第二章 吉田 優子
今日もいつも通りの一日が始まった
吉田 優子 25歳 派遣アルバイト
アパレル関係の派遣会社で
週6日ほど働いている
唯一の休みは
トイレと食事以外のほとんどを
ベッドの中で過ごす
このご時世便利なもので
携帯電話というハイテク機が
1台あればベッドの中で
買物も宅配も指1本でできる
もちろん支払いだって
分からないことは
検索すれば直ぐに答えが見つかるし
暇を潰したければゲームし放題
誰かに聞いてもらいたいことがあるなら
ネットに書き込めば全世界が聞いてくれる
リアルな人肌の温もりというものを
随分感じていないわけだが
夜になると寂しいなどと言いつつ
そんな気楽気ままな生活パターンも
1年が経とうとしていた
地元の調理専門学校を卒業し
保育所で給食を作っていたが
何かしっくりしないまま
悶々とする日々を変えたくて
わずかな貯金と漠然とした都会への憧れだけで
大阪での一人暮らしを始めた
多種多様なバイトを転々とし
結局のところ
仕事情報サイトで高時給
交通費全額支給
髪型自由という絞り込み検索で
ヒットした会社にいくつか応募した結果
現在の派遣会社に身を寄せている
派遣といっても
WAVEという服屋の常勤で働き始めて1年が経つ
社員にならないかという話をもらっているが
あまり乗り気ではないし
そろそろ他の仕事でもしようかと考えている
なぜって
悶々とした日々を変えたくて
大阪に出てきたものの
色々な仕事をしても
その違和感は全く拭えないままでいる
そんな中
ばあちゃんの最後の言葉がさらに絡まって
今朝は変な夢まで見るのだから
悶々を通り越してただただ気怠い
テレビのニュース番組を流しながら
ソファでグダグタと歯磨きすること10分
昨夜準備しておいた服に着替え
メイク10分
髪のセット10分
無糖ヨーグルトに
薄くスライスしたリンゴ半玉と
蜂蜜をかけた朝食を摂ること10分
何の返答もない六畳の小さな部屋に
「行ってきます!」
と気合いを込めて出るのが
朝のルーティーンだ
「いらっしゃいませ。
どうぞごゆっくりご覧くださいませー」
服屋の店員はなぜ
あの様な声を出すのだろうか?
疑問に思っていたはずの自分も
今ではすっかり同じように挨拶をしている
お客様の不快にならない声を出しなさい
少し鼻にかけて高めの声で上品に
と言われてしまっては
もうコレ以外に辿りつける気がしない
むしろ
通りすがる人にまでモノマネされそうなほど
間違った方向に極まりつつある
私のいらっしゃいませは
雑音に上手く溶け込むBGMではなく
耳について仕方ないかもしれない
私の心の隅には
アパレルの仕事に憧れる連中を
バカにしている私が居る
特にやりたい仕事ではないし
仕事情報サイトの
絞込み検索でヒットしただけで
生活の為でしかない
正直
服に対してのこだわりもない
トレンドがどうした?
流行りに乗らないと置いていかれる?
服屋で働いてるなんて
ただのミーハーじゃないか
流行ってるものが可愛いと思えてしまう
脳みそ停止状態の自分がない奴ばかりじゃないか
アパレルの仕事をしているけれど
自分は他と違うなど、とてもじゃないけど
言葉にできそうにないので
自分でも忘れてしまうくらい
心の隅のさらに隅っこにしまってある
そこら辺の反発が
ヘンテコないらっしゃいませとなって
出ているのかもしれない
そんな私だが
仕事を転々としていくうちに
気づいたことがある
どうやら私は
喋りかけやすいキャラクターのようで
WAVEでもお客さんや同僚とも
1人を除いては仲良く仕事をしている
そう
1人を除いては