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購乳

 カリンと奴隷を選びにマダム・ジャンゴの店(静かなるオカマ)に来たよ。早々におひとりご退場頂いた。ハルクリフトさんの名前を聞くことは二度と無いだろう。

 まあ彼は完全にアウトだったけどその他の奴隷は、マダムの奴隷伯楽っぷりが発揮されていて、全員長所短所があって甲乙つけがたい。人材選ぶのって大変なんだな。


 本当に絞り込めるのか不安になったけど、その後話していく内に色んなことが分かって判断材料が揃ってきた。


「アルガロさん、今回はご縁が無かったということで」


「む、そうか。残念だ」


 アルガロさんは半年から一年の短期間での奴隷解放を望んでいたからだ。僕は数年スパンで契約するつもりだったので、完全にミスマッチになってしまった。これは申し訳無い。


「いえ、僕の方で条件を絞り込めていなかったのが原因です。お気になさらず。申し訳ありません」


「いや、こっちこそ質問に答えるのは新鮮で意外と楽しかった。どこかで会ったらよろしく頼む」


「その時は奢りますよ」


 アルガロさんは話してみると気さくな人柄で、子供に好かれそうな性格だった。これが戦場じゃバーサーカーになるっていうんだから分からないものだなぁ。うーん、残念。良い人材だったのに。


 その後、三人に絞られた。で、また話していくうちに一人除外することになった。


「シャズスさん、申し訳ありません」


「えーっ! なんでよー、わたし選ばれると思ったのにーっ!」


 ぶーぶー、と不平を垂れる。そういうとこだよ。


 シャズスさんは正直、かなり人材として魅力的だった。明るくハキハキとした性格、冒険者としての実績、子供好き。身体も小さく衣食住のコストもかからない。

 

「バカ! おたんこなす!」


 キーキー声で叫ぶ。


 でもこの口の悪さと悪い意味での素直さがネックだった。たぶん根は悪い人じゃないんだろうけど。何でも思ったことを口にしてしまう。子供が真似したら困るし、仕事にいちいち文句言われたらやりづらい。職場の雰囲気が悪くなる。


「G級冒険者の奴隷なんて中々いないんだぞ! 後悔するぞ!」


 そうなんだろうなあ。


 転職市場で実績のある人は貴重だ。でも集団行動する上で他人に配慮できない人物はアウトだ。ここは外せない。ましてや集団生活する訳だし。


「ちょっと声が五月蝿いわね」


 静かにしていたベステルタが不快感を表している。ほら、こりゃもう無理ですよ。親愛なるベスがそういうなら、皇帝にもNOを突きつけるよ。 


「雇えよーっ……あああっ!」


 ばちばちっ。


 ハルクリフトさんの時より、控えめの電流が走った。蹲って涙目で僕を睨む。う、ちょっと嗜虐心が刺激される。でもだめだ。我慢。


「ジャンゴさん、お願いします」


「畏まりました。当店としてはお勧めの人材だったのですが」


「そうなんでしょうが、相性が悪かったようです」


 ジャンゴさんは苦笑して、恨めしそうにこっちを見るシャズスさんを引っ張っていく。


 そして残るは二人。


 マイア・ベズナとルーナ・クレース。


 この二人がここまで残ったのは共通点がある。


 それは「マイナス要素の少なさ」だ。


 普通に思うかもしれないが、大事なことだと思う。確かに時には尖った才能を持つ人が必要なのは理解している。でも、いくら才能があっても凶暴だったり、デリカシーが無い人と長時間いるのは辛い。


