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第二幕 神隠し


「ん~、この餡蜜最高」


目の前の席に座る少女は、頬一杯に餡蜜や白玉を頬張って幸せそうに笑う。そんな少女、もとい三歳愛結(みとせあゆ)に朔那は静かにおしぼりを差し出した。


「え?」


首を傾げる愛結に自分の右頬に指をあて、餡蜜と言うと慌てておしぼりを受け取り、頬についた餡蜜を拭う姿に自然と笑みが浮かんだ。


「朔那食べないの?」


愛結にそう言われ、目の前に置かれている抹茶アイスに目を向ける。先ほど運ばれてきた抹茶アイスには黒蜜がかかっており、その上に白玉で作られた白兎が乗っている。食べたいのだが、こんな可愛いものを食べてもいいのだろうかと悩んでしまい食べるに食べられないのである。


「なんか・・・・ウサギが可愛くて食べたくない・・・」


白玉で出来た兎をスプーンでよけ黒蜜のかかった抹茶アイスを口に運ぶ。


「まぁ、確かにその気持ち分からなくはないけど・・・」


そう言った側から朔那のよけた白玉の兎を口に運んでいく愛結に避難の目を送る。


「でも、食べない方がもったいないわ」


そう言って頬を動かす愛結に呆れたため息を吐き、木窓の外へと視線を向けた。

目線の先には、見慣れた暖簾(のれん)が風に煽られていた。赤い生地に黒い文字で甘味所と書かれた暖簾はこの店のシンボルと言っても過言ではない。朔那達が好んで足を運んでいるここは町一番の活気がある商店街の裏路地にあるにもかかわらず、嘘のように静かなのだ。この静かさが心地よく感じ、学校帰りに立ち寄り何をするわけでもなく時間を潰す。それが気付いたら日課になっていた。事実、今日も何の目的もなくこの場所に足を向けているのだ。


「ねぇ、朔那・・・神隠しって信じる?」


ふいに言葉を口ずさんだ愛結に、窓へと向けていた視線を向ける。


「信じる、信じない?」


いきなりの突拍子もない問いに少し思いを巡らせ、ややたってから口を開く。


「・・・信じないかな」


誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるように朔那は言った。朔那が住む町には古い習慣や掟があり、何かと良くないことが起これば村に住む者達が物の怪の仕業だの祟りだのと口を揃えては囃し立てた。小さな町だ。噂が町に広がるのにさして時間はかからないし、根の葉もない噂に尾びれをつけ騒ぎ立てるのも日常茶飯事だ。都市から離れた田舎町だからと言えば仕方が無いのかも知れないが。


「信じないの~?」


残りのアイスを口に含みながら愛結を見つめる。


「・・・まぁ、興味ないから」


そもそも、都合のいい解釈をし過ぎなのだ。不幸があれば神の祟りと言いふらす前に、自分の不注意だったと思うべきだろう。神隠しにしろ、神隠しに遭ったと考えるより事故にあったと考えるのが普通だ。朔那から見たらこの町の者達は異質だった。あまりにも神に執着しすぎている気がしてならない。


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