失い、シュンとして俯く。


 そうなるように仕向けたのは俺だが、さすがに目の前で落ち込まれると俺も悪い気がしてきた。


 現にゼツは俺の方に避難の目を向けてくる。小声で「悪かったよ」と言うとレヨンは下を向いたまま小さく頷いた。


 この気まずい距離感やっぱキツイな!?


「そ、そうだ! ヨウム、なぜ私にはさっきの魔法が効かなかったんだ?」


 ゼツが見かねて助け船を出してくれた。


「なんで……何でだろうな。そういう体質……っていうくらいしか説明はつかないよな」


「ふむ……では良かったのかもしれないな」


「何だが?」


「これまでは周囲への影響を心配して全力を出せなかったのだろう? さっきも私が黒焦げになるかもと心配していたじゃないか。だが私にその心配はない。これからは安心して全力で魔法を打ってくれ!」


「あ……あははは……そうだな……」


 そんなことしたら地面が陥没しちゃうんですけど!?


 だが実際、巻き込んでしまう事を懸念する場面はこれまでに何度も経験したので、いざとなったらゼツごとまとめて魔法で狙っても良いと言うのはやりやすそうだ。


「むぅ……私よりも相性がいい人が現れるとは思わなかったのです……かくなる上は……」


 隣でレヨンが何かごにょごにょと言い始めた。


「レヨン、どうしたんだ?」


「はわっ! な、何でもないのです!」


 レヨンは帽子を目深に被り、また下を向いてしまった。


 俺が歩み寄ろうとするとレヨンが離れていってしまう。別に仲直りがしたい訳じゃないが、普通に話せるようになるにはお互いに時間が必要そうだ。


 外に景色をやると、街道の脇に一台の馬車が止まっていた。


 その馬車から一人の老人が降りてきて叫ぶ。


「ど……どなたか雷属性の魔法を使える方はおりませぬか! どなたか! お嬢様を……助けていただきたい!」


「ここにいるぞ!」


 我慢という言葉を知らないゼツは俺が反応するよりも先にまだ減速もしていない馬車から飛び降りていく。


 俺も慌てて飛び降り、その老人の元へ向かった。

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