異界の愛斧家
スラムの人たちに炊き出しをした後、プテュエラと空デートの約束をした。よく考えると結構すごいよね。この世界のことはほとんど知らないし、いろんな景色を見たい気持ちはある。あと純粋にプテュエラといちゃいちゃしたい。あ、ベステルタたちにもあらかじめ言っておかないとな。前みたいに機嫌損ねちゃうかもしれないし。
炊き出しをしている時、暗い顔の獣人の男の子がいるのを見付けた。
「どうしたの? ご飯口に合わなかった?」
ニンニクたっぷりでくっさいからな。子供にはキツすぎたのかもしれない。
「ううん……」
男の子の食器は空だ。あ、よかった。ニンニク最高だよね。でもそれならなんで悲しそうなんだろ。
「お母さんがびょうきだから、たべさせてあげたいなっておもったの……」
男の子は泣きそうな声で言った。
「そっかあ」
そっかあ。
やっぱそうだよなあ。フェイさんも病気が蔓延しているって言ってたし。そうだろうな、とは思っていたけど。
「私のことはいいからたべてきなさいって……」
ぐずぐず、とみるみる内に目に涙を溜めていく男の子。僕は無言でそれをハンカチで拭く。
治療することはたぶんできる。浄化スキル使えば問題ないはずだ。あれは傷を癒すことはできないけど、病魔に対して特効がある。実はカリンやザルドたちがけっこう元気なのも定期的に浄化していたからだ。結構悪い病気にかかっていた子もいたから焦った。だから実績はある。
でも、その力を衆人の目の前で使っていいものなのか?
人をたくさん殺せる力。
人をたくさん癒せる力。
どっちがより厄介事を生むか。それは火を見るより明らかだ。だから僕はなるべくこの力を秘匿したい。というか公に晒したくない。
僕だけの迷惑ならいい。でも僕の力を求めた人たちがカリンやシルビア、ゴドーさんたちにまで押し寄せて、迷惑がかかるのは嫌だ。
「おかあさん……」
それでも目の前の子供は泣いてしまっている。
どうすればいいんだろう。
あーもう、わからん。
こっそり治すのはどうだろう。……いや、だめだ。それだと時間がかかりすぎる。フェイさん、毎日死者が出ているって言ってたし。僕の都合で救える人が救えないなんて、馬鹿みたいだ。
「はあ」
「ケイ、どうしたの? その子泣いているわよ?」
ベステルタがため息を吐いた僕を気遣ってくれた。男の子を抱き上げて慰めている。うーん、ナチュラル母性全開だ。
「いや、その子のお母さんが病気みたいでね。どうしたもんかなと」
「治してあげたらいいじゃない」
さも当然のように言った。いやその通りなんだけどね。
「そうなんだけどね。でも病気を治しまくる人間なんて絶対目立つよ。周りにも迷惑がかかる」
「ああ、そういうこと。気にしなくていいわよ。そんなもの、わたしたちが踏み潰すわ」
自信満々に言い切るベステルタ。わお、頼もしい。でも、モヤモヤが残る。
「……そんなに心配ならシュレアに訊いてみたら?」
それはいいかも。シュレアにも訊いてみよう。彼女はこういうの得意そうだしね。
『シュレア、今ちょっといい?』
『……何ですか。今温泉湖で入浴中なんですが』
シュレアってよくお風呂入っているよね。しずかちゃんかよ。
『ごめんね、ちょっと悩んでてさ』
『……ふむ、分かりました。話して下さい。リンカ、少し待っていて下さいね』
リンカもいたのか。申し訳無いな。
それで今朝からの流れと、スラムの人たちをどこまで助けるべきかを相談した。
するとシュレアはきっぱりと言った。
『結論から言います。ケイのためにも彼らを助けるべきです』
僕のためにも? どういうこと?