 それにさっきも言ったけど、集団生活を送るんだし、チームでも動く可能性が高い。やっぱり性格的に大きなマイナス要素が無い人で構成されていてほしい。


 それでこの二人のどちらかを選ぶ訳だけど……。


「マイアちゃんおっぱい大きいなあ」


「えっ」


「いえ、何でもありません」


 おっと本音が。げふんげふん。


 正直、マイアさんは残っているけど護衛としては頼りない。家事ができるのはありがたいけど、それなら初めから家政婦の条件で募集するしなあ。おっぱいは大きいけど。


 仕方ない、諦めるか。大事なカリンや子供たちを守ってもらうんだ。私情は挟めないな。


「マイアさん、今回はご縁が無かったということで……」


「そ、そんなっ! 私一生懸命働きますっ! お願いしますっ!」


 悲痛な声で必死に訴えるマイアさん。涙目だ。うう、申し訳無い。一応ジャンゴさんにも確認するか。


「彼女のような人材って貴重ですか?」


「いえ、牛人族の在庫はダブついています。彼女の特徴は牛人族の特徴ですので、付加価値がある訳ではありません」


「うう……」


 うっわ、非情な言い方だなあ。僕の訊き方もストレート過ぎたかもしれないが。


 マイアさん、うつむいてしまったよ。


「それに牛人族はよく食べるのでコストが嵩みます。特にこの者はとりわけよく食べますから」

 

 うおい、もしかして体よく厄介払いしようとしたな? マイアさんが恨めしそうにジャンゴさんを睨むがどこ吹く風だ。そんなんで購入する人いるのか?


「その分お安くはできますし、協調性や愛想の良さは申し分ありません。力持ちで体も頑丈です。我慢強く不平不満はあまり言いません。労働力としては申し分ないかと」


「そ、そうですよっ! いくらでも働けます! 夜もたくさんご奉仕できます!」


 うっ、それは魅力だが……。


 それでいいのか? 根っからの奴隷根性、搾取マインドだな。そりゃこっちから見たら都合いいけどさ。


「いかがですか? 今回は初回と言うことでお安くしておきますが」


 価格交渉してきたが応じるつもりはない。衝動買いしてしまうと後で後悔するからね。相手が人なら同然だ。長期で契約するつもりだし、人生をいくらか預かるんだから。妥協で選ぶのは相手にも悪い。ということでマイアさんは諦めよう。


「申し訳ありません。マイアさんの購入は見送ります」


「左様ですか」


 そう言ってマイアを引っ張り奥へ連れていく。絶望的な表情だ。何か事情があったのかな。申し訳無い。


 さて、残るはルーナさんだけど………。



「おっ、お乳出しますからっ!」



 突然マイアさんが叫ぶ。


 え、今なんて言ったこの子。


「お乳出しますっ! どうぞ飲んでくださって構いません! 飲み放題ですっ! だから買ってくださいぃっ!」


 ふむ、言い値で買おうじゃないか。いくらだね。


「お前は何を言っているんだ?」


 ジャンゴさんが困惑気味にマイアさんに尋ねた。


 ……ハッ、危ない。あまりのことに理性が飛んでいた。まてまて、待って。ちょっと整理させて。え、何、僕合法授乳プレイできるの?


「ジャンゴさん、意味が分からないんですが」


 平静を装って訊いてみる。


「……牛人族は文字通り牛の特性を持っていますから、個人差はありますが乳を出すことができます」


 ま、まあよく考えればそういうこともあるか。獣人だもんな。


「え、でもそれを飲むことは普通なんですか?」


「いえ……幼児が飲むことは普通ですが、成人した男性に飲ませるのは異常です。それにこの者はよく食べるからか普通の牛人族より出す量が多く、始末が大変な欠点があります」


 いやそれ僕にとってはメリットだけど。


「異常じゃありませんっ! 授乳を好む人間がいると聞いたことがあります! あと村で、過去に牛人族の乳を飲んだ人族が英雄になったという言い伝えもありますっ」


「そんな性癖倒錯者はごく一部の事例だ。お客様に失礼なことを言うな!」


 倒錯していてすみません。


「いたいっ」

 

