雨予報
(記者)「なぜ1ヶ月もなろうから逃げていたんですか?」
(作者)「えー、はい、音ゲーをしていました、誠に申し訳ございません」
作者立ち上がり一礼、フラッシュ音。
(記者)「今後は毎日投稿はどうなるんですか?」
(作者)「今後も、音ゲーを続けていきますので、よろしくお願いします」
そっちじゃねえよ!と記者団からのヤジ。
-小学2年生
「俺、ルカって言うんだ、よろしく!」
「…女子っぽいね、その名前」
「悪かったな!」
俺は隣の席の女子に話しかけた。よくある『隣の席の人と仲良くしましょう』タイムである。
「私はリム、よろしく…」
「リムか、よろしくな!」
小学生低学年というのは、まだ恋心とかそんなものは知らないレベル。
俺もそのレベルだったため、この『リム』という女になんの気持ちも抱かなかった。
せいぜい、『大人しめなクラスメート』ってイメージだけだ。
-小学3年生
「え…ルカ?、また同じクラス?」
「なんだ?、嫌だった?」
「別にそんな訳じゃないけど…、2年連続なんてあるんだなって思ってさ」
この1年間で、リムとはよく話したりしていた。
好きな本の話だったり、アニメの話だったり、それに住んでるところの愚痴だったり、家が近かったことも知ったので、最近はリムが俺の家に遊びに来たりもしている。
「まあ、今年もよろしくな!、リム!」
「あ…うん」
-小学4年生
俺はクラス表を見て落ち込む。
(リム…いないんだ)
低学年のレベルを卒業した俺は、すでに彼女に対する恋心というものを自覚していた。
この1年間、特に夏休みが終わってから、どれだけ彼女の事をチラ見し続けたか。
それだけに、リムと一緒にいられる時間が減ることは悲しくなってしまった。それでも、家で遊ぶ時間は減らなかった。
-中学1年生
「リム、同じクラスで良かったな!」
「…そうだね」
結局、小学校で同じクラスになる事は叶わなかった。小6の時のクラス発表を見て、どれだけ悲しんだことか。
「それで、ルカは中学校の目標、なんかあるの?」
「んー、友達100人はもちろんだろ?」
「何それ、出来るわけないじゃん…」
「人の夢を否定すんなよ!、あと、彼女が欲しい」
「ふーん、そう、頑張ってね」
お前の事だけどな、と言いたくなる。
「そういうリムも、なんか目標あるのか?」
「んー、勉強頑張るってのと、あと、彼氏願望も一応はあるかな」
「はあっ!?」
勉強頑張るってのはまあ分かるけど、そのあと。
彼氏が欲しいだって?
はあっ!?
「なんでそんなに驚くの…?、一応、私だって女だからね?」
「いや、そんな気持ちあるんだって思ってさ…」
「バカにしてるの?」
「してないから!、あとマジになるなって!」
可愛いだろうが!
しかし、こう仲良く話せたのも1学期の事だけで、2学期になると急にツンデレに派生してきた。
学校では話さないで欲しいと言いながら、俺の家では自分から話しかけにきているし。なんだそれと言いたくなった。
-中学2年生
「リム、また同じクラスだな、よろしく」
「うん…よろしく」
この頃からリムは周囲と壁を作るようになっていた。俺もその壁の外側だった人間である。
「なあ、リムってなんで俺の事嫌ってるんだろうな…?」
「一宮さんのこと?、さあ?、でも家では話しかけてくれるんだろ?、思春期じゃん?」
「そうだよな…まさか、男が出来た訳じゃないよな?」
「知らねえよ、本人に聞けよ」
「頼む足立!、それとなく聞いてくれないか?」
「一宮さんの事は自分で何とかしろよ、告白も俺に任せてくるだろ、そのうち」
そう足立に言われてしまうと、ぐうの音も出ない。確かにリムに恋愛関連の話をしないように心がけている俺は、周囲からしたらチキンなのだろう。
-中学3年生
「リム、今年もよろ…」
スルーされた。
「ルカ、お前嫌われちゃったんじゃないのか?」
「何でだよ…去年から家にも遊びに来なくなったし」
「そりゃそうだろ、2年生の時から壁作ってたじゃねえか、忘れたのかよ」
「何もしてないのに嫌われるってなんだよ!」