『そうですね……。まず、ケイが行ったスラムの人々のジオス教への入信。これは非常に良い一手です。メリットは言わずもがなでしょう。
そして、コスモディアポーションの製造もうまくいっているとのこと。しかし、アセンブラ教会との対立は将来的に必至。その時、必要なのは大衆の力です。世論を味方に付け、大義を得るのです。そのためにも彼らを助け恩を売っておくのは非常に有効でしょう』
恩を売るって大義を得るため、と彼女は言い切った。
そうか……言われてみれば重要だ。一人の力は小さくても、たくさんの声というのは大きな力になる。地球での歴史がそれを証明している。
『もしスラムの人々が裕福になったらそれだけケイの力が増すことになります。彼らの中から有能な人材出てきた時、必ずケイに感謝するでしょう。そしてケイの力が増すことに繋がります。言わばこれは投資です』
投資。そうだね。投資か。そう割りきってしまえばいいのかな。モヤモヤは残るけど。
『というのは建前です』
ずっこけそうになった。思えばシュレアもずいぶん話してくれるようになったよな。
『ケイは自由にすればいいんですよ。自分でそう言っていたじゃないですか。
外敵はシュレアたちが排除します。悩みがあれば一緒に考えます。その代わり最後まで責任を取ってください。誰かの人生に干渉するなら、その行為に責任を持ってください。ケイは、自由と無責任をはき違えた、野良の魔獣とは違うでしょう?』
シュレアの声がすっと心に入ってくる。
そうだね。そうだった。
僕はこの世界に来て、自由にやってやると決めた。美味しいもの食べて、めっちゃ可愛い亜人と繁殖して、目の前の泣いている人を助ける。なぜならそうしたいから。しがらみとか、ルールとか、そんなのは気にしない。縛られたくない。迷惑がかかるなら、かからないように立ち回ればいい。自分で思い付かなければ、頼りになる亜人に相談すればいい。
そうだな、そうしよう。最後に責任を取る。それだけは忘れずに、自由を謳歌しよう。そう決意するよ。
『わかった。ありがとう、シュレア。助かったよ』
『シュレアはケイの契約亜人ですから当然の事です。この程度入浴しながらでもこなせます』
実際入浴中だから説得力がすごい。
『しかしジオス教徒が増えるとなると、今の拠点では遠すぎますね……移動を考えるべきか……新たな拠点候補は……』
何やらぶつぶつ言い始めた。こうなると長いんだよな。
『シュレア?』
『む、少し考えたいことがあるのでこれで失礼します。また何かあれば呼んでください。では』
『う、うん。ありがとうね』
何か思い付いたのかな? いずれにしろ彼女に相談してよかった。
「よし、ベステルタ。決めたよ。病気の人を助けるよ」
「ふふ、そうよ。それでこそわたしの契約者。細かいことなんて気にせずやっちゃいなさい。起きるかも分からないことに気をとられ過ぎよ」
そうだな。その通りだ。
よし、浄化する前に久しぶりにステータスを確認しよう。
「ステータス」
氏名 種巣 啓
レベル 75
体力 300
魔力 350
腕力 320
精神 98
知力 180
器用 220
・スキル
生活魔法
料理術(Lv5)
繁殖術(Lv5)
・固有スキル
練喚攻・一層(常時発動)
賢樹魔法
殲風魔法
地毒魔法
千霧魔法
言語理解+
頑健(Lv8)
浄化(Lv5)+
・称号
亜神の使徒+
深ナル者+
異界の愛斧家+
……薄目で見ても、遠くから見ても変わらなかった。
また訳分からないことになっているな。
えーっと、レベルは75だから、たぶん20くらい上がっているのか。で、体力魔力腕力がオール300超え。最近は魔法を練習していたから気持ちそっちの方が高い。ていうか比較対象がいないから何とも言えないんだけどね。早く冒険者ギルドで調べたい。
スキルは大きく変わっていない。繁殖術も順調に伸びていて何より。これまだ上位スキルあるんだろうか。そうしたらどうなっちゃうんだろう。
固有スキルも大きく変わっていない。練喚攻が常時発動になっている。前は発動中だったけど何か違うのかな。
「で、浄化の後ろに+がついているのはなんでだろう……」
そう思ってそこに意識を向けると、うわっ、文章が表示された!
『浄化Lv5
対象範囲を指定して広域浄化が使用可能。
効果対象 汚れ 毒素 病魔 精神汚染 腐食 呪い』
なんだこれ。ここに来て初めて詳細な情報が出力された。広域浄化ってまさしく今必要なものじゃん。しかも効果対象こんなにあったのか……。毒素と病魔しか試したことなかったよ。めちゃくちゃ便利だったんだな。どこかでちゃんと研究しないと。シュレアに手伝ってもらおう。
あ、待てよ言語理解にも+が生えている。確認しよう。
『言語理解
あらゆる言語を理解し発話できる。文章も同様』
きっっっっっった!!!!
文章も理解できるようになったってことだよね! よっしゃ、めちゃくちゃ嬉しい! 今まで不便だったからなぁ。ここに来てこれはありがたい。
……ふぅ、ただその後が問題なんだよな。
これだよ。『称号』。なんだこれ。こんなの今までなかったぞ。それぞれ+が付いていて絶対続きがあるやつだ。めっちゃ気になる。早いとこスラムの人たちを浄化したいところだけど……。すまん、もっと早く確認しとけばよかった。
えっと『亜神の使徒』はたぶんジオス神のことだよね。+をクリックするみたいにに意識を向ける。
『【亜神の使徒】
亜神と人々の間を繋ぐ存在。固有スキルが強化され、亜人との繋がりがさらに深くなる』
固有スキルが強化……? ああ、もしかして言語理解と浄化のことかな。なるほど、あれは【亜神の使徒】のおかげだったのか。ありがたやありがたや。でも頑健スキル先輩に何もないのはどうしてだろうか。何か条件とかあるのかな。ていうかこれ、ジオス神がくれたのかな。タイミング的に。だとしたらやっと神らしいことしたな。
次もよく分からない。まったくヒントが無い。
『【深ナル者】
人は低きに流れるが、同様に深きに潜ることができる』
なんやねん。いきなりポエムかましてきた。どういうこと? うーん、とにかく深いところに潜れるってこと? 分からん。次。
『【異界の愛斧家】
有り余る斧への愛情を持つ者しか持てない称号。異界特有の擬人性愛を斧に抱いている変態。斧術スキルが獲得できない代わりに未知の可能性がある』
アックス、マイワイフってか。うるせえ、これ絶対ジオスだろ。誰が変態じゃ。出てこいこのやろう。絶対復活させて一発殴ってやる。これは決意表明だ。
くそ、疲れた。こんなことしている場合じゃない。早く浄化してさっさと帰ろう。なんかどっと疲れた気がする。
いつも読んでくださりありがとうございます。
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