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出会い*1

 ···出会ったばかりの素性の知れない人に話す内容では無いんじゃないかな···?

 と思いつつも、薬草を採りに来た離宮近くの森で偶然出会った『第四王子様』の話を有り難く拝聴する。


 話を聞く限りは小さな頃から苦労をしてきたみたいだけど、話している時の態度や口調はそんな経験を感じさせないほど落ち着いていて···

 どこか他人事のように話す姿から、これも彼なりの身の守り方なのかもしれないと、少しばかり胸が痛んだ。



────────

──────

────



 身の上話を一通りした彼は、どうやら我に返ったようで、どことなく恥ずかしそうな様子でこちらを伺うように見ている。



「こんな事、初めて会った人に話すことじゃないのは分かっているんです。あまり人と話していなかったから、何を話していいのか混乱してしまって···すみません···」

 


 ─どうしてこんな事になったんだろう···


 「ここで何をしているの?」という簡単な質問に、気が付いたら自分の生い立ちから、今の立場についてまで正直に話してしまっていた。


 人とこんなに長い会話をするのが久し振りだったからか、随分と緊張していたみたいだ。

 やっと少しずつ物事を考えられるようになってきたけれど、話を終わらせるまで相手の反応を見る事すら忘れていた事を思い出し、余計に恥ずかしくなる。




僕は数時間前の出来事を思い返していた。



 

────────

──────

────



 自分達のお喋りに夢中なメイド達や、どこか眠そうな顔でおなざりに周囲の警戒をする兵達を横目に見ながら、日課になっている離宮近くの森に出掛ける。



 最初は僕の醜い姿に動揺し、体に触れる事に嫌悪感があったみたいだけど、意外と普通の人間だということに気が付いてからはそれも無くなって、段々と身の回りの世話をしてくれるようになった。

 

 ただ、正妃様の命令なのか離宮(こんな所)に寄越される人達だからか、必要最低限の会話や世話をする程度で僕に積極的に関わろうとはしなかった。

 ···一度だけ、ちょっとした世間話をするようになったメイドがいたけど、いつの間にか居なくなっていた。

 そこからは僕も必要以上に彼等に関わろうとはしなくなった。



 僕の生活のパターンは大体決まっていて、離宮にある書庫(蔵書数はそこまで多くないが、ごく希に新しい本が追加されたりする)で本を読むか、文字や歴史、計算の勉強をするか、自室で昼寝をするか、庭の散歩をするぐらいだ。


 離宮から王宮に向かう道には兵達がいて、あまり近付いて欲しくなさそうな雰囲気を出している。僕も用事がないからあまり近付かないようにしている。


 その代わりなのか、王宮の反対側に位置する森付近の警備は薄い。見張りもあって無いようなものだ。時間さえきちんと見ていれば、兵士に会うこともない。



 僕が森に行く事にしたのは、この身体をなんとかする為に運動をしようと思ったからで、今の所効果は特に無いようだ。

 大きな身体をポテポテと揺らしながらゆっくりと森に向かう。


きっと離宮の人たちは、僕が森に行っている事に気がついているのだろう。

 しかし、王宮に行かず大人しくしていれば問題ないと判断されているに違いない。

 あるいは、報告が面倒で放置しているだけなのかもしれないけれど。


 どんな理由にしても、束の間の自由を楽しむことにしよう。



────────

──────

────



 ─陽の光が柔らかく差し込み、少し遠くの方から鳥の声が聞こえ─

 ─気まぐれに吹く風も心地良く、木々もその身体をゆっくりと揺らしている─

 ─中央の泉からは滾々と水が溢れ、その水に光が反射し輝いている─

 ─魔物の気配も無く、小動物が姿を見せる─

 ─鬱蒼とした森からは想像がつかない、穏やかな空間─



 ─聖域─なのかもしれないと、来る度に考える。

 ここは一段と空気が澄んでいるような気がして、ゆっくりと深呼吸をした。



 この場所を見つけたのは偶然の産物で、何度も足を運んでいるけれども正確な道順は分からない。

 ここに行きたいと思いながら歩いていると自然と到着している、というなんとも不思議な場所だ。


 歩き疲れて少し熱を持つ足を泉に浸しながら、暫し休憩する。少しずつ体力が付いてきているのか、最初の頃よりも疲れにくくなっている。

 自分の身体の変化を、成長しているという事を、少しでも実感出来ていることがたまらなく嬉しい。


 

 泉の水を飲みにやってきた動物達を見ながら、今日はここからもう少し先に行ってみようかな、それともここで身体を動かそうかな、とのんびりと考えていると、後ろの茂みの方から物音が聞こえてくる。


 いつもやってくる動物たちとは違う音に、僕は何時でも逃げ出せるように慌ててブーツを履く。

 この身体では絶対に逃げられないだろうと、無駄な抵抗だと頭の中で分かっているけど

「だからといって簡単に食べられるのは嫌だからね」

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