「知らねえよ!、あとうるせえよ!」
「頼む、笹山さんの好みのタイプ聞いてくる代わりにリムの好きなタイプ聞いてきてくれ!」
「一宮さんは氷の女王なんだからハードル高すぎるだろ!」
ちなみに笹山さんとは足立が気になっている女子のことだが、彼女のタイプを持ってきてもダメなのか。
「聞いてみればいいじゃねえか、一宮さんに」
「真実を知りたくないんだよ!」
-中学3年生、3月10日
ついに卒業式の日がやってきてしまった。
今日は朝からそわそわしてしまっているが、これは中学校を卒業するからではない。
一宮莉夢に告白するためだ。
なぜチキン野郎の俺がそんな決意をしたのかと言うと、3日前。
『お前、いつまで一宮さんと幼なじみのままでいようとしてるんだよ』
『は?』
『俺が笹山さんと付き合えたのはお前が後押ししてくれたからだろ!、卒業式の日に一宮さんに告白しに行け!』
『はあ!?』
足立の後押しからでした。うん、俺ってやっぱチキンですね。はい。
いや、足立は決して話のネタにしようとは思っていない。俺の恋を全力で応援してくれているんだ。
ならそれに応えなければ。スマホを開いて、メールを開き、
『卒業式が終わったら、体育館裏に来て欲しい』
と莉夢に送信した。
『これでもう逃げれないな』
『ああ、結果がどうであれ、頑張るよ』
結論から言わせてもらうと。
ドタキャンされました。
茂みの裏に隠れて様子を見守るはずだった足立が出てきて、『もう終わりだ』とスマホ画面を見せつけられ、7時という表示が見えた時に、俺は思わず涙が出てきた。
それから、足立と、彼女の笹山さんと3人でご飯を食べに行った。莉夢とは高校は別。この初恋は終わりを迎えた。
「どうしたんだ?、そんな魂が抜けた顔して」
その言葉に、俺は現実に引き戻される。
「足立…、ちょっと考え事してた」
「なんだよそれ、詳しく聞かせろ」
「私も聞きたいな、いい?」
足立、さらには笹山さんまで俺の考え事が何か聞いてきた。俺は正直に答える。
「いや、卒業式の事考えてた」
「卒業式って…ああ、一宮さんか」
「まだ引きずっちゃってるんだ…、そりゃそうだよね、初恋だったんだし」
口々に言う。こういうおせっかいな所は似ているな、2人とも。
「分かったならさっさと席に戻った方がいいぞ、授業始まるし」
「はいはい、分かりましたよ」
「どうせ席近いのに…ケチだなあ、瑠夏くんも」
ケチなのは中学卒業後からだよ、と言ってやりたい、言わないけど。
「席につけー、授業始めるぞ」
足立と笹山さんが席についてすぐ、先生がクラスの中に入ってくる。
「授業前に少し注意だ、最近は暑くなってきて熱中症にかかる人が増えてきてるそうだから、途中で水分補給の時間を設けるからな…」
そんな先生の話を他所に窓の外を見る。
今日は快晴。でも、俺の心はしばらく雨予報だった。
学校が終わり、いの一番に帰宅する。
これでも毎日ランニング、筋トレを行っているのでスピードを落とさず帰宅することが出来る。
学校を出たのが4時、家に着いたのは4時5分だった。うん、今日は自己ベスト更新だな。
虚しくなって、スマホを開く。昨日詰められなかった音ゲーを詰めようかなと思ったところで、
『ピンポーン』
と音がした。
来客だろうか?、そう思ってドアを開けると。
「よっ、一宮さんじゃなくて残念だな」
「もう用事は済んだか?、じゃあな」
「いや待て待て待て!」
足立だった。莉夢だったら良かった。
「お前、国語のハゲ教師からプリント貰うの忘れてただろ」
「あ、そうだった」
「おかげで俺が持って行かされたんだよ、お前帰るの早すぎて走ったんだからな」
「すまん、ありがと」
「あとさ、瑠夏への嫌がらせとして私も呼ばれたの」
「すまん…本当にってええええええええ!!!!」
足立の隣に女子がいた。
その女子は笹山さんではなく、一宮莉夢というのだった。
「え、なんで?、え?」
「お前さ…俺に家の場所教えた事ないだろ、それで察しろ」
「は?、それどういう…あ」
つまり足立はプリント渡すために莉夢に連絡して、案内してもらったってことか?
