第三幕 帰路
「そっか~、でも朔那も気を付けた方がいいよ?」
「気を付ける?」
「うん。その神隠し?最近頻繁に起こってるみたいだから・・・確か同じ学年の子が四人神隠しに遭ったって聞いたよ」
朔那が住む町は住民だってそれほど多くはない。覚えようと思えば住民全員の顔だって覚えられるだろう。そんな小さな町から四人も行方知れずとなれば警察が動いても可笑しくはない。だが、そんな噂は今のところ朔那の耳には届いてはいなかった。
「警察は?捜索してくれてるんでしょう?」
「ううん、警察沙汰にはしたくないみたいだよ」
「なにそれ、自分の家族の行方が分からなくなってるのに警察に相談しないとか意味わからない」
家族の行方が分からないというのなら、警察に相談し捜索願いを出せばいい。
確かに自然に囲まれた町ではあるが森だってそう深くはないのだから手分けして探せば見つかりそうなものである。
「んー?そうだよね。でも、ここだけの話。何か昔からちょくちょく起こってるみたいなんだよね、神隠し。昔は警察官も捜査に協力的だったみたいなんだけど、手がかりも何もないから結局、行方不明になった人を見つけ出せなくて、それが何度も続くうちに村人の妄言ってことで捜査が終了したらしいの。だから、警察には頼りたくないんじゃない。よく分かんないけど。まぁ、私が言いたいのはね帰り道はお互いに気を付けようねってこと!な~んか消えてる子って女の子ばっかりみたいだしさ。怖いじゃん。私の親友がいなくなられたら困るもんね」
少し不安そうに口を尖らせる愛結に笑みがこぼれる。
少々騒がしい親友は祖母が亡くなってから一人で暮らす朔那を何かと気にかけてくれる。普段は恥ずかしくて中々言えないが、今日はその言葉がすんなりと口に出た。
「ありがとう。私なら大丈夫」
残りのアイスを平らげ、その日はお開きとなった。
愛結と別れた後、朔那は人通りの多い表通りを通って帰路に着いていた。
普段は裏道から帰るのだが、あんな話を聞かされた後では多少なりとも用心はするものである。
信じないと言ったにも関わらず警戒している自分に自然と苦笑が漏れる。
そんな中、ブブっと機械的な音が制服のスカートから振動と共に鳴る。
スカートのポケットからスマホを取り出し画面を確認すると、先ほど分かれた愛結から通話アプリでメッセージが届いていた。
“今日は楽しかったー(^^)♡
また食べに行こうね!
家着いたら連絡頂戴ね!!”
「了解っと、・・・・・・」
短文で言葉を返し、家を目指して再び歩みを進めた。