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『テクノス』という冒険者4人のパーティは史上最強という呼び声が高い。


 テクノスに与えられた『SSSランク』という称号は4人いる冒険者ギルドの長老から全会一致で認められたパーティのみに与えられるもので100年に一度出るかどうかというレベルで貴重な物だ。


 テクノスのメンバーはゼカ、レヨン、ムサビ。そして俺ヨウム・ライディーン。


 冒険者ギルドの本部にあるVIP室。そこは歴代最強と呼ばれるテクノスの実質専用の部屋となっている。


 ある日、何故か俺はリーダーのゼカに呼び出され、VIP室へやってきた。


 部屋にはパーティメンバーの全員が集まっているが、俺の周りのソファには誰も座らずゼカ、レヨン、ムサビの三人が並んで俺と向かい合うように座っている。


「ヨウム、お前には今日でパーティを抜けてもらう」


 ゼカは腰に帯びた剣を一撫ですると意気揚々と宣言する。


「なっ……何の冗談だよ」


「冗談じゃないぞ。本気だ。お前はこれまでどんな貢献をしてきた? いつも周りをウロウロしているだけ。俺達が隙を見て倒すのを待っているだけじゃないか」


「そ、それは誤解だ! 俺だってやるべきことをやっている!」


 そう。俺はやるべきことをやっている。


 俺は雷属性の魔法が使える。特異体質らしく、それ以外の事はてんでダメなのだが。


 だが、雷属性の魔法は精々肩や腰のマッサージに仕える程度という認識が世の中の常識。人にも害をなすほどに規格外な俺の魔力で雷魔法を使うと方々から注目を浴びる事になる。それは悪い意味合いの方が大きい。


 だから、小さい頃から謙虚に生きろと教えられてきた俺は轟音と火花を散らす雷魔法を全力では使ってこなかった。


 いや、実は一度だけ全力で使った事がある。小さい頃、力の制御も未熟だった俺は街中に全力の雷を落とした。


 それは冒険者ギルドの本部があるここ、ワイムの街の旧市街の中央にぽっかりと大きな穴を開け、更に新市街の造成を急がせた。


 それからというもの、俺は力をひた隠して生きてきたわけだ。


 戦闘中は魔物から離れ、目に見えないくらいの微弱な電流を継続して魔物に対して流している。微弱とはいえ魔物には効果絶大で、魔物の筋肉は弛緩しそこに隙が生まれる。


 俺がそうやって隙を作った後に皆が攻撃を叩きこむ、というのが大筋の戦闘スタイルだった。


 だが、そもそも論として俺が電流を流して隙を作っていると誰も気づいていなかったらしい。相応の実力者が揃ったパーティなのにこれは悲しい。


「やるべき事?」


「俺は……俺が隙を作っているんだよ。雷属性の魔法を使ってるんだ」


 パーティメンバーには俺は魔法使いとしか伝えておらず、どんな属性なのかは一切教えていない。それが誤解を生んでしまったようだ。


「はっ、あんなの精々肩こりに効くくらいのもんだろ? それで何が『隙を作っている』だよ。笑わせんな」


「本当だ! 俺は本当は……それなりに強い……」


 多分、めっちゃ強いはず。だけど、それは言うなと小さい頃から教わってきた。あくまで普通でいるべきだと。だからこんな大事な場面でのアピールも控えめになってしまった。


「はっ! それなり? じゃあ尚更ダメだろ。テクノスは最強であるべきだ。『それなりに強い』なんて自負があるやつは足手まといなんだよ。出て行け」


 ゼカは話は終わりとばかりに手で払って部屋から出て行けとジェスチャーをする。


 だがここで引き下がるわけにはいかない。長老は言っていた。『この4人でテクノスじゃ。この4人だからSSSランク昇格を認める』と。


「まっ、待ってくれ! 4人でテクノスじゃないのか? 長老たちだってこのメンバーでやる事を条件にSSSランクパーティだと認定してくれたんだぞ」


 ゼカの右隣に座っているパーティの紅一点レヨンは自身のロリ体系の体の半分はあろうかという大きなとんがり帽子を被り直して真顔で俺の顔をじっと見据える。


「ヨウムさんがその長老たちを買収していたのだとしたらどうなのですか? 本来は私達3人だけがSSSランクに相当する実力者だった。そこから追い出されないようにするためヨウムさんは長老を買収して無理矢理テクノスに居続けように細工をした」


「そっ……そんなの証拠があるのかよ!?」


「あるのですよ。私達をSSSランクパーティと認定した日の4長老の会議の議事録なのです」


 レヨンは鞄から一枚の紙切れを差し出してきた。それは4長老の会議議事録だった。


『xx年xx月xx日 参加者 トンプソン、シャープソン、ペイブソン、ナンプソン』


 参加者は冒険者ギルドの頂点に立つ4人の長老。重要な決定事項は彼ら4人の合議によって決定されている。テクノスのSSSランク昇格もこの会議によって決まったらしい。


『トンプソン:テクノスのSSSランク承認の条件として現在のメンバーからの入れ替えをしない事を提案する』


『ナンプソン:その理由を伺いたい』


『トンプソン:理由は非公開としたい』


『シャープソン:トンプソンに賛成する』


『ベイブソン:トンプソンに賛成する』


『トンプソン:ナンプソンはいかがされる? 特に意見が無ければ多数決としたい』


『ナンプソン:……賛成する』


 トンプソンは孤児だった俺を引き取って育ててくれた恩人だ。これだけ読むとそのトンプソンがメンバーの固定をゴリ押しをしているようにも見える。俺は工作をしていないが、トンプソンが何かをしていたのかもしれない。


「この議事録を見て、私はトンプソン爺に理由を聞きに行ったのです。ですが何も教えてくれなかった。ちらっと出たのはヨウムさんの名前だけです。私達もSSSランクパーティのメンバーではなくなることを覚悟した上で言っているのです。本当の事を教えてください!」


 レヨンは目に涙を浮かべて俺にそう言う。


「俺は……何もしていないよ」


「そう……なのですか……」


 俺がそう言うとレヨンは肩を落として俯く。俺が「長老を買収した」と認める事ありきの詰問だったという事らしい。


 会話が途切れたことを合図にムサビが男の割に長い髪の毛をまとめ直して手を一度叩く。


「では……決まりですね。というか元々この会議の目的はテクノスを解散する事でしたが。私達三人はこれからも仲良くやりますので、ヨウムさんもお元気で」


「ま、新しい奴を仲間に入れてまたすぐにSSSランクに上がる予定だけどな。ほら、出て行ってくれ。これからここで新しいメンバーの面接をするんだよ」


 ゼカはムサビと目を合わせるとニヤニヤしながら俺を扉の方へ追いやる。


「……ヨウムさん……さようなら……」


 レヨンは大きなとんがり帽子を目深に被って表情を隠したまま別れを告げる。


 こうして俺は、SSSランクパーティ『テクノス』を追放されたのだった。

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