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 一時間後、試験のため俺とゼツで中庭に行くと、先客が試験を受けているようだった。


 ギルドの長老であるトンプソンとペイブソンと組手をしているのはゼカとムサビだ。『テクノス』のメンバーの戦いを一目見ようとギャラリーもそれなりに集まっている。こいつら一時間前から戦ってるのか。


 それと、ゼカとムサビは二人の仲間を見つけたようで、実際は試験官が二人に対して四人で戦っている。四人とも息が上がり、かなり辛そうだ。


 それに対する、トンプソンもペイブソンも腕を後ろで組んだまま軽やかに攻撃を避けている。二人共まだまだ余裕そうだ。


「ホッホッ。このままでは試験にならんのう〜」


「トンプソン、真面目にやらんか」


「そういうお主もさっきから片足で突っ立っておるではないか」


「ふっ……そんなものか! 若人よ!」


 トンプソンとペイブソンは軽口を叩きながら尚も四人の攻撃をいなす。


「くっ……はあ……はあ……」


 ゼカは不意に力が抜けてしまったのか剣を地面に落とし、四つん這いになる。息は絶え絶えで汗が滴っている。


「だらしがないのう。それでも元SSS級パーティのメンバーか?」


「む……次が来たか。ゼカがリーダーを務めるパーティは再試験とする。それまではFランクだ」


 ペイブソンは誰の顔も見ないでそう告げる。


「えっ……Fランク!? あのテクノスのメンバーが!? 嘘だろ………」


「意外と大したことねぇんだな。テクノスってよ」


 ギャラリーは言いたい放題。だが、それもトンプソンの手のひらの上なのだろう。


 形だけの試験と言いながらも長老の二人はかなり煽っていたので明らかに懲罰的なものだった。


 Fランクのそしりを受けながら項垂れて中庭を後にするゼカとムサビを見ていると、何とも言えない感情に包まれてくる。


「ヨウム。今は自分のことだけを考えるんだ」


 ゼツが俺の背中をさすりながら声をかけてくれる。


「ああ……うん。ありがとう」


「さて! 次は……おや、また『テクノス』か」


 ペイブソンはそう言いながらも明らかにこれまでとは異なる殺気をまとう。


 それに呼応するように俺の魔力も昂り始めた。


「お……ま、待たんか! ペイブソン! ヨウム! これはあくまで試験じゃぞ。怪我はしないように。くれぐれも『本気』を出すなよ」


 トンプソンが言わんとすることはわかる。さすがにギルドの本部を吹き飛ばすつもりはない。


「出すな、は出せと同義だと思うんだがどうだ? 結局出してしまって『もう〜ダメって言ったじゃん……』と怒られるまでがセットではないか?」


 ゼツは興奮した様子で早口でまくしたてる。


「一体何の話をしてるんだよ……ふざけてる場合じゃないぞ」


「う……うむ! そうだったな!」


 ゼツは顔を引き締めると刀を抜いて構えた。


「ホッホッ。綺麗なねーちゃんじゃのう。ルールは簡単。わしらに攻撃を当てたら合格じゃ。その攻撃の質で等級を判断する。ではスタート……ぐふっ!」


 トンプソンがスタートの合図を出した瞬間、俺は微弱な電流をトンプソンとペイブソンの脚に向かって放つ。


 相手は爺さんだ。万が一があるのでかなり手を抜いたのだがそれでもトンプソンは脚を痙攣させながらその場に崩れ落ちる。


 ペイブソンは俺の魔法を避けると一瞬で真横に移動してきた。


「なっ……速っ……ぐっ!」


 ゼツが割って入ろうと動作をする前にペイブソンの蹴りが俺に向かってきた。


 慌てて左腕を上げて胴体を蹴りから守る。


 ズザザザザ!