 ばちばちっ、っと電流が走ってマイアさんがうずくまる。うーん、心が痛い。やっぱ慣れないな。


「ジャンゴさん、その辺で」


「失礼しました。うちの奴隷が飛んだ粗相を……。あとで厳しくしつけておきますゆえ」


「いえいえ、どうぞお気になさらず。今のお話を聞いて少し思い直しました」


「本当ですか!?」


 たぷんたぷんのうしっぱい。しかも夜伽OKでお乳飲み放題。こんなの買えってことだろ。神の啓示だよ。


「よ、よろしいので?」


 ジャンゴさん少し引いている? おいおい、僕だって貴方の性癖に引いているけど態度に出していないんだから尊重し合おうよ。


 でも一応建前を言っておくか。


「はい。実は赤ん坊が多く生まれるかもしれないので、常に乳を出せる者がいると有難いのです」


 いつかは分からないけど事実ではあるからな。


「さ、左様ですか。ベズナ、乳は日常的に出せるのか?」


「問題ありません! びゅーっびゅーっ出せます! 栄養たっぷりですよ。そ、その赤ちゃんだけじゃなくても大丈夫です。責任とって頂ければ……」


「こら、お客様に我侭を言うな!」


 また電流を走らせようとするジャンゴさんを制止する。


「まあまあ、気にしないでください。それで責任って? 結婚するつもりは無いよ?」


 そこら辺は亜人たちとカリンで既にいっぱいだ。ていうかそれって結婚になるのか? まあよく分からない。気持ちの問題か。 


「もちろんそんな大それたことは言いません! ……その、一つだけ。ごはんをたくさん食べさせてくださいっ! 私、村からごはん食べ過ぎるって言われて追い出されたんです! お願いします! もうお腹きゅうきゅうしながら狭い部屋にいるのは嫌なんです! ごはんたくさんくれたら何でもします! お乳で還元しますからっ!」


 それが一番の望みか。


 そして土下座。綺麗な土下座。すごい、人って食欲でここまでプライド捨てられるんだ。むしろここまでプライド捨てられる人って貴重な気がする。恥を投げ捨てて欲望に生きられるのって凄いことだよ。謎の感動を覚えてしまった。


「……カリン、家事出来る人が増えたら助かる?」


「はい。正直なところかなり助かります。わたくしは子供たちの世話がありますし、この先も奴隷を購入されるんですよね? であれば護衛奴隷専属の世話人がいても宜しいかと」


 あ、その観点は抜けていた。確かにそれは必要かも。いいアイデアだな。


「さすがカリン。その考えは抜けていたよ。ありがとう」


「それはようございました。……ただ、申し訳ございません。わたくしはもう少しかかりそうです。ご満足頂けず申し訳ございません」


 カリンは悔しそうにおっぱいをぷるんぷるんと寄せ上げる。


「い、いや大丈夫だよ。ゆっくりで」


「格別のご配慮、感謝致します」


 格別の配慮なんてしてないよ? ていうかもう少しかかるって……やっぱそういうつもりなのかな。あー、誰かに相談したい。 


「それではご購入頂けるので?」


「はい、購乳します」


「ありがとうございます! マイア一生懸命働いて、ごはんたくさん食べて、ご主人様の為だけに美味しいお乳出しますね!」


 あまり大声で言わないで欲しい。


「牛人族の乳って美味しいんですか?」


「……私には分かりかねます。でも美味しいならもっと人気なのでは?」


 こっちに振るなよって顔しないでよ。


「美味しいですよ! 甘さの中に深いコクと若干の苦みと酸味、複雑な味わいですっ」


 コーヒーかな?


 心外そうなマイア。ええ、自分で飲んだことあるの……? 永久機関じゃん。ていうか人の乳って要は体液な訳だから……。うん、倒錯しているな。


「カリン、ここで聞いたことはシルビアとかに言わないでね」


「畏まりました」


 カリンにも口止めしておく。既に好感度下がっているのに、こんなこと知られたらマジで気持ち悪がられるよ。かと言って自重しないけど。カリンは何でも許してくれるからありがたい。ダメ男製造シスターだな。


「ケイ、まだかかりそう?」


 ベステルタが言葉が分からずちょっと退屈そうだ。むしろ分からないでいてくれて良かった。これは一人でも知らない人が多い方が良い。


「お買い上げ有難うございます。いろいろとこちらの不手際がありましたのでお安くします。それで、ルーナ・クレースは如何しますか?」


 そうだ、まだルーナさんがいたんだった。この喜劇の中、ぴくりとも笑わず微動だにしないで直立を続けている。瞳に感情が見えない。マイアと対照的すぎる。ただ、僕はもう彼女を購入するつもりだ。その上でもう少しいろいろ訊いてみよう。

いつも読んでくださりありがとうございます。

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[良い点] 面白い! [気になる点] 面接が必要なのはわかるけど、どうして奴隷は1人しか雇わないの? 1人だけだと護衛役の奴隷は休みなしで働く事になるよ? それこそケイの嫌いなブラック企業まっしぐらな…
[一言] さりげなく「購入」が「購乳」になってるところがあってジワるw
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