第一幕 微睡
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「お・・・・・・てよ・・・・・・起きて・・・・・・」
(誰?)
聞きなれた声が耳をくすぐる。まだ眠い。まだこの心地よい微睡まどろみの淵ふちから抜け出したくない。
「くな!・・・・・・さくな!!」
「ん・・・・・・」
うっすらとまだ重い瞼を開け、目の前にいる少女を見上げる。
「・・・・・・・愛結?」
まだ完全に開き切っていない瞳に映るのは幼馴染であり、親友の三歳愛結だ。
「こんな所で寝たら風邪ひくよ?」
こんな所とはどう言う所だと思い辺りを見渡す。そこは見慣れた教室だった。だがその教室には自分と愛結以外の生徒の姿は見えない。確か自分は愛結の急に入った委員会の終わりを待っていて・・・・いつの間にか睡魔に襲われ眠ってしまった事を思い出す。他の生徒はその間に帰ってしまったのだろう。
「待ちくたびれて寝ちゃったんでしょう?委員会ながびいちゃったし」
そういいながら鞄に荷物を詰め込んでいく愛結を視線で追う。しんと静まりかえっていた教室に微かに物と物の擦れる音が響く。その音を聞きながら、そういえばあの夢でも不思議な音が鳴っていたなと朔那は思った。いつも必ずといっていいほど頻繁に見る夢が朔那にはあった。だがその内容はおぼろげで朔那自身、曖昧過ぎてほとんど覚えてはいない。それでも、少しは覚えていることもあった。と言ってもほんの断片的なものなのだが。
(あの男の人は誰だろう)
ふと夢に現れる男性の事を思い出す。綺麗な女性を愛おしそうに抱きしめている彼はあの女性の恋人なのだろうか。いろんな思考を巡めぐらせていたが、次第に頭が割れるような痛みに襲われ、考えることを止めた。いつも夢の中の彼の事を考えると酷い頭痛に襲われるのだ。小さく息を吐き、机の横にかけてあった鞄を手に扉に向かう。日はすっかり傾き、窓から見える外には血を浴びたかのような真っ赤な空が広がっていた。
『夕暮れはね・・・・・・人の心を見透かすのよ』
ふと、幼い頃、母に言われた言葉を思い出した。昔から身体が弱く入退院を繰り返していた母は、いつも病院の窓から外を眺めていた。娘の前では気丈に振るまう人だったが、身体が病に侵されていることは蒼白の顔を見れば自と知れた。娘の前ではと、最後まで笑顔を絶やさなかった母が亡くなったのもこんな夕暮れ時だった。母が亡くなり、身寄りの無かった朔那を引き取ってくれた叔母も、去年の暮れに亡くなっている。別に、夕暮れ時が嫌いなわけではない。ただ、夕暮れを見ていると、喪失感がこみ上げて落ち着かないのだ。
「どうかしたの?」
ふとかけられた声に振り向けば、そこには支度を終えた愛結が教室の入り口にもたれかかるように立っていた。そんな愛結に何でもないと言うかのように首を横に振る。
「そう?なら行こう!」
そう言って先を歩く愛結に続いて朔那は校舎を後にした。