極悪人と聴く除夜の鐘は
なろうラジオ大賞、応募作品ですので短くなっております。
助手のリリィは下からロイ様を見上げた。外では雪が降り、風も吹いていて、薪を焼べていても少し肌寒い。
「少し、休みませんか?」
彼の書類がひと段落すると同時にコーヒーの誘いをかけてみる。普段だと効果がないことは当たり前なのだが…
「そうだな。いただこうか。」
今日はなんだかそう言う気分らしくロイ様はペンを置きキシキシと悲鳴をあげる古い背にもたれかかった。
「お前も、ここに来て二年か。早いな。」
誘いを受けることは珍しいと思いましたが、そういえば今日は大晦日でしたね。元文官のロイ様はこういう時期に一年を振り返ることが当たり前になっているのでしょう。
「そうですね。ここに来てからは時間が瞬きの間に過ぎ去ってしまいます。」
もう入ったコーヒーを二人分流れつつ私はここに来た時のことを思い出します。
貴族家を追い出され、森に迷ったら人が住んでいたこと、しかもそれが極悪と言われていた犯罪者だったなんて多分誰も信じないでしょうね。
しかも犯罪者だと思ってたら、実際は情報を渡したらそういうことにされた間抜けな文官だったなんて。
この事実は誰も知らない秘密。
…まあ、言う人もここにはいないわけですが。
いや、よく遊びに来てくれるリスさん達には言えるかな?
「こちらも面白い一年だったよ。あのピーピーないてた小娘が優秀な助手なんてな。」
「言わないでください。」
盛り返されると恥ずかしい過去なのですから。
「だが、これはある意味良かったんじゃないか?泣いてなかったら森に遊びに来た人だと思ってスルーしたぞ?」
「そんな危篤な人などいないと思いますが。」
それが事実ならかなり頭が変な人ですね。
呆れているのに口から出たのは小さな笑い声でした。
「そう言うがお前も似たような感じだろう?」
ロイ様も軽く笑いながら言います。
私は家を追い出され森に迷ったんです。一緒にしないでください。
「頑固なリリィだから考えてることは分かるが…同じだぞ?」
「違います。」
しばらく同じだ、同じじゃないという言い争いをしていたが、その言い合いを止めたのは鐘の音だった。
「除夜の鐘か。」
ロイ様と二人で黙りこみ百八回の鐘を静かに聞いていた。
ゴーンゴーン
外では雪がいつの間にかしとしとと降っていた。鐘が鳴り終わる。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね。」
「ああ。今年もよろしく頼む。」
冷めてきたコーヒーを二人で飲む。
冷たいのに何故か体が暖かくなった。
たくさんのなろうの作品から、この話を見つけ、読んでくださりありがとうございました!