 数メートルは動いたが、それでも吹き飛ばされずに脚は地面についたままだ。


 咄嗟に雷魔法を自分の脚に流して吹き飛ばないようにしたので助かった。


「ペイブソン! 本気を出させるな!」


 トンプソンがペイブソンに向かって叫ぶ。俺はまだ本気を出してないのだけど、ペイブソンの殺気に満ちた目を見ていると本能的に力を開放しないとまずいと思わされる。


「私もいるぞ!」


 ゼツが体制を整える前のペイブソンに斬りかかる。


 だが、真剣を相手しているのにペイブソンは最低限の身のこなしでゼツの一刀を避けると、足払いをしてゼツを転かした。


 相当にスネにダメージが入ったようで、ゼツは足を押さえて転がりながら痛みに耐えている。


 俺はもう一度ペイブソンに向かって微弱な雷魔法を放つも、ペイブソンにはそれが見えているように軽やかに避けられてしまった。


「そんなものか!」


 ペイブソンは勝負をつけようと距離を詰めてくる。


「いかん! ペイブソン! 引け!」


 ペイブソンは制止も聞かずに突っ込んでくる。


 いや、遠くから魔法を放っても避けられるんだし、むしろこれはチャンスなんじゃないか?


 ペイブソンは勢いそのままに飛び上がり、一回転しながら足を俺に向かって振り下ろしてきた。


 俺は両手をその脚に向けて伸ばし、ペイブソンの脚と俺の手が接触する直前に力を抑えて魔法を放つ。


「あっ……あひん!」


 ビクン、とペイブソンの体が震え、そのままドサリと地面に崩れ落ちた。


「ペイブソン!」


 トンプソンが地面でピクピクと動いてるペイブソンに向かって走る。


 やりすぎたか。俺も慌ててペイブソンに駆け寄る。


「ら……らめぇ……」


「爺さんのアヘ声ほど気色悪いものは無いな」


 結構な一撃を食らっていたゼツがいつの間にか隣に来てそんなことを言う。


「おい、やめとけ」


 ペイブソンは無事なようなので、ゼツのこれも冗談として成立した。


「ヨウム! お前、本気は出すなとあれほど……」


「ほっ、本気? 出してませんって……」


「なっ……こ、これでか!? お前は本当に……よろしい。お前達のパーティは……名前はまだこれから決めるのか。ともかくヨウム、ゼツ。お前達はSSSランクじゃ!」


 トンプソンが高らかにそう宣言すると会場にどよめきが走る。


 え? SSSランクってそんな軽くないでしょ! 自分達が簡単にやられたのを正当化したいだけなんだろう。そうに違いない。


「やっぱりテクノスなんだよなぁ!」


「さっきのは何かの間違いだったんだろ!」


 観衆の歓声を受けながら俺とゼツはハイタッチをして中庭を出た。


 ◆


 中庭からギルドの集会所に繋がる扉を開けると、すぐそこにゼカとムサビが立っていた。


「な……なぁ! ヨウム! 数合わせでもいい! 俺を入れてくれ!」


 ゼカは開口一番、俺に向かってそう言った。


「私達がFランクなんて何かの間違いなんです! ヨウムさんだけSSSランクなんて……おかしいです!」


 ムサビは単に不公平だと訴えたいらしい。


「じゃあ……ゼカだけ入れればいいのか?」


「わっ……私も頼みます! いいんですか!?」


 ムサビはそう言って手を挙げる。


「良い訳ないだろ」


 俺がそう言うとムサビは絶句する。なぜか隣のゼカは自分だけは入れてもらえると思っているようで、ムサビを横目に見てニヤニヤしている。


「お前もだぞ、ゼカ」


「なっ……その女だって脛を蹴られてのたうち回っていただけじゃねえか!」


 ゼカはゼツを指さしながらそう叫ぶ。


「その言い方だと自分が役立たずだって認めてるようなもんだぞ。なんでそんなやつをパーティに入れないといけないんだよ。役立たずは要らないんだろ? それと、ゼツは俺を守ろうとしてくれた。彼女は役立たずじゃないぞ」


 ゼツの方を見ると、こういう話は好きではないようで苦虫を噛み潰したような表情で俯いていた。


「なぁ、ゼツ。『いれてくれ』っていうのは男に言われるとあまり嬉しいものじゃないな」


「あっ……そ、そうだな!」


「あー……行くか、ゼツ」


 ゼツはまだ空回りしている感じがする。ここにいても仕方ないので俺はゼツの手を握り、二人をほっぽってノイヤーさんが待つ受付に向かうのだった。

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