いやいやいや。
なんで足立が連絡先持ってるんだよ、氷の女王ってなんだよ。
「一宮さん、ありがとな」
「ううん、私も瑠夏に用事あったし」
「は?、用事?」
「じゃあ俺は帰るよ、瑠夏、頑張れよ」
頑張れと言われても何を頑張るのだろうか。その場に俺と莉夢の2人が残された。
「…とりあえず、中入るか?、暑いし」
先生も言ってたように、熱中症になりかねない。お茶くらい出してあげようと思ったのだが、彼女は、
「いいよ」
と答えた。ツンデレは未だこじらせたままっぽいな。
「そんな事言うなって、俺に用事があったんでしょ?、ならもてなすのは当然じゃないか?」
実際は好きな人を外に放置するのはどうかという心からだけど。
未練はすごくあるからね。今でも好きなのは変わってないし。
「じゃあ…分かった」
俺を説得するのは無理だと判断したのか、はたまたツンデレなのか(後者が有力)、莉夢は家の中に入ってくれた。
「じゃあ好きなところに座っといて」
莉夢をリビングに座らせ、俺はお茶を用意した。
「はい、お茶」
「ありがと、ん…、めっちゃ美味しい」
おっと、今日初めて笑みを見せてくれた。可愛い。
「それで、用事ってなんだ?」
「あ…用事って言うか聞きたいことなんだけど」
「何?」
「そ、卒業式の時、何を伝えたかったのかなって…」
俺の思考、停止中。
再起動。
「いや、別に、世間話」
「世間話って…、そんな体育館裏に呼び出してまで言うことじゃないじゃん!」
「本当に、世間話です、はい」
「へえ…じゃあ何を話そうと私を呼び出したの?」
「告白しようと思ってたんだよ!」
ついに尋問に耐えきれなくなって、折れた。
「莉夢に告白しようって覚悟決めてあのメール送ったのに…なんで来てくれなかったんだよ!」
「…卒業式が終わってからHRの時間があったよね?、私、あの時いなかったの覚えてる?」
「…え?」
「お母さんが倒れたって、連絡が来たんだ、卒業式が終わってすぐ。だからすぐに病院に行ったの」
「嘘だろ…?」
「先生にも言わないでってお願いしたの、クラスの人に心配掛けたくなかったから」
「だから気づけなかったのか…」
いや、席は空いてただろ。気づけよ俺のバカ。
つまり、莉夢は行かなかったでも行きたくなかったでもなく、『行けなかった』のだ。
結局は俺の勘違い…。
「ごめんな、莉夢」
「え?」
「そんな理由があったのに、ドタキャンされたって思って」
「本当だよ、そのせいで連絡先も消されちゃうし」
「気まずかったんだよ、振られちゃったって思ったし」
「まあね、私も行けないって連絡すれば良かったんだし、ごめん…、それで」
「それで?」
「告白、しないのかな…?」
「…え?」
「いや…告白するために呼び出したんでしょ、もしかしてもう告白する気失せちゃった?」
「いや…ダサすぎて涙が出てくるよ」
「それもルカらしいよ」
「どういう意味だよ!、はあ…、リム」
「なに?」
「俺と付き合って欲しい」
「もう彼氏いるっていったらどうする?」
「お前何なんだよ!」
「嘘!、付き合う付き合う!、ごめんからかっただけだってばー!、え?、なんで笑い抑えてるの?、もしかして嘘告なの?、ねえ!」
「違う違う、面白かっただけ」
「はあ…、じゃあルカ、勉強しよっか?」
「え?、何でだよ?」
「一緒の大学、受かってもらうんだから」
相変わらず窓の外は快晴だけど、俺の心は晴れそうにない。
『今週の土曜日、デートしない?』17:32既読
『いいよ』17:33
きたあああああああああああああ!!!!!
俺の青春きたああああああああああああああ!!!!!
-土曜日
「はい、この問題間違ってる」
「あの、リムさん、おうちデートってこういうものなんですか…?」
「こういうもの」
「はい…すみませんでした」
彼女のツンデレは早いとこ治さないといけない。