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バイバイ、ボクと「キミ」のランドセル

作者: 細川あずみ

 12月のある雨の日、ボクは狭くて暗い所に居た。「暗い」と言っても、目を開けているつもりなのに何も見えないから、もしかしたらボクの目が単純に光を感じていないだけなのかもしれない。

 うっすらとした記憶を辿ると、誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。「捨てて来なさい」だったか、そんな感じだ。ボクは、どこかに体をぶつけたらしい。あちこちが痛む。ここはどこだろう。何だか、紙のようなものを踏んでいるような、そんな感じだ。

 この雨は、いつやむのだろうか。寒くてたまらない。フラフラと歩いていたら小雨が降り出して、雨宿り出来そうな小さな箱、のようなものを見つけて入ったが、もぞもぞと動いていたら蓋が閉まり、真っ暗になってしまった。


 どこからともなく、雨音に交じって足音が近付いてくる。すると突然、ボクが入っている箱らしきものが動いた。そして、ゆっくりと視界が開けた。

 突然、ランドセルから顔を出したボクに驚きつつも、目の前にいた「キミ」は、優しくボクを撫でてくれた。「キミ」の手は、小さくて柔らかくて、何よりあったかだった。

 その小さくて柔らかくて、あったかな手を使って、「キミ」はボクに話しかけた。右手をボクの頭の上に置いたまま、左手の人差し指を立てて、何度か横に振る。心配そうな表情だった。そして次に、両手をグーにして、胸の前でブルブルと震える動きをした。


 その日から、ボクと「キミ」は親友になった。学校であった出来事や、友達なんか要らないってこと、黒いランドセルが嫌いってことも、ボクだけに話してくれた。あの日は、かくれんぼで鬼になり、目を閉じて数を数えている間にランドセルを隠されて、雨の中をずっと探し回っていたらしい。泥んこのランドセルを見つけたと思ったら、中からボクが出て来てかなり驚いたけど、すぐに連れて帰ろうと決めたって、そんな話をしてくれた。


 あれから3年以上の月日が過ぎ、「キミ」がランドセルを卒業する日が近付いて来た。ボクももう、この黒いランドセルには入らないほどに大きくなった。

 あの頃「キミ」は、ボクと話す時だけ、とってもいい顔をしていた。小さな手から、たくさんの言葉を紡ぎ出して、全身で伝えようとしていた。いつも必ず、ボクの目を真っ直ぐに見て話すんだ。ボクは、それがとっても嬉しくて、とっても大切なことを教わった気がする。

 あの頃の「キミ」は、もう居ない。バイバイ。あの日の「キミ」とランドセル